第二十三話 プロローグ モデルの影響力
8月も下旬、ふと空を見ると入道雲が西の山の上空を漂い空を暗くしていた、冷気混じりの風が丈長のスリットワンピースの裾をフワッと揺らしている
もう時期雨くるかな・・とりあえずどこか屋根あるところで待たせてもらおう
吹き抜ける風が街路樹をザワザワと撫でていく
歩く足取りが自然と早くなり、被っていた麦わら帽子が飛ばされそうになって慌てて手で押さえる
少し顔が見えたのか、通りすがりの大人女子が驚いたような表情をしている
それをスルーして店の前まで来ると、雨粒が白い腕に当たり次第にバチバチと音を立て雨が降り出した
用事はないが店に入り、店員さんの挨拶に少し心苦しくなりながら、そそくさと店の一番奥の試着室の脇へと移動した
一息ついて廻りを見ると壁のあるものに目が留まった
ブラウンのシックなスリットワンピースに身を包み艷やかな髪を手ぐしでたくし上げて妖艶な微笑みを浮かべているイメージポスターの中の女子
それを見ている女子がなにやら話をしている
「ねぇ!先月の夏祭りのイベントのモデルさん見た?この娘だよね?」
麦わら帽子で顔を隠しながら聞き耳を立てるボク
「みたみた!スッゴい可愛いよね!ここのブランドのポスターもやってたんだね!凄いな〜!雰囲気全然違うし大人って感じだよね?私もこんな風になりたいよ〜」
それを聞いて更に深く麦わら帽子で顔を隠すボク
ヤバいとこ入っちゃったな・・
あの写真、この店のイメージポスターだったのか・・
何という偶然・・
顔を麦わら帽子で隠しながらボクはソロリソロリとポスター女子達の近くを離れようとしたところで聞き覚えのある声で話しかけられた
「akiさん??来てくれたんですね!!あの完成したポスター見てくれました?評判も良くてお客様の問い合わせも凄いんですよ!売上もお客様も増えて今度雑誌で取り上げて貰えることにもなったんです!akiさんには感謝です!!」
ショートカットとパンツスーツがよく似合う女性、ファッションブランドのLISA・RIZの広報の若里さんが興奮気味にボクに言う
その声が聞こえたのか、ポスター女子達もボクの存在に気付いて遠目で痛いほどの視線を送っているのが見えた
「あ・・はい・・!いやいや・・評判が良くて何より・・あの・・」
とボクがいいかけたところで若里さんがかぶせ気味に話してくる
「そのワンピース撮影の時akiさんにプレゼントしたものですよね!ポスターと同じ服装でご来店頂けるなんて!!やっぱりモデルさんですね!プライベートの着こなしも見とれちゃいます!」
身元もバレて顔を隠すのも失礼だと思ってボクは麦わら帽子を取って若里さんに顔を見せて話しだす
「ボクだってよくわかりましたね・・顔も隠れるようにしてたのに・・」
そう言ってサラサラストレートな髪を手ぐしで軽くなびかせてやる
フワッとフローラルな香りとともに柔らかな弧を描きながらボクの肩口にサラッと着地して落ち着く
ポスターと似たポーズをしてしまったことで、周りのお客女子達もボクに気づき始め
ヒソヒソ声が大きくなり黄色い悲鳴に近い声があがり始めていたが続けて若里さんがボクに喋り始める
「akiさんは他の方と比べたらオーラが全然違いますから!それに私、akiさん信者ですから!すぐわかりますよ!」
自信満々に言う若里さん、ジト目でボクは若里さんを見つめる
それに気付いた若里さんは慌ててボクに話しだす
「あっ!ごめんなさい!大きい声出しすぎました・・プライベートですもんね・・あの・・akiさんさえ良ければこちらでゆっくりと商品を見て頂ければ・・」
そう言うと若里さんが店の奥へとボクを案内し始めた
ボクはお客女子の黄色い声を尻目に若里さんについていくことにする
すれ違いビックリする店員さんに挨拶をしてボクは店の一番奥の個室へと案内された
雨宿りのつもりが・・・
とりあえず店入っちゃいましたなんて言えない・・・
ここはとりあえず話を合わせて・・
ボクがそんなことを考えていると笑顔の若里さんが聞いてきた
「先程はすみませんでした!周りも考えずに大きい声を出してしまって・・ここは当社のVIPルームになっておりますからどうぞゆっくりと買い物をしていってください!」
若里さんがそう言うと何人かの店員さんがボクのところへ来て用件を聞こうと待ち始めてしまう
ボクは呆気にとられしまったが仕方なく話し始めた
「あの・・ワンピースに合わせるトップスを見に来たんですけど・・・」
苦し紛れにそう話すボク
ボクの要望にすぐさま動き出す店員さん
出されたオレンジジュースに口を付けようとしたところでこの店のあらゆるトップスがボクの前に列んでしまった
こ・・怖いよぅ・・
ボクVIPじゃないよ?
高校2年生だよ?
ブランドポスター作っただけなのに・・
やりすぎだよぅ・・
雨宿りも忘れ、その場の雰囲気に飲まれつつあるボク
VIP待遇初体験で身体がフルフルと子鹿のように震えてしまう
そんなボクを見て若里さんが気を利かせたのか話してくる
「お寒いですか?エアコンの温度上げさせていただきますね!こうも土砂降りだと気温も下がってワンピースの上に何か羽織りたくなりますもんね!さすがモデルさんですね!天気を予測して当ブランドのトップスをお探しに立ち寄られるとは!」
大きな勘違いでボクをVIP扱いしてくる若里さん、小さな適当さ加減で震えることになったボク
ボクは引きつり気味の表情で列べられたトップスをとりあえず一つ一つ見ていくことにした
暫く見ているとボクの悪い癖が少しずつ頭を出してくる
このノースリーブカッコいいなぁ・・このワンピースのシックな雰囲気にはピッタリだ
でもこっちも捨てがたい・・薄めの生地で秋にも着れそうだしパステルブルーが爽やかでボク好みだな
完全に店員さんを放置して服選びに没頭してしまうボク
試着を勧めてボクの着こなしに感動する店員さん
妖艶の魔術にかかったお店LISA・RIZ
ボクは服を選びながらほんの数週間でモデルとして活動する事になった出来事を思い返していた




