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妖奇譚 ~妖怪、幽霊、都市伝説、現世と幽世が交わる時~  作者: Tomato.nit
第二章 蜘蛛と猫と座敷童
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閑話 座敷童と黒い猫 後編

ピンポーン。


チャイムの音が響き、暫くするとインターホンから声が響きます。


「はい、どちら様でしょうか?」


「突然のご訪問失礼いたします。私、廣守鈴と申しまして、生前の高屋さんにお世話になった者です」


高屋。おじさんの苗字だそうです。


それを聞いた瞬間、ハッと息を飲む声が聞こえました。


「高屋というのは高屋信彦のことでしょうか?」


「ええ、信彦さんで間違いありません」


「・・・・少々お待ちください」


少し葛藤を感じましたが、会ってはくれるそうです。


ガチャリと玄関の扉が開き、女性が顔を出します。


人妻というには少し若い雰囲気ですね。言うなれば若妻ですね。


なんだか感想がおっさん臭いですが、基本的には綾戸様のせいなので仕方ありません。


思考回路はそんなに変わらないのです。


「あの、こんなところではなんですから中へどうぞ」


「ご丁寧にありがとうございます。では、失礼させていただきます」


そのままお家の中に案内されます。


差し出されたスリッパに足を通し、リビングへと後を付いていきます。


隣にはおじさんはふよふよと漂っています。既に泣きそうな表情をしてますけど。


「まだ泣くには早いですよ?」


「ええ、わかっていま、す」


あ、全然我慢できてないですね。


「何か仰いましたか?」


おっと、少し声が大きかったですかね。


「いえ、外が寒かったので、温かいなと」


「そうでしたか。わざわざ足を運んでくださってありがとうございます」


ダイニングテーブルの椅子を勧められたので腰を掛けると、お茶が差し出されます。


「ありがとうございます」


「ええと、高屋信彦というのは私の父のことでいいんですよね?」


「そうです。改めて、自己紹介をさせていただきます。廣守鈴と申します。本日は高屋さんの遺言でここに伺わせて頂きました」


きょとんとした顔をされますが無理もないですね。


「生前の高屋さんにお世話になったというのは既にお伝えしたかと思いますが、その時の縁で今日はお邪魔させて頂いたんです」


今は結婚もされて苗字が変わった歩美さん。


「父は何故あなたにそんなことを?」


「お世話になった際にいつか恩返しをとお伝えはしたのですが、終ぞその機会が無くて。でも、高屋さんも心残りがあったんでしょうね。


最後に私に言伝を残してくださったようです」


順番は前後していますが、ほとんど真実です。


「そうでしたか。それはお手間をかけさせましたね」


「手間だなんてそんな。私も高屋さんのお役に立てるのなら本望ですから」


ここまでは順調ですね。後は霊を信じてもらうにはどうするかですが。


「それともう一つお伝えすることがあるんです」


「もう一つですか?」


「ええ、高屋さんが私に歩美さんのことをお願いしてきたのにはもう一つ理由があるんです」


不思議そうな顔の歩美さん。


ここは一発、景気よく行きましょうか。


「見てもらった方が早いですね」


仰々しく指を鳴らします。


パチン。


同時に、目の前のコップに念を込めて浮かせます。


これじゃただの手品ですね。


ついでにもう一押し。


中のお茶を沸騰させてみました。


「とまあ、一見手品ですが、種も仕掛けもない霊能力です」


さっきまでの不思議そうな顔からポカーンとしてしまった歩美さん。驚いてくれたのならそれで十分です。


「え、霊能力って?え?」


「驚くのも無理はないと思います。いきなりこんなの見せられても困っちゃいますよね」


「え、ええ、驚いてますけど・・・」


「この際ですから霊能力の説明は省きますけど、端的に言えばこの力を使って、高屋さんの最後の望みを遂げるのが私の役目です」


今だ混乱の渦中に居る歩美さんに畳みかけていきます。


人間混乱してるときって結構なんでも受け入れちゃうものです。


というわけで。


もう隣で唇をかみしめているおじさん改め高屋さんに念を込めて軽く実体化させます。


「っ!?」


目を見開き、驚愕の表情の歩美さん。


「お、お父さん?」


しっかりとその姿を捉え、歩美さんの表情が一気に崩れます。嬉しさ半分、悲しみ半分。驚きも少々。


「あ、ああ。見えるのか?」


「うん。見えてる」


もうお互い泣いちゃってますね。ここはお邪魔虫な私はじっとしていましょう。この場に私は必要ないですから。


涙混じりの鼻声で語り掛ける高屋さん。


「ずっと、謝りたかったんだ」


応じる歩美さんも負けてないです。


「私もだよ。それなのに・・・・」


高屋さんの無念は歩美さんに謝れなかったこと。いえ、仲直りがしたかったんですよね。


この様子を見れば歩美さんも同じ気持ちだったんですね。


どちらともなく抱き合う二人。


仲良き事は良いことです。


「済まなかった。父さんが下らない意地を張ったばかりに」


「ううん。意地っ張りだったのは私も。だからお互い様だよ」


しかし、時間は無情です。


そろそろタイムリミットのようです。


うっすらと姿が実体化していた高屋さんの体はつま先や指先から、光の粒子となり崩れていきます。


「お父さん、手が」


「ああ、どうやら時間みたいだ」


「そんな、せっかくまた会えたのに!」


歩美さんの目をじっと見つめ、高屋さんは答えます。


「私はもう死んだ身だ。こうして、もう一度歩美に合えたのは奇跡以外の何物でもない。


贅沢は言っちゃいけないさ」


「でも・・・」


そこで、高屋さんはこちらに向き直ります。


「鈴君。今日は本当に世話になったね。これで思い残すことはないよ」


「お役に立てれば光栄です。私はそれが聞ければ十分ですよ」


満足そうな微笑みを受かべる高屋さん。指先から始まった崩壊は既に肩口にまで届いています。


「そうだ。歩美に最後に伝えたいことがあるんだ」


涙を浮かべコクリと頷く歩美さん。


「ずっとコレを伝えたかったんだ。結婚おめでとう。歩美」


その言葉出感極まったのか、口元を押さえひくひくと歩美さんさから嗚咽が漏れます。


それでも最後の時は訪れます。


もう輪郭のみとなり、姿のはっきり見えなくなった高屋さんに向け、歩美さんは、


泣き腫らした顔で。


それでも、満面の笑みを浮かべて。


「うん。幸せになるね」


その言葉を合図にするかのように、高屋さんの魂は完全に天へと昇っていきました。


これで、御恩は返せたでしょうか。


その後はしばらく歩美さんが落ち着くのを待ちました。


「お恥ずかしいところをお見せしました」


「いいえ、とっても素敵な光景でしたよ」


照れくさそうに笑う歩美さん、少し目元は晴れていますが、表情は満足そうです。


ちょっとずるい気もしますが、このタイミングでしっかりと謝っておきましょう。


「今更こんなことを言うのも気が引けるのですが、騙すようなことをしてしまし、すみません」


若干飲み込めていない表情が返ってきます。


「高屋さんにお会いしたのは、今日のことなんです。お世話になったのは事実ですが、歩美さんに話を聞いて貰うために


作り話をしてしまいました」


「いいですよ。気にしてません。それに、鈴さんがそうしてくれなかったら、私もとても信じてなかったと思いますから」


ほっと、胸のつっかえが取れた気がしました。


嘘も方便とは言いますが、やっぱりあんまり気持ちよくはないですね。


「それで、鈴さんはどうして父を連れてきてくれたんですか?お世話になったとは言ってましたけど」


簡単にお伝えし、ノワールさんを紹介します。


「君がノワール君だね。君が大変な時に言うのは違うかもしれないんだけど、本当に感謝してるの。


どうもありがとう」


「にゃーん」


撫でられながら、く気持ちよさそうに目を細めるノワールさん。


「おじさんのお陰で、手がかりも見つかったし、感謝しているのは僕もだよって言ってます」


暫くノワールさんを撫でていた歩美さんが、箪笥の引き出しから何かを持ってきました。


「これはね、お父さんが小さいころにくれたお守りなの。ノワール君に持っていて欲しいな」


そのまま、首に下げられたのは、樹脂で固められた鷹の爪のお守りでした。


勿論料理に使うトウガラシではなく、本物の鷹の爪です。


「にゃー?」


「大事にしていたものなのに、貰っても良いのか?ですって」


「うん。ノワール君が探している人に会えますようにって私もお願いしたから」


このお守は歩美さんがずっと大事にしていたのでしょう。


付喪神とは言いませんが、結構な想いが篭っているものです。


「それでは、あまり長居するとご迷惑でしょうから、そろそろお暇しましょうか」


「私も名残惜しいですけど、引き留めるのもご迷惑ですよね。改めて、今日は本当にありがとうございました」


玄関で、私たちを見送ってくれる歩美さんに手を振り、朔夜様のところに向かいます。


こうして私たちの小さな人?助けは幕を下ろしました。






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