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妖奇譚~社畜やめて怪異と過ごす日々~ ※年内毎日更新  作者: Tomato.nit
第四章 巡り往くもの

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メリーさん3

――メリーさんからの電話・第三章――


川沿いの交差点。雨は上がり、街灯が濡れたアスファルトを照らしている。


「このあたりのはずだな」綾戸が呟く。夜気が冷たい。


鈴はスマホを見つめながら頷く。「反応、ここで止まってます」


「動かぬ……待っておるな」朔夜が傘をくるりと回した。


「怖いこと言わないでくださいよ」鈴が肩をすくめた瞬間、川の向こうに人影が立っていた。街灯の下、長いコートを羽織った少女が、スマートフォンを胸に抱いている。


「……メリーさん?」鈴が声をかける。


少女はゆっくり顔を上げ、金色の髪の間から、青い瞳がのぞき、笑みを浮かべた。「ああ、良かった。電波、まだ繋がってた」


「え?」綾戸が眉をひそめる。「電波?」


「バッテリー、もう残り1%だったのよ。切れたら帰れなくなるところだったわ」


「……帰れないの?」


「ええ。電波の“線”を通ってこっち側に出てきたの。昔は“電話線”ってやつね。でも今はスマホ経由。便利になったでしょう?」


「便利って言うな」綾戸が額を押さえる。「幽霊が電波に乗って移動する時代になったのか……」


メリーさんは苦笑し、スマホを掲げた。「ほら、今の怪談って“ネット対応型”にしないと聞いてもらえないのよ」


「怪異の再構築か」朔夜が感心したように頷く。


「でも、そろそろ電池が……」メリーさんが困ったようにスマホを振ると、画面の隅でバッテリーマークが赤く点滅した。「ほらね」


挿絵(By みてみん)

「とりあえず事務所戻るぞ。話は中で聞こう」綾戸が促す。


バタバタと四つの足音が、濡れた道を引き返していった。


――事務所にて――


戻ったころには、雨の匂いだけが残っていた。メリーさんはソファに座り、朔夜の入れたお茶を手に取る。「ありがとう。温かいって、いいわね」


「飲めるのか?」綾戸が呆れた声を出す。


「雰囲気で感じるのよ。電波を通しても少し伝わるの」


「その仕組み解明できたらものすごく科学の発展に貢献しそうですね」珍しく鈴がつっこむ。


メリーさんはスマホをテーブルに置き、少し真面目な声になった。「でもね、今日、誰かとちゃんと話せたの、久しぶりなの。怖がらせるつもりじゃなかったのよ。ただ、誰かに“声”を届けたかっただけ」


鈴はその言葉に頷いた。「……だから“あなたの後ろにいる”って言葉、あれ、ただの怪談じゃないんですね」


「うん。気づいてもらいたかったの。誰かが、まだこの線の向こうで頑張ってるって」


綾戸が息をつく。「……そうか。けどまあ、普通は怖がらせちまうよな」


「だから、もう少し優しい言葉にしようと思って」メリーさんがスマホを操作し、“通知メッセージの編集”を開いた。「“いま、あなたの隣にいるの”とか、どう?」


「怖い」鈴と綾戸の声が重なる。


朔夜はクスクスと笑いを漏らす。「共存の第一歩。よいではないか」


メリーさんは微笑み、立ち上がった。「ありがとう、みんな。少し元気が出たわ。これからは、怖がらせるより笑わせたい。……それが、私の“再接続”」


その瞬間、事務所の照明がふっと明滅した。次に光が戻ったとき、彼女の姿はもうなかった。机の上のスマホだけが、ひとりでに震えていた。


『メリーさんからメッセージが届きました:ありがとう。また、つながろうね』


綾戸は苦笑し、コーヒーをすすった。「……友達登録されてんの草」


鈴が笑う。「時代の波、早いですね」


「怪異も進化する時代か」朔夜が仕舞いそびれた月光の鞘を撫でる。「ふむ、次はSNS除霊の相談が来るやもしれぬ」


こんが毛布の中から顔を出し、寝ぼけ声で言った。「わらわ、もうフォローしたぞ」


三人が笑う中、スマホの画面には小さく“既読”の文字が光っていた。



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