数億分の一、、、いやそれ以上の出会い。だった
次の日の放課後、結局担任の先生に呼び出されて、あの日の事情を話す羽目になった。
そのあと当然顧問にも怒られ、連帯責任とやらで皆校庭を走らされていた。
「はぁこれだからリア充は」
「裕お前な」
「よせよせ、誰も部活をさぼれとまでは言っていないぞ?」
部活終了後シューズを脱ぎながら裕に茶化されていた。
「空、お前へらへらして本当に反省しているのか」
二人の横でシューズを脱ぐ先輩が怖い目をしながらこちらを見ている。
「す、すいません」
「それより空、そのあとその女の子とはどうなったんだ?」
先輩のまた横の先輩がちょっかいを掛ける。
「や、やめてくださいよ」
なんだかんだ先輩方は彼のことを責めることもなくいつも通り話しかけてくれていた。
この環境もまた彼の性格のおかげでもあった。
「そ、空君」
先輩に髪を鷲掴みされぐちゃぐちゃにされていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ん早紀どうした」
「なんだ例の女か?」
隣から聞こえてくる言葉を聞き流し、俺は早紀の前まで歩いて行った。
「空今日の部活はもうおしまい?」
両手を後ろで組みながら長い後ろ髪を揺らす彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「そうだけど」
「よかったら今日一緒に帰りませんか?」
ひゅーひゅーと後ろから聞こえてくる声は恥ずかしさからか、うれしさからか、彼の耳には届かなかった。
数秒立ってやっと我に戻る 、後ろからは相変わらずよくわからないコールが聞こえてきていた。
「い、いいけど。早紀の帰り道って俺と一緒だっけ?」
「あちっちの方なんだけど」
指をさす方は俺の家だった。
「一緒だな、じゃすぐ準備するからちょっと待って」
もぞもぞとその場で揺れる彼女を横目にもう一度先輩と裕の間に腰を落ち着かせる。
いつもより急ぎ気味で靴ひもをほどきながら彼女の方にちらちらと目線を送る。変わらず彼女は照れくさそうに少し視線をずらした。
「おいおい空、いい感じじゃないかよ」
隣の先輩の横から顔を出した先輩が靴の履き替えが終わったようで立ちながら、うれしそうな顔をしていた。
「最後集合掛けるぞ」
二ヒヒと笑う先輩を、少しうざいと思ってしまったのはここだけの話。そのあと顧問が集合を掛けて部活は終了した。解散と同時に顧問が俺を呼び出したのは、仕方がないと心の中で思いつつ、彼女に少し待っててと手を合わせて合図を送る。
皆がいなくなった後顧問は少し優しい顔をして口を開いた。
「きいたぞ、空。お前いじめを告発したんだってな」
顧問の口からは予想外の話が出てびっくりした。てっきりさぼったことをまだ怒っているのか、明日から来なくていいとかそんな風に言われるだろうなと思い、心の準備をしていたから。
ぽかんと口を開けている俺の頭を顧問の手が優しく撫でた。
「いじめを知っていても誰かに打ち明けられる奴はそう多くはない、空はその優しさがあったからこそできたことだ。大事にしろよ」
大事にしろよ。それは俺のこの優しさに対しての言葉だっただろう。だけどなぜだか彼女のことを大切にしろよと、頭の中で解釈してしまった。
それはさっき彼女に会ったからだからか、彼女のことが好きだったからか、いろんな要因があるけれども俺はそう受け取った。
「は、はい!」
「明日はさぼんなよ」
あまり見せない顧問の笑顔を見終え、待っている彼女のもとに急いで向かった。
「どうしたの、こないだの事怒られた?」
彼女は真っ先に俺の心配をしてくれた。けして怒られたわけではなかったが彼女にはまぁ、少しね、っと作り笑いで返事をした。
帰り道特に話すこともできず二人でふらふらと坂を下る。
誰も喋りたくないわけでは無い、自然と二人の気持ちがぶつかり合ってこうなっている。
はぁ、こうゆうときは俺が何か話題を出すべきなんだけど。こんな状況初めてだしな。なんかいい話ないかな。
頭の中でそんなことをぼやいていると。
「空、こないだは。ありがとね」
「あ、うん。」
話をうまく続けられずにいる。
「実はね。前の中学から逃げてきたんだ」
心臓の鼓動が少し早くなる。勝手な推測だった、彼女がもし前の学校で何もなかったのなら、俺の考えていたことは最低だった。だけどその推測は本当にあったことだった。だからなのか改めて俺は彼女の味方でありたいと本気で思った。
「あのね、私の家庭はすごく。うん、複雑なんだ」
教えてくれなくてもいい。何も知らなくても俺は君から離れな。そんなことも言えず下を向きながら彼女の話を聞く
「お父さん、会社でやらかしちゃってくびになったんだ。その話を聞いたお母さんがね「あなたと一緒には暮らせないわ!」って言って家を出て行っちゃたの」
辛く苦しい過去、それを笑いながら話す彼女はどこか苦しそうに見えた。
「それで、いじめが始まったのは些細なことだった。授業参観があったの。前まではずっとお母さんが見に来てたんだけど、もうお母さんもいなくて。お父さんが来てくれたんだ」
これ以上彼女が過去のことを話すと、彼女は壊れてしまうんじゃないかと思うほど悲しく細い声で続ける。
「でも、お金がないからお父さんぼろぼろの服でね。それを馬鹿にされた私が皆に怒ったの。そうやって始まったんだ」
すっと彼女のほうに顔を移す。笑顔を絶やさない彼女の瞳は涙で滲んでいた。俺は何も言えなかった。俺が首を突っ込んでいい、そんな簡単な話じゃない気がした。それでも俺は言わないといけない思うことがあった。
「早紀は、早紀は大丈夫」
彼女のにじんだ瞳からたくさんの涙がこぼれた。彼女は涙を拭うことなく。ただ、ただ震えた指先を隠そうとしていた。
震えた指にはすぐに気が付いた。俺は考える間もなく彼女の手を両手で優しく包んでいた。
変わらず震える指先にこぼれる涙。きっとできる男ならこのまま抱きしめて、かっこいいセリフを言う。でも俺にはこれが限界だった。
「ありがとう、本当にありがと」
震えた声で何度も繰り返す彼女に、俺はただひたすらに手を握り続けた。
「ただいま」
いつもより小さい声で帰ったことを告げる。
こんこんこんとリズムよく聞こえる音に重なって母さんの声が聞こえる。
玄関を上がりリビングのドアを開ける。
「空、どうしたの」
何も言っていない。母さんは俺の「ただいま」その一言で心が読めているかのようにキッチンからリビングのソファーに移動してきた。
「、、、」
話せることなんてない。学校で彼女が何をされていたのか、越してくる前の学校で何があったのか。そして帰り道に聞いた彼女の話について。そのすべては俺の中で止めなきゃいけないから。言っちゃいけない。そうわかって。俺は母さんの言葉でずっと堪えていた涙がこぼれた。
「大丈夫だよ、空なら大丈夫だから」
頭を撫でる母さんは、深追いせずただそう言って俺の心を静めてくれた。
ごちそうさま。その一言で俺は二階の部屋へと向かう。
扉を開き暑い部屋の中エアコンもかけずに椅子へと腰掛ける。
明日まともに話ができるのか。俺はいつも通りでいいのか。彼女はいつもと変わらないのか。ごちゃごちゃになっている頭の中を整理する。
きっと帰り道の話は、彼女にとってつらい話。それはわかる。だけどなんで俺に話してくれたのか。なんで辛いはずなのに笑顔を絶やさなかったのか。なんで俺はあそこで彼女の話を止めなかったのか。
一瞬不安が過る。
「もしかしていなくなっちゃうのか。」
そんなことを思っていた時だった。
スマホの着信音が響く。
「なんだよ、こんな時に」
発信元は。見たことない番号。出なくていいかと心で思う。
着信音が止まったと同時に俺はSNSを開き考えをすべてもみ消そうとした。
まただ、さっきと同じ発信元から電話がかかってくる。これを無視してもまたかかってくるだけ。うざさからか少し乱暴に応答ボタンを押した。
「もしもし、どちら様ですか」
、、、返事は
「あ、あの廣田です」
少し待ってから小さい声で聞こえてきた。
「さ、早紀?」
確か俺はメアドも連絡先もKINEも教えていないはずなんだけど。
「あ、あのごめんなさい」
「え、なんで謝るの?」
急に謝る彼女の気持ちが理解できずすぐにそう返す。
「今日の帰り道の事と。連絡先を石田君から黙ってもらっちゃったことを」
そうゆうわけか。一歩遅れて理解するのも無理もない。さっきまでの考え事で頭がパンパンだからだ。
「あー。うん」
曖昧な返事をする。
その返事のせいなのか少しの沈黙が訪れる。
次に声が聞こえたのは相手側からだった。
「お前、降りてこい、話がある」
少し太い声、きっと早紀のお父さんの声だろう。もうすぐこの電話も終わってしまうと、少しのむなしさを感じた。
「あの、ごめんね。また後でかけなおしてもいいかな」
かけなおしてくれるのか。まだ彼女も話したいことがあるのか。もしくは話さなければならないことがあるのか。どちらにせよまた彼女とこうして電話ができるのだから、そんな感情が再び現れる嫌な予感に消し飛ばされてしまった。
「あぁうん分かった」
彼女はまた後でと言い残し電話を切った。いつもと変わらない声で。
~文字数の関係であとがきを~
この度は「俺と彼女の三年日記」を読んでいただき本当にありがとうございます。一応一区切りとして「数億分の一、、、いやそれ以上の出会い」を書き終わりましたがいかがでしたでしょうか。学校恋愛をはじめとした少しミステリーな話を綴っておりますが、楽しんでいただければ幸いと思っております。
次回は「出会いの別れ」というタイトルで話を続けようと思っております。伏線ではありますが、彼女が帰り道話した内容、彼女の電話から聞こえてくる太い声。これを回収するように話を作っていこうと思っています。
また初めて書く恋愛系ですので、どこか違和感のあるような個所も所々見えると思います。何かアドバイスをいただければと思っている所存でございます。
これから続く「俺と彼女の三年日記」は少し自分を重ねたような。どこか自分が思い浮かべたような。どこか周りの人のうらやましさを嫉妬したような。そうして。ただ皆様と楽しめるようなそんな内容にしていきたいと思っています。
あと他作の読者様。本当に申し訳ございません。今回恋愛系に逃げたような形になってしまいましたが。はっきりと言いますと。。。異世界系のネタが出てこない。本当に、本当にごめんなさい。
遅くなりましたが皆様。今後とも私「名もなき光」と今作「俺と彼女の三年日記」をよろしくお願いいたします。