第ニ十二話 妖艶の魔術師
吸収期女子編完結です
ブースの横でボクは出番を待っている、眼前ではブースで同じ場所にいた9名のモデル達がステージ上を歩き、笑顔を振り撒き、夏の夜の風情によく似合うポーズをステージ中央でとる
素人とは違う、計算された動き、その笑顔でさえ緻密に錬られたモデル女子の作戦
お互いがお互いの足を引っ張らないよう、でも確実にそれぞれがダメージを負わせるような優しい眼差しの中の野獣の様な危険な光
あの緻密な作戦の中の少しの間でモデル達はそれぞれを蹴落としにかかっている、それはモデル男子側も同じなようだ
「千秋さん・・やっぱりプロはすげぇな・・迫力が全然違いすぎる・・」
ボクの隣で険しい顔をしたリキが呆気にとられている
だがボクは穏やかだ、リキの緊張を解そうと話しかけた
「大丈夫だよ、リキ君と私なら・・あんなふうにしなくても自然体でいればいいよ?」
そうボクが言ってやるがいまいち緊張の解れないリキ
ボクはニヤッと笑顔をリキに向け、手を握ってやる
「私とじゃ楽しくないかな?リキ君はなんにも心配しなくていいよ、いざとなったら私がリキ君をフォローしてあげるから」
びっくりした表情のリキだったが、ボクのその言葉に繋いだ手から緊張が和らいでいくのがわかった
今日のボクの一味違う雰囲気からリキもボクの内面の変化に気付いているようだ
リキは信用してくれたのか、ボクの手をギュッと握り返してくれる
そんなやり取りをしていたボクに出番を知らせるスタッフが行け!と指で合図をした
それを見てボクもリキに合図をする
「よし!リキ君行くよ?笑顔でね!」
そう言うと、繋いだ手を恋人繋ぎに握り直してボクはリキとステージに出ていった
眩いほどの照明、夏の夜に相応しい音響、そしてボクを見ている観客とイベント関係者
その瞬間、ボクと若かりし日の千夏の意識が重なりボクの表情が変わる
ふふ・・みんなが私に注目してる・・
いいわ・・最高のステージを魅せてあげる
そして笑顔にしてあげる・・
照明が私を照らす、それに合わせ目に添えて横ピースを客席に向けてニコッとほくそ笑む
緊張の解れたリキが半歩私の前に出て笑顔で私をリードする、それに合わせて笑顔とウインクをかましながら観客に手を振ってその場でクルッと一回転
浴衣の上品さを思う存分見せつけてイタズラっぽい表情で投げキスを繰り出す
そのまま笑顔を客席に向けながら反対側まで歩く途中でリキの足がもつれ、下駄が脱げてしまうが、私はあえて両手を口に当てにこやかな笑顔を客席に魅せる
ハプニングも味方に私は片足づつ下駄を脱ぎ捨て、客席にテヘペロをお披露目する
気を取り直し、リキと二人で見つめ合いながらゆっくり反対側まで移動するとクルッと、リキと背中合わせになって腕組みをしながら客席に向って色気のある微笑を魅せてやる
私の誘惑に観客達の表情が変わってくる
私の姿を舐めるように見つめてくる観客達それに応えるため、端から端までにこやかな笑顔を振り撒き手を振ってやると一瞬にして観客達は嬉しそうな顔を見せる
スキを見て私はスッとお淑やかな表情で客席をチラッと見ながらゆっくりとステージ中央まで移動しリキと向かい合う
クルッとリキは回転するとステージギリギリに跪き少しだけ離れた所から私にスッと手を伸ばす、それを見届け私はその場でクルッと笑顔で回ってからその手に私の腕を伸ばす
白く細い指先を彼に向け、よく手入れされたピンク色のネイルが妖しく輝く
艶やかなイエローの浴衣を纏った女がそよ風に吹かれ、前髪が薄紅色の唇を撫でていく
撫でる前髪を片手の指先で制すると、小さく円を描いて白い指先で遊んでやった
そしてそのまま私は彼を見つめニヤッととびきりのほくそ笑みを向けてやる
それは妖艶な微笑み・・目を細めイタズラっぽい表情の中に艶かしさと色っぽさ、そして美しさを含んだ私だけの微笑み
そう、お母さんが幼い私に見せたほくそ笑み、お母さん譲りのほくそ笑みこそ私が皆を笑顔にできる最大の武器・・
私の最後のほくそ笑みとともに、ステージ上の音響が止まり、フラッシュが絶え間なく私に降り注ぐ
赤く頬を染めるリキと観客達
呆気にとられるモデル達と審査員
私の妖艶の魔術によってその場が一時の静粛に包まれた
皆が魔術によって私に酔いしれる、男も女も目を見開いてただ一点を見つめている
その刹那、静粛は特大の打ち上げ花火によって破られる、皆の歓声が花火と共に大きくなっていく
私が目線を移すと観客達は皆笑顔で私に歓声と拍手を贈ってくれていた
私は自然とその歓声に応えるようにニコッと微笑を向けて大きく手を振った
脳内が痺れる・・見ているものが段々と私の視界から薄れていく
私は最後まで皆に手を振りながらステージを降り、暗闇の中に消えていく
「おーい千秋さん?おっ!みんな!気がついたみたいだ」
リキが呼んでる・・なんだ?
ボクが目を開くとリキが心配そうな顔でボクを覗き込んでいる
その顔を見てボクはキョトンとしながらリキに話す
「どうしたの?ボクの顔なんかついてる?」
その言葉にリキはホッとしたような表情、周りを見るとモデル達もなぜかボクを心配していたような雰囲気だが、ボクの今の言動にビックリした表情だ
「違うよ千秋さん、千秋さん最後のキメポーズの後、様子がおかしかったから、そしたらステージ降りたとたんに急に倒れこんだんだ」
ほう・・無敵のボクが倒れた・・?
言われてみればステージ降りる手前くらいから記憶が曖昧なような・・
顎に手を当てて難しそうな顔をしてやるボク
そんなやり取りをしていると、ボクに突っ掛かってきたセミプロモデルがボクに急に抱きついてくる
「お姉さま・・!心配しました!急に倒れちゃうんですもん!」
ボクの胸に顔を埋め、ブンブンと顔を振っている突っ掛かりセミプロモデル、周りのモデルもそれを見て引いている
そんな突っ掛かりセミプロモデルをボクも引き気味に見ているが、お構いなしにボクに話をしてくる
「結月感動しました!お姉さまのステージにジンジン心が揺さぶられちゃって!千秋お姉さま!さっきはゴメンナサイ!結月と仲良くしてください!」
おいおい・・態度がさっきと違うじゃねぇか・・それにお姉さまって・・歳なんかボクとそんなに変わらないんじゃ・・
なんなのこの娘??
ボクの引き顔も板に付いてきたところで更に突っ込んで話してくる結月
「あんなに真剣に結月を叱ってくれたの千秋お姉さまが初めてなんです!お姉さまをステージで見て、モデルとしての力量の無さを痛感しました!それで結月考えたんです」
ボクに考えを語らなくていい・・!
自分のこと結月って呼んでる時点でアブねぇニオイがするからな・・
まぁボクも自分のことボクって呼んでるから人のこと言えないが・・
そうこう考えてるうちに結月がトドメの一言をボクに放つ
「結月、千秋お姉さまに一生ついていきます!お姉さまのモデルとしての生き様を見て結月も学びます!お姉さまと一緒にトップモデル目指します!!」
ボクはモデルをやるとは一言も言ってないぞ・・
ていうか、たまたまこうなっただけなのに・・
くそっ!こうなったのも全部アイツのせいだ!!
おのれ・・!アホ若槻め〜!!
面倒くさいことにこのボクを引き込みやがって〜!!
ボクはフルフルとこぶしを揺らし次は絶対にアホ若槻のお願いは聞かねぇぞ!と心に誓うのであった
続編を書くか迷っています
皆様の感想、レビュー等頂ければ参考にして続編を出すかもしれません
私自身も小説初心者なので是非最後まで読んだ感想をお聞かせください
よろしくお願いいたします
最後に、拙い文章にここまで付き合って頂きありがとう御座いました
次回作があればまた応援よろしくお願いいたします




