ひまわりは太陽に憧れる
僕はひまわり。兄弟と共に母に抱かれて生まれてきた。生まれて最初に目に飛び込んで来たのは、まばゆい光を放つ真っ白な光。僕を、兄弟を、母を、この地上すべてを明るく照らし、あたたかく包み込んでくれるその光に、胸が高鳴った。母はその光を、太陽と呼んでいた。太陽は定期的にいなくなる。でも、現れると母は嬉しそうに顔を上げて、気持ちよさそうにその光を浴びている。母のそんな姿を見て、僕は決めた。僕はひまわりではなく、太陽になろうと。光り輝き、その姿を見るだけで多くのひとが笑顔になるような、そんな太陽に。
やがて独り立ちの時期になると、僕は誰よりも先に母の元を飛び立った。新天地で、僕の根を張り、大きく育つために。
だけれど、たどり着いた先はずいぶんと暗く、湿った場所だった。この世には、こんなに暗い場所もあったんだと、驚き、大きな不安に襲われた。でも、じゃあ、僕がこの場所を照らす大きな光に、太陽になればいい。そう意気込み、少ない栄養をかき集めて、かすかに見える太陽を目指してそれをまっすぐ見つめ続けた。
けれど、いくら必死になっても、諦められなくても、成長する僕の体は細く頼りない。風が吹くたび、何度も体が折れそうになった。ダメになる葉も多かった。
それでも、ああ、それでも、僕は太陽目指して背を伸ばし続けた。
そして、僕は、とうとう母と同じ姿になった。
いや、それよりはるかに劣る。今にも折れそうな体。しわがあるほどしなびた花びら。悲しいほど、太陽には程遠い。
涙をこぼしそうになりながらも、それでも太陽を見つめるため、下は向かない。これから僕は枯れるしかないけれど、最期の最後まで、せめて下は向きたくないから。
ふいに、こちらに向ってくる足音が聞こえた。僕のいる場所には、ほとんど誰も訪れないけれど、母の元にいた時に何度か同じような服の少女たちを見たことがある。
少女は、驚いたような顔をして、つぶやくように言った
「こんなとこに、ひまわりなんてあったんだ」
少女は僕の細い茎、ほとんど枯れた葉、しおれた花びら、全てをゆっくりと眺めた。
「すごいね。こんな環境でも、ちゃんと立派に咲けたんだ」
少女は数少ない綺麗な葉にいる虫を丁寧に払った。そして僕を見上げて嬉しそうにほほ笑んだ。
「大変な場所でも、頑張って生きてるあなたの姿見て、ちょっと元気出たよ。ありがとう。さすが≪太陽の花≫ひまわりなだけあるね」
そう言葉を残し、足取り軽く去ってゆく彼女の姿を、僕はずっとずっと、ずっと見つめ続けていた。彼女は言った。僕の姿を見て元気が出たと。笑顔も見せてくれた。頼りない姿の、太陽になれない僕を見て、そう言ってくれたんだ。
世界のすべてを明るく照らせはしなかった。多くのひとに笑顔は与えられなかった。でも、ただ一人の少女を勇気づけられた。笑顔にできた。それだけで、ああ・・・。ここまで心が満たされるものなんだな。
太陽にはなれず、立派な母のようなひまわりにもなれなかった。でも、僕が努力した先の姿を見て、ただ一人でも明るく照らせたのなら、それは十分、夢が叶ったと言えるのではないかな。
僕は初めて、自分の姿に自信が持てた。
ひまわりは私の好きな花の一つで、昔駅に向かう道の途中に夏になるとひまわりが咲いてたんです。日はよく当たるとこだったんですけど栄養がない土だからか細く弱弱しかったです。それでも立派に背を伸ばして花を咲かせているひまわりを見て、私や母は自然と笑顔になったものです。テレビでひまわりの花畑を見てそのひまわりの事を思い出して今回の話を思いつきました。
短いですし、衝動で描いた拙い作品ですが、楽しんで読んでいただけましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。