戻ってきてくれ!もう遅い!……と言い合ってるのを見ている職員の憂鬱なため息
「戻ってきてくれ! 俺たちにはお前が必要だったんだ!!」
「うるさい! あの時も俺は働いてるって言っただろ! それでも追放したのはお前たちだ!! 今更戻ってきてくれだ?! もう遅いんだよ!!」
冒険者ギルドでまたも起きた事件。
もはや見慣れた光景に誰も手を止めない。
迷惑そうに顔を顰めている者が大半だ。
「今月は何件目だっけか?」
「今月は追放事件が64件、もう遅い事件が58件です。ちなみに婚約破棄が22件に婚約破棄破棄事件は36件です」
「婚約者に戻ってきてほしいやつ多いな……」
「死人に口なしって良く言いますしね」
「そりゃそうかあ」
戻って来いって言う前に冒険者は死んでる奴もいるもんな。
それよりも俺は隣に座る職員に尋ねると貴族の婚約破棄件数まで返ってくるのにビックリだ。
「それしても馬鹿だねえ」
「そうですね」
俺たちの認識では貴族も冒険者も馬鹿だなと思う。
なんてったって醜聞でしかない。
お互いの無能さ露呈させているだけだからだ。
「追放する側は考える頭がない、もしくは見る目がない。追放される側も考える頭がない、見る目が無い、コミュ力がない」
「まあ見てると追放する側もされる側も問題ありありの地雷物件ですよねえ」
冒険者なんて背中を預け合うのなんて常識だ。
命懸けなのに信頼し合えない、もしくは信頼を得ようとしないのは致命的な欠点でしかない。
「貴族の婚約破棄は大分減ってきたのは躾が行き届いてきたのとめぼしい馬鹿が一通り散って行ったからなんでしょうけど」
「冒険者は基本的に破落戸の集まりだからなあ、貴族よりも沢山いるし、もはや日常と化してるしなんなら能力は有能でバカな奴に恩を売って拾ういい機会だから誰も止めやしねえ」
そうこうしてる間にも揉めてる馬鹿達の話し合いは決裂して終わった。
「見てくださいよ、戻ってこいなんて言われて自尊心が満たされた顔してますよ殴りたいです」
「あー、そう言ってやるな。追放されるやつは大抵ムッツリ助平ならぬムッツリ傲慢だから」
「なんですかムッツリ傲慢って。聞いたことないですよ……。とは言え、言いたいことはわかります」
追放されるやつも追放するやつも、馬鹿しかいない。
目に見えるものが全てではないということがわかっていない。
不当な、理不尽な評価を実際にされている奴もいるだろう。
だがそれはほんの一部だ。
冒険者に限らず人は縁によって繋がっているという事が分かっていない。
いつか関係の破局が何かの時に足を引っ張ることもあるだろう。
「ま、馬鹿と無能は別モンだけどな」
「そうですね、彼らは冒険者としては有能ですから」
死人に口なし。無能ならお互い既に死んでるだろうし、戻ってこいとも嫌だとも言い合えない。
「さて、今日も根回しの時間だ。あいつらが馬鹿やってもやってけるようにな」
「なんだかんだで優しいですよね、マスター。私ならああい馬鹿はどうなってもどうでもと思うので」
「おっさんは、最近の若者は失敗に敏感が過ぎるし辛辣だと思うぜ……」
哀愁漂う男の背中。それは管理職の悲しみを物語っていた。
「お前は俺たちのパーティに相応しく無い!」
そして今日も追放劇は始まり、ギルドマスターの心労は休まることを知らないのだった。