第二話 準備
目が覚めて、はや二ヶ月・・
約二年、動かなかった身体のリハビリを毎日せっせとこなす毎日
初めはおぼつかない足取りだった僕も、今は歩く程度なら一人で出来るようにまで回復した
ふと、リハビリホールの大きな姿見鏡に目をやる
スラッとした手足に日を浴びていないせいか、透き通るような白い肌
シュッとした眉に吊り目がちでクリっとした瞳が、今のセミロングの髪によく似合っている
・・・
完全に女子だ・・・
目が覚めた日の午後、僕は病院の先生から自分の体に起こった症状を説明された
起きた頭で何を言っているかわからないところが多かったが、すぐに理解出来たことは
僕は、生物学的に女性だった
病名は【性分化疾患】
という事・・
今は落ち着いて思い返せるが、聴いた当時は気が狂いそうだった
だって・・14歳になるまで自分は男だと信じて疑わなかったから・・・
おまけに寝ていて、知らない間に年齢が16歳になっている・・・
これからどうしたらいいのか・・
途方に暮れたが、周りの助けもあり今の状況まで来れる事が出来た
ただ、問題も山積みだ、まずは僕は学校へ行っていない、しかも受験という人生の山場を寝て過ごしてしまった為に、高校に行けていない
ただ有り難いことに、智秋がいつの間にか作った彼女が理解者で、毎日夕方になると勉強を教えに来てくれる
同年代で、三水紗良と言う彼女はどうやら大学教授の娘のようだ
人間生物学が専門の父親の影響で、僕のこともすんなり受け入れてくれた
「みんなで同じ高校行こうよ!」とか張り切っている
もう一つは、身体の変化
先生の話によると、僕の身体は不幸中の幸いか、生殖機能が女性としてしっかり備わっているそうだ
なので子供も産めると言っていた
それもかなり衝撃だったのだが、一ヶ月前だっただろうか・・・
お腹の下辺りの激痛で気が飛びそうになったことがあった
あまりの激痛に、お母さんに助けを求めたらアッサリと言われたこと・・
「当たり前じゃない?あなた女の子でしょ?それは生理ってやつだね、そんな事で助け呼ばれても毎月これからくるんだから、慣れなさい」
この痛みが毎月・・
有り得ない・・・
初めてでこの痛み、毎月あったら死んじゃうよ、とか叫んでみたけど、その時のお母さんはどこか嬉しそうな顔をしてた・・
だけどそんな事は小さくもないけど、慣れればいいだけだ、もっとこの先乗り越えないと行けない事・・
それは紗良が放った言葉
「やっぱり千秋は美人よね〜、外出たら何人振り向くかな?楽しみ〜!」
とか言ってた事・・
そうか・・
見る立場から、見られる立場になるのか・・・
すでに耐えられそうもない・・
病院内で歩いていても、誰かに見られる視線は感じていた・・
始めは僕が患者だから、関係者が見守ってくれてるんだくらいにしか思わなかったのだが、この間お母さんに連れられてでた病院の庭
院内より人がいて、病院では見かけない人もいた
お母さんは気にしてないようだったが、すれ違うたびに、僕に向けられている男の視線をひしひしと感じたのだ
身を持って経験したことで、あれから一度も庭には出ていない
お母さんからは何故かしつこく散歩を誘われるが、丁重にいつも断っている
「はぁ〜・・・先が思いやられる・・」
深いため息をつき、自分の身に起こったことを少し呪った
「おーい千秋〜!」
リハビリで疲れたから、窓際のベンチに腰掛けたところで、紗良がやってきた
「今日は早いね?どうしたの?智秋はまだ見かけてないよ?」
いつもより早い紗良の登場に、少し身が引き締まる
何故かと言うと高校の夏休み前に、僕の編入が認められて、晴れて七月の半ばから高校生になることが決まったからだ
もちろん、紗良や智秋が通う同じ高校
県内でもなかなかの上位校で、編入試験は地獄だった
元々頭は悪くないから、紗良のマンツーマンの勉強のおかげで、どうやら高校二年生程度の学力がついていたみたい
事情が事情だけに、学校側も対応に苦労したみたいだが、良心的な判断をしてくれて嬉しい限りだ
「今日の目当ては智秋じゃないよ?わかってるくせに・・それより千秋!初登校は7月15日で決まったよ!」
嬉しそうに僕の手を握ってブンブンと振ってくる
「ちょ・・そこまで喜ばなくてもいいよ
そうか〜僕が高校生か〜」
しみじみと天を仰ぎながら神に感謝をする
「あっ!僕はダメだって言ったじゃん?千秋は女の子のでしょ?いい加減直さないと!」
そう言われて無理やり現実に戻される
「そうだっけ?いいじゃん僕でも・・それともボクの方がいい?ボクっ娘でも目指すかな?」
面倒臭くて紗良の注意を適当に流してやる
身体が変わったんだから、これくらい許してよ・・
「まぁいいわ!千秋!今日から初登校の日までみっちり女の作法を教えてあげる!覚悟しなさいね!」
女に作法なんかあるの?と思ったのもつかの間、ボクは紗良に引っ張られるように病室へ連れて行かれた