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妖奇譚 ~妖怪、幽霊、都市伝説、現世と幽世が交わる時~  作者: Tomato.nit
第二章 蜘蛛と猫と座敷童
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方針

「さっきの男の記憶を覗いた結果じゃが、そこの警察の人はこれ以上関わらぬ方が良さそうじゃぞ」


八巻さんと共に再び別室で面会の結果を報告。


コンの見た記憶というのはまだ俺も知らないが。


「それはどういう意味でしょうか?」


乗りかかった船というのもあるのだろうが、八巻さんは現段階では退く気配は薄い。


「童が見た記憶の内容を伝えるくらいは問題ないじゃろうが、この事件に関してこれ以上首を突っ込むのであれば、正直命の保証は出来んのじゃ」


誰からともなくゴクリとつばを飲む音が寒い部屋に響く。


「一体何を見たんだ」


記憶の内容を共有する程度なら問題ないとは言うが。


「では、概要だけを伝えるのじゃ。さっきの男の記憶が数日曖昧な理由は確実に怪異じゃ。


過去にあった同様の事件とやらも十中八九絡新婦が絡んでおるのじゃ」


「それで、これ以上は関わるなというのは何故です?」


「単刀直入に言えば、一般人の手に負える代物ではないのじゃ。警察官としての責務や矜持は童も理解はできる。


しかし、何事も命あっての物種じゃろ?これ以上は踏み込まぬが吉じゃ」


コンの警告。


それを聞いた八巻さんは瞳を閉じ、静かに思案する。


葛藤なんかもあるだろう。


だが、コンがここまでの警告をするということは絡新婦というのはかなり厄介な相手らしい。


「お話は分かりました。ですが、市民の安全を守るのが我々警察官の役目です。無理に介入することは致しませんが、


何か協力できることがあればさせてください」


深々と頭を下げられ、慌てて対応する。


「頭を上げてください。協力いただけるのであればこちらとしても心強いですよ。むしろこちらからもお願いしたいです」


俺が差し出した手はしっかりと握り返される。


「話がまとまったようで何よりじゃな。絡新婦の対処は童達に任せるのじゃ」


「それで、具体的に何を見たんだ?」


「まずは絡新婦との約束の場面じゃな。姿形はぼんやりしてはっきりしてなかったのじゃ。たぶん、さっきの男が知覚できなかったんじゃと思う。


そして、約束の内容じゃが、簡単に言えば殺人の教唆。人を殺してこいということじゃな」


「それってただの脅しじゃないのか?」


「その殺人が成功すれば褒美を与えるという感じじゃな」


「でも、羽鳥さんは実行しなかった?」


「そういうことじゃ。たぶん本人の善性の問題じゃろう。随分思い悩んでおった。


最終的には約束の刻限を過ぎても行動に移せず、約束を反故にした報いを受けたようじゃな」


それが今回の勾留に繋がったのか。


「では、彼は完全に無罪ということですか?」


「事実だけを見るのならさっきの男は自分の意思で人を傷つけたかった訳ではいな。法に照らし合わせるとどうなるかは童の専門外じゃ」


コンの話を聞き、八巻さんは悔しそうに唇を噛む。


無実だと知っても何もできない無力感。


そういう心境だろう。


「お気持ちはお察しします。でも、羽鳥さんを直ぐに釈放するということは考えないでください」


ここはしっかりと釘をさす必要がある。


「何故ですか!?」


食いかかってくる勢いだが無理もないだろう。


「八巻さん自身も彼から何かを感じたと思いますが、私も感じました。率直に申し上げると、あの状態の彼を市中に解き放つにはリスクが大きすぎます」


「やはりそうなのですか」


八巻さん自身も薄々感じてはいたのだろう。声のトーンは低い。


「ええ、少なくとも八巻さん自身が何も感じなくなるまではここに居てもらう方が安全だと思います」


「分りました。彼だって被害者なんです。身の安全と健康は私が責任を持って管理します」


「それが良いと思います。お互いにできるところで頑張りましょう」


互いに決意を固める。


「では、今からその絡新婦を追うのですか?」


「そうしたいのは山々ですが、正直手がかりは薄いですね」


そう、羽鳥さんから感じる残滓は相当なものであることは間違いないのだが、発信源は羽鳥さん自身。


どこかに続いているというものではなかった。


コンの方も望み薄だ。


「そういうことでしたらこちら行かれてみてはどうでしょうか」


八巻さんが一枚の名刺を取り出す。


黒を基調とした紙には店名とキャストの名前が書かれている。


キャバクラか?


「これは?」


「ご覧の通りキャバクラです。その名刺の女の子は少し有名な怪談師とでも言いましょうか、その界隈では有名だそうですよ」


どの界隈だろうか。怪談好きの集まりでもあるのか。


「絡新婦の話はここらでは有名ですが、彼女の話はもう少し踏み込んだというか、芯に迫るモノがあったんです。


もしかしたら何か手がかりになるかと思いまして」


「そういうことでしたら、一度行ってみます。正直今はどんな情報でも欲しいですから」


「こちらも何か進展があれば連絡させて頂ければと思います」


連絡先を交換し、拘置所を後にする。


「流石にこの時間にキャバクラはやってないか」


時間はまだ昼を過ぎたところ。


夜まで待つ必要がある。


「ようやく終わった~。でも、外は外で寒いのじゃ」


「ご苦労さん。朔夜たちと合流するか?」


「どうせ後でキャバクラ行くんじゃろ。だったらそれまで時間を潰す方がいいじゃろ」


それもそうか。女連れでキャバクラに行ける訳がない。


それにしても時間を潰すとなると、難しいな。店というのもコンを出し辛い。


「なあ、綾戸よ。どこか落ち着ける場所に入るのじゃ。童はもうすぐ凍えて動けなくなるるるるる」


若干奥歯ががたがた鳴らしコンが訴えてくる。


こんなところで活動停止されても困るしな。カラオケボックスあたりが無難か。









次回は12月の1日

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