第十九話 夏祭りの魔法
夏祭りが終われば今年の7月も過ぎ去っていく
その締めくくりにオレは世界で一番見たいであろう情景を心躍らせながら待つ
辺りは虫の声がせわしく聴こえ、薄暗くなってきた景色に屋台の灯りが夕暮れを引き立てる
ふと湖のほとりを見ると1台の車から待ちわびた情景がやってきた
山からの涼しい風に吹かれ、湖のほとりに立つ黄色い浴衣を着た妖艶な彼女
結った髪を優しくなびかせ、微かに湖を見ながら微笑んでいる
「千秋さん・・?だよな・・?」
オレは無意識に彼女に問いかけていた
ふとオレの問いかけが届いたのか、オレの方を振り向いて無邪気な笑顔を魅せる彼女
その振り向きざまの仕草でさえ妖艶な彼女はオレの心を鷲掴みにした
少しずつ歩く彼女その立ち振舞は気品すら感じてしまう
ホントに同い年か?と疑いたくなるような妖艶さ
彼女をひと目見た道行く男達はその色香に飲まれ女達の嫉妬を買っていた
夏祭りの屋台の灯りが薄暗い道を艶やかに照らす、その道は彼女の為に用意されたステージかのように道行く人は行く手を譲った
そんな彼女が間近でオレに声を掛けてくる
「リキ君待った?お母さんが着付けうるさくて、時間かかっちゃったよ、浴衣どうかな?」
いつもならご主人様モードにボクはなってしまうのだが、今日は完全体女子に変身しているせいか顔が熱いだけで普通に会話できるボク
そんなボクの問いかけに真っ赤な顔のリキが話してきた
「一瞬誰だがわからなかったくらい千秋さん綺麗です!見とれちゃいました・・!」
その言葉にボクはイタズラっぽい顔でリキに言ってやった
「ボクとリキ君の仲なのに誰だかわからなかったんだ?見てたのはホントにボクかなぁ?」
それを聞いて慌てるリキ、それを見てほくそ笑んでやる完全体女子のボク
なんだか考える事も今日は完全体女子のように積極的だ
その証拠にボクの脳内は初めてなくらいスッキリして女子が言いそうなことがポンポン口から出てくる
今日は頭が冴えてるから、リキにとりあえずその慌てぶりを抑えてもらう
「あははっ!うそだよ?ちゃんとボクの事見てたね?どう?ボクの事もっと好きになっちゃうかな?」
ボクの言葉に真っ赤な顔がピンクになったリキ
それを見てボクは思う
可愛いじゃん・・!もっといじってやろうかな?リキ今日は特別だからね?
そう思って更にリキを攻め立ててやる
「図星な顔だねぇ・・リキ君?ちゃんとボクのこと掴まえててね?手・・握ってもいいよ・・?リキ君にならなんでもし・て・あ・げ・る・・・」
スッとボクはリキの耳元に口を近づけ優しく囁いてやった
そんなリキの荒い息遣いを耳元でボクは聴きながら微笑んでやる
それを見ていた周りの男共もボクの微笑みに射抜かれたのだろうか、トロンとした目でボクを見つめ立ち尽くしている
ふふっ・・みんなボクに見惚れてる、でもボクが相手するのはリキだけだよ?君達ごめんね?
ボクはその光景を堪能するとそのままリキの腕に自分の腕を絡ませてやる
当然のごとくわざとボクの胸がリキの腕に当たるよう力強く
その感触にリキは気付いたのか、ボクから目をそらし明後日の方を向いてしまった
あら?面白くない・・もっと素敵な笑顔をボクに見せて・・?
ボクはリキの頬に手を優しく添えてやるとそのまま強引にボクの方に顔を向かせてやる
「リキ君、恥ずかしいのかな?ボクのじゃ嫌だった?他の男子にはこんな事しないよ?キミだけ特別だからね」
真っ赤な顔のリキに顔を寄せ吐息がかかるくらいの間合いで言ってやる
これだけやって理性が保てるとは・・
流石ボクが見込んだ男子、改めて惚れ直してしまうボク
それが嬉しくて思わず笑顔をリキに見せてしまう
「うふふっ!流石だねリキ君!誘惑に負けないね?リキ君のそういうところボク好きだよ?」
そうリキに言ってみると固まったまま動かないリキ
仕方がないから無理やり恋人繋ぎをしてやって少し屋台から離れた脇の芝生にリキか持ってきていたレジャーシートを広げ二人で座り込んだ
「ごめんね?ちょっとやりすぎちゃったね?今日はなんだかみんなに見せつけたくなっちゃって・・」
照れ笑いをするボク、そのボクの声に反応してリキがようやく再起動する
「いや・・強引な千秋さんも凄く素敵だよ・・いつもと違うから・・オレ気が動転して・・らしくないよな」
そんな事をいじらしい表情で言うリキ、ボクはスッとリキの手に自分の手を乗せてやる
「さっきの続き・・今日は特別だよ?」
そうボクが言うと、先程までとはいかないが頬を赤らめるリキ、それと同時に淡い光が薄暗い景色を照らす
「わぁ!みてリキ君!花火だ!おっきいねぇ・・キレイ・・」
そう言ってボクは色とりどりの花火を瞳に焼きつける
そんなボクをみてリキがボソッと横でなにかを言った
「千秋さんの方が・・キレイだな・・」
ボクはよく聞こえなかったがイベントの時間までしばらくリキと花火を堪能してやった




