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妖奇譚 ~妖怪、幽霊、都市伝説、現世と幽世が交わる時~  作者: Tomato.nit
第二章 蜘蛛と猫と座敷童
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終幕その二

事件の後処理は警察に任せて一件落着。とはいかないのが辛いところ。


目下の課題はかなみの処遇だった。


戸籍は恐らくない。


まあ、この辺は竜胆たちか最悪、河野さんにでも頼めば同にkしてくれるとは思うが、身を置くところをどうするか。


「我らで引き取るというのが最も現実的かのう」


朔夜の提案だが、うーん。


「それが現実的だとは思うんだが、できればかなみにはこっちの世界とは一旦距離を置いて普通の人間の生活に慣れて言って欲しいんだよな」


「確かに一理ありますね。今後どのような身の振り方をするにせよ、人間社会との付き合い方や人との関わりは避けては通れませんからね」


鈴は完全に俺と同意見ということらしい。


「後は、綾戸様に幼女を養う甲斐性は残念ながら・・・」


「それを言うなよ。事実だから反論できないけどさ」


朔夜や鈴ならともかく、幼いかなみの面倒を見ていく自信は残念ながらない。


若干重苦しい空気がファミレスの個室を包んでしまう。


他にお客さんもいないし、丁度良かったから入ったここだが、結構長居してるな。


「うーん。私が引き取るのはダメかな?」


そこに予想外の助け船。


声の主は瑞希さんだ。


「私もさ、ちっちゃい頃に両親を亡くして、親戚も居なかったから、結局施設暮らしだったんだよね。


施設の人には勿論感謝してるし、育てて貰った恩もあるから、悪くは言えないんだけど、やっぱり辛いところはあるんだよね。


そんな思いをさせることが分かってるなら、協力したいな。


勿論、多少は苦労欠けちゃうこともあると思うんだけど、それでもいいなら」


そう優しく微笑んだ彼女に向かって、かなみもコクリと頷く。


「うん。わたしもお姉ちゃんと一緒がいい」


「じゃあ、これからよろしくね!」


そしてどちらからともなく、手に持ったグラスをカチンと合わせる。


グラスに注がれたメロンソーダが小さな泡を立てていく。


「あー!良かったです!では、これは我々からの餞別というかお祝いということで」


そして鈴がどこからともなく取り出したのは一枚の小切手。


そこに書かれているのは三百万というそこそこの金額。


「決して十分な額ではないですが、受け取ってください。できる限りの協力はしたいですし、何より妖怪の我々にはあまり必要ないものですから」


いや、確かに鈴には必要ないのかもしれんが、うちの家計は火の車なんだが。


「え、そんな大金貰えないって。それに、綾戸君には必要でしょう?」


「いえいえ、大丈夫です。これはあくまで、私のものです。綾戸様の分の報酬はちゃんと私が管理してますのでご心配なく」


初耳なんだが?


「そういうことなら、有難く頂戴しようかな。先立つものは必要だしね」


結局出所不明の小切手は瑞希さんの懐に収まった。


それよりも現状聞き逃せない単語が何個か出てきた。


これは私の分。


綾戸様の分の報酬は管理している。


つまりなんだ、今まで俺がほぼボランティア感覚で行っていた怪異退治にはしっかりと報酬が出ていて、


それが俺の知らないところで貯蓄されていると?


今まで少ない貯金をやりくりして、時間が余ったら日雇いバイトに精を出していた生活はなんだったんだろうか。


まあいいか。無粋な話は家に帰ってからで。話はしっかり聞かせてもらうが。


これでかなみのことは何とか丸く収まりそうだ。


しかし、問題はもう一つ。


さっきから大好物のお揚げにも手を付けずに、まるで置物のように隅に鎮座している者がいる。


勿論、コンのことなのだが。


「なあ、そろそろ機嫌直してくれよ」


「よいのじゃ。どうせ童は子供のお守りもできぬ役立たずなのじゃ。だから、そんな童を雪山に忘れていったことなんて何にも気にしてはおらぬ。


当然の報い。おかげで頭も冷えたし、童のちっぽけさが身に染みたのじゃ」


かなみと一緒に車の中に置いてきたコンだが、かなみが抜け出した後、すぐさま後を追った。


しかし、慣れ親しんだ山はかなみにとっては庭も同然。


降りしきる雪など物ともせずに、山頂への抜け道をずんずん進んでいったらしい。


小さなコンの体では追いつくことも敵わず、ほぼ遭難。


更には絡新婦の放った無数の蜘蛛の軍団からはぐれた、放浪蜘蛛に遭遇し、何とか撃退するも完全にかなみを見失った。


退くも雪。進むも雪。


完全に雪山で自分の立ち位置を見失ったらしい。


そして、タイミングが悪いことに戦場でのごたごたやこの後処理のことで頭が一杯だった俺たちは見事に車内に姿の無かったコンに気付かず出発してしまった。


「キツネさんは置いていくの?」


三十分ぐらいたったところで唐突に発せられたかなみの言葉で慌てて引き返し、山狩りを行ったところ、


すすり泣き、佇むコンを発見した。


発見当初は


「ようやく会えたのじゃ」


と嬉しそうだったが、ノワールと話を重ねていくうちに、徐々にその顔から表情が消えていった。


「童は猫以下。忘れられて当然じゃな」


その言葉を最後に完全に目の光が消えてしまったのだ。


いつもなら目の前には三秒と存在しない油揚げだが、キツネうどんが運ばれてから既に三十分以上は経過。


湯気の立っていたうどんは既に冷え切り、麺も伸びてしまっているが、油揚げは無傷で残っている。


さて、どうやって機嫌を直してもらうか。


とはいえ、頼みの綱の油揚げが望み薄となると結構打つ手がない。


「仕方ないですね。コンさん、少しお耳を拝借します」


悩む俺の姿を見かねたのか、鈴がコンに耳打ちする。


ごにょごにょと二人だけに聞こえる程の声量で何かを囁く。


鈴の唇の動きに反応するかのようにコンの耳がピクピクと跳ねる。


心なしか、嬉しそうな反応にも見える。尻尾も僅かに跳ねているあたり間違いではなさそうだが。


「誠か?約束じゃぞ?」


話の内容までは分らんが、まあコンが機嫌を直してくれるならいいか。


「という訳なので、綾戸様よろしくお願いしますね」


「いや、何がという訳なのかはさっぱりなんだけど。まあ、俺にできることなら協力するけど」


どうせコンのことだから大した要求はされないだろうし。


なんて考えていた当時の俺を軽く殴り飛ばしてやりたい。


この後めちゃくちゃ苦労することになるなんて考えてもみなかった。




これにて二部終了。


長編を書いてみたかったという安易な気持ちで二部を書いてみましたが、

中々筆が進まない部分もあり大変でしたね。


暫くは短編のわちゃわちゃした話が続くかと思います。

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