第ニ十話 千秋の魔力
沢山のカップル達が湖のほとりに集まっている
元々の芝生を大いに利用した天然の特設ステージは若いオーラに満ちあふれて活気づく
ボクはリキとステージの前まで来るとイベントパンフレットを受け取ってステージの灯りの近くで内容を見て見る
一般の部 19時30〜
カップルならどなたでも参加可能
[締め切り19時まで]
プロのカメラマンが男女一緒の写真と女性側が男性側に向ける表情をセットで撮影いたします
このパンフレットに添付済み投票用紙にどの組が1番良かったか記入して受付前の投票箱に投函してください
当日集計後、ナンバーワンカップルには表彰状と景品を授与致します
[イベント内での撮影は許可いたします]
モデルの部 20時〜
毎年恒例の審査員が厳選したモデル達の夏の宴
【夏の日の彼に向ける可憐な彼女の笑顔】
来月発売ファッション雑誌ダブルエイティーン内にて審査結果を発表予定
【撮影は専属カメラマン若槻直樹※一般の撮影はご遠慮下さい】
尚、本日撮影した写真につきましては来月発売のファッション雑誌ダブルエイティーンに掲載させて戴きます
・・・な・・なんだと・・?!
リキから情報は少し聞いてたとは言え、これはとんでもなく話が大きくなってるのでは・・流れに身を任せすぎたか・・!?
こんなにちゃんとしたヤバいイベントとは聞いてない・・
ていうか・・雑誌に載るだと!?
若槻め!ボクを騙しやがったな!?ただ写真を取るだけみたいな事抜かしやがって!
だが!今日のボクは一味違うぞ?
なんと言っても完全体女子に変身しているからな!
こうなったら全力で勝ちに行ってやる・・!
男も女も全てボクの魅力に取り込んでやる!
ざまぁみやがれ!アホ若槻め!!
ボクの頭の中の住人、男のプライドとボク女子の融合体
脳内で完全に覚醒したオネエのプライド、略してオネプラちゃんがボクの女子力を鼓舞している
パンフレットを持つ手がフルフルと震えボクがニヤッとほくそ笑んでやったところでリキが智秋と紗良を見つけ二人に駆け寄っていった
ハッと我に返ったボクも歩きながら後を追うと、智秋に満面の笑みを向ける紗良が受け付け横で話をしている
ボクにはそんな笑顔向けたことないのに・・女帝め・・やはり女子だな!
と思ったがとりあえず澄ました顔で紗良に話しかける
「紗良!嬉しそうな顔しちゃって!女子の顔だねぇ?」
それを聞いた紗良がいつもの顔になってボクに言う
「お互い様でしょ?それより千秋の変身ぶりも凄いね?その気合の入った格好・・千秋もイベントに出るんだ?」
ボクは一瞬言葉に詰まってしまった、なぜなら紗良に今日の事情を話してない・・というか話しそびれた
あの時の男に誘われてイベントに出ることになっちゃった!しかも観客に観られる方なんだ!とか言ったら、絶対ホイホイ男についていきやがって!とか言われるに決まってる
そう考えたボクは、紗良には口が避けても言いたくない案件になってしまった
ボクは少し目が泳いでしまったが、完全体女子の力でそれを抑制してやる
そして紗良ににこやかに話す
「気合入れないと・・ほら!ボクこんなところまでリ・・リキ君と来れないと思って!それからボク・・イベントは・・出るよ・・?」
ボクの話を聞いて首を傾げる紗良、ジト目でボクを見つめてくる
「なんか、隠してる?ふーん・・まぁいっか、それより千秋も出るなら受け付け早く済ませたほうがいいよ?もうじき締め切りだから」
そう言って紗良は受け付けた自分の番号札をヒラヒラさせる
それを見たボクは脳内で若槻の勧誘札をヒラヒラする
そんな怪しい汗をかいたボクをみて紗良が言う
「それじゃ私と智秋は先に行ってるから、千秋も遅くならないようにね、それと・・・こっからはライバルだから容赦しないよ?」
不敵な笑みを浮かべる紗良、やっぱり女帝だ・・とか思ったが紗良は待合スペースのあるステージの奥へ智秋と行ってしまった
ライバル・・?なに、それ?
それぞれ写真を撮るだけなのに、なぜライバルなのか?ボクの知らない女子力がまだあるのか・・
と女心はまだ謎が多いなと感じてしまったボク
そんなことを考えていると、ステージ横の仮設テントから誰かがこっちに歩いてくるのが見える
ステージの照明が斑にその人影を照らす
整えられた黒髪で女子であれば皆好きそうな甘いマスク、顎下の整えた髭が特徴的な男
その男はボクの前まで来ると、静かに話しだした
「来てくれたみたいだね礼を言うよ、どうかな?この雰囲気はキミにとても良く似合うと思ってるんだ」
会うなり、キザな若槻に少し腹が立ってしまうボク
とても良く似合う?何を基準に言ってやがる?
もしや・・ボクが元男だとアンナさんに聞いて、世にも珍しい女子男として世の中に晒すつもりだな?
だが!今日はそうはいかんぞ?
なにせ今日のボクは完全体女子になっているからな!
完全体女子として世の中に晒されてやる!
絶好調な脳内のオネプラちゃんの勢いそのままに、ボクはキザ若槻に言ってやった
「よく見てますね若槻さん、そう・・今日のステージ、ボクが全ての人を魅了してあげる・・もちろん若槻さんも・・」
そう若槻に言ってほくそ笑んでやった
そのボクの表情に若槻は微かに微笑んだようにみえた
ボクは若槻に誘導され、関係者以外立入禁止のブースへとゆっくりと歩いていった




