表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖奇譚~社畜やめて怪異と過ごす日々~ ※年内毎日更新  作者: Tomato.nit
第四章 巡り往くもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/164

メリーさん 1

――メリーさんからの電話・第一章――


夜の探偵事務所。窓の外では雨が細かく降り、アスファルトを濡らしていた。時計の針は午前一時を指している。


鈴はカップに注いだハーブティーを片手に、資料整理をしていた。朔夜はソファに寝転がりながら古い新聞を読んでいる。こんはその足元で毛布にくるまり、寝息を立てていた。


静かな夜だった。


――プルルルルル。


突然、電話のベルが鳴った。古い固定電話。事務所の片隅でひっそりと存在を主張している。


鈴が顔を上げた。「こんな時間に……依頼ですかね?」


綾戸はコーヒーをすすりながら答えた。「深夜に鳴る電話でロクなもんだった試しがないけどな」


「出ますね」


鈴が受話器を取る。「はい、廣守探偵事務所です。――ええ、はい……」


一瞬、沈黙。


鈴の眉がわずかに動く。「……え? どちら様でしょうか?」


受話器の向こうから、かすれた少女の声がした。『わたし……メリーさん。いま、駅前にいるの』


鈴は目を瞬かせた。「……メリーさん?」


『うん。これから、そっちに行くの』


「……あの、どちらの“メリーさん”でしょうか?」


『私、メリーさん』


鈴が受話器を取り落とし、受話器がコードでぶら下がり、ゆらゆらと揺れる。


綾戸が頭を抱える。「だから言ったろ。深夜の電話でロクなことが起きた試しがないって」


朔夜が欠伸をしながら言う。「あるいは、新手の怪異かのう」


「やめてください、そういう冗談」鈴が青ざめた顔で受話器を見つめる。


「まあ落ち着け。メリーさんといえばあのメリーさんだろ。なんの用事かは知らんが」綾戸が立ち上がり、受話器を拾い上げた。「……もしもし? もしもし、聞こえるか?」


一瞬の沈黙のあと、また同じ声が響く。『……メリーさん。いま、コンビニにいるの』


「……おい鈴」綾戸が顔を上げる。「この近所、コンビニ一軒しかねえよな」


「え、ええ。裏手の通りの先に……」


『すぐ行くね』


電話が切れた。


沈黙。外の雨音が、やけに大きく聞こえる。


「……やっぱり、ロクなもんじゃねぇ」綾戸が呟く。


「で、どうします?」鈴が不安げに問う。「まさか、本当に来るんでしょうか」


朔夜がゆっくり立ち上がり、古びた呪符を取り出した。「メリーさんなど、枯れた都市伝説。少し遊んでやろう」


「いや遊ばんでいい」綾戸のツッコミが飛ぶ。


「最近こいつもでばんがなくてのう」朔夜が笑いながら、傘立てに鎮座する月光の鞘を撫でる。「どちらにせよ、“次”の電話を待つとしよう」


事務所の時計が一分を刻む。秒針の音がやけに響く中、外の闇は少しずつ濃くなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ