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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

掌編集

どんな一撃でもクリティカルになるが、トドメはさせない勇者がいるらしい

作者: 物語あにま

 俺は辺境の片田舎から成り上がった勇者、フェイ・ブレイド。


 人間を滅ぼさんとする種族、邪神の眷属である魔族とその王、魔王を討ち取るべく神から選ばれた者。


 それが勇者だ。 


 勇者になったきっかけは、成人の儀のときに行われたステータス開示式とスキル授与の時だった。


 この世界では、神によって、人の能力値をステータスとスキルで表せるようになっていた。いつからそういう仕組みになったか不明だ。


 教会のお偉いおっさんが羊皮紙に、執務室で低温ろうそくのろうを資料に垂らしただか、乙女の聖水をぶちまけたときからだとかいう話だが真実は闇の中だ。


それはさておき。


 俺は、その時に得た称号《勇者》と勇者専用スキル《一撃否殺クリティカル》によって一気に勇者として祭り上げられたのだ。


 《一撃否殺》の効果は、どんな攻撃でもクリティカルになり、相手を戦闘不能にできるものである。まさに勇者専用のイカサマスキルだ。


 俺は、このスキルと《勇者》の称号で成り上がってやろう、とほくそ笑んでいた。


 だが人生ストーリーはそう甘くはない。

 スキル《一撃否殺》にはHP1の敵にはダメージを与えられないという欠陥があったのだ。



 王都の教会で正式に勇者と認定された俺は、今日も聖剣を振るっていた。


 相手はオーガ。

 HP1500という一般人の10倍以上の体力を持つ、凶悪な魔物だ。


「せああああああ!」

「グオオオ!?」


【クリティカル!オーガに1499ダメージ!】


 俺の振った聖剣によって筋骨隆々の鬼がぶっ倒れる。

 一撃でクリティカルダメージを喰らい、戦闘不能になったのだ。


「フェイ! トドメを!」

「お、おう! やああああ!」


 後方援護に徹していたエルフ耳の美少女賢者が俺に支援魔法ブーストを掛けた。その勢いにのって倒れたオーガの喉元に聖剣を突き立て……


 ぶよん。


 まるでゴムに弾かれたように、聖剣の切っ先が押し返される。


【ノーダメージ!オーガのHPは0にならない!】


「何やってるのよ、フェイ! 早くトドメをさして!」

「そうよ! ふざけてる場合じゃないんだから!」


 ついでに王国一美しいと言われる姫騎士が俺に発破をかける。

 分かってるっての!

  

「おおおおおお!」


 ぶぶぶぶぶぶぶぶよ~ん。


【ノノノノノノノノーダメージ!オーガのHPは0にならない!】


 何回聖剣を突き立てようと結果は同じ。

 情けない効果音と共に、俺の聖剣は弾かれ続ける。


「おい勇者フェイ、まだ殺せないのか!」


 ついにはお堅い女聖騎士まで俺を非難する。

 違う、違うんだ!

 これは俺のせいじゃない!


「グ、グオ……」


 息も絶え絶えのオーガが、仲間になりたそうな見つめている。いや本当はただの降参かもしれないけど。


「早くトドメささないか!」


 グサッ。


「グェッ」


 聖騎士の槍がオーガの喉を刺し貫いた。残りHP1だったオーガはその一撃であっけなく絶命。光を失った瞳で俺を見つめている。


 また手柄を横取りされた!!

 これで何千回目だ!?


「お疲れ様、聖騎士」

「お疲れ賢者。ナイスアシストだった」

「皆、お疲れ様。とくに聖騎士はお手柄だったわね!」


 いやHPほぼ全部削ったの俺じゃん!?


 そんな俺の嘆きは、しかしまかり通らない。


「はあ~、それに比べて勇者は情けないわね。オーガみたいな凶悪な魔物を殺すのにも躊躇するなんて」

「いくら勇者でも優しいだけではな……」

「これでは魔王にすら慈悲をかけかねないわ」


 皆、そろそろ俺の醜態を見飽きてきているんだろう。

 口々にそんなことを言われ、俺は聖剣を握りしめた。


「フェイ……?」


 違うんだ。

 本当は俺のスキル《一撃否殺》がすべて悪いんだ。


 俺の攻撃は《一撃否殺》ですべてクリティカルダメージになる。

 だが、HP1の相手は絶対に殺せない。ダメージを与えられないという欠陥があったのだ。


 だがそんなことを言えば、俺の勇者としての地位が危うい。だから俺は今まで嘘を吐き、皆を騙してきた。隠してきた。俺は《一撃否殺》のことを、相手をほぼ一撃で倒せるスキルだとしか説明していない。


 それももう限界だった。


「皆、すまない。俺はパーティーを抜けるよ」

「え、ちょっと待って、アタシたちそんなつもりはーーーー」

「止めないでくれ!オーガの1匹すら(スキルの関係上)殺せない勇者なんて一緒にいないほうがいいに決まってる!」


 俺みたいな中途半端に敵を生かしてしまう勇者より、もっと相応しい愛と正義を重んじる真の勇者が現れるさ!

 そうして俺は、脱兎のごとく逃げ出した。



 一人になった俺は、魔王が支配する魔族領へと足を運んでいた。

 まあ亡命のようなものである。勇者が魔族領に逃げ込むなんて世も末だ。


 俺は、魔王城から少し離れた魔族街アクマサターンの酒場で情報収集に勤しんでいた。


 酒場では風聞好きの魔族たちが集まり、人類側の情報を逐一話してくれている。元勇者パーティーの動向を探るにはもってこいの場所なのだ。


「マスター、水」

「仮面の兄ちゃん……ここは給水所じゃねえんだよ。飲む気がねえなら早く帰ってくれねえか」


 と、言いつつ、水を出してくれる魔族のマスター。

 ぶっきらぼうだが優しいオッサンだ。


 まあ、それでも俺の正体を知ればきっと態度が変わるだろう。


 勇者であった(まだステータスには《勇者》とあるが)俺は、魔族からは敵視されている。当然、人類側の大将のようなものだったわけだから、面だって割れている。


 今の俺は、勇者の証である聖剣を鞘に納めたまま、フードを目深に被り、雑な木製の仮面ペルソナを装着して正体を誤魔化している。


 様々な種族が入り乱れる魔族領では、その素性を隠したい者も多い。


 こうして変装をすれば俺が勇者だと気付かれることは――――


 ズガアアアアン!!!!


「何事っ!?」


 突然の爆発音で、俺はアンニュイな気分から引き戻された。

 全く無粋な輩もいたもんだ。


「うわあああああ! 勇者パーティーが攻めてきたぞ! 賢者の爆発魔法で街が吹っ飛んだー!」

「逃げろぉぉぉ! 聖騎士が槍もって突っ込んでくるううううう!」

「姫騎士もいるぞ! 全員捕まえて犯せええええ!」


 …………全く無粋な輩もいたもんだ。

 いや、俺の元パーティーなんですけども。


 外から聞こえてくる賑やかな乱闘騒ぎに、酒場の中まで騒然とし始めた。


「おい、兄ちゃん。勇者パーティーが攻めてきたってよ! あんたも早く逃げろ!」

「なに、いざとなったら俺が奴らを説得s……「勇者ああああああ! どこにいる! お前がこの街にいるのは分かってるんだぞ!」全力で逃げさせていただきます!」


 オーガも真っ青になって震えあがるような聖騎士の叫び。

 俺は全身の毛という毛を逆立たせる。


 ヤバい。今捕まったら何されるか分からん。最悪、人類を裏切った反逆者として処刑されてしまうかもしれない。


「何だってこんなところまで俺を捕縛しに来やがったんだ……!? もしかして聖剣もってるからか? やっぱ捨ててくればよかったかな?」


 俺は聖銀輝く柄を握りしめた。

 いや、俺は仮にも魔王を倒すためにここまで来たのだ。そう。魔王討伐の手柄を、俺一人のものにするために!!


 ここで元勇者パーティーに捕まれば、計画は白紙。それどころか真っ白な設計図すらビリビリに引き裂かれかねない。


「もうやるしかねえ。俺は《勇者》だ……俺が《勇者》なんだ。ーーーーそうだ、俺にはこれ(、、)がある!」


 ついに聖騎士の荒々しい気配が、酒場にまで接近する。

 俺は白い仮面を抑え、呼吸を整える。さあ、こい聖騎士。これが俺だ!


「ここか勇者ぁ!」


 バァン!


 酒場の開き扉が蹴り飛ばされる。

 すでに飲んだくれの客どもは逃げた後。ここには俺しか残っていない。


 聖騎士は俺が腰に下げた聖剣を見るや否や、ニイッと笑みを浮かべる。


「勇者ぁ、見つけたぞ。変な仮面をしているが、その気配、間違いない……」

「ふっ、勇者? ちがうな、俺はフェイタルマスク・ド・ブレイブだ!」

「バカみたいに長い名乗りの上にバレバレな詐称だと!? そのアホさ。やはり貴様、勇者フェイだな!」


 あるぇ?

 ここまでの道中で闘ってきた魔族はこれで大体騙されてくれたんだけどな……まあいいや。今の俺は魔族に組する勇者仮面。フェイタルマスク・ド・ブレイブ。


 そういう設定で行こう。


「ふん。聖騎士よ。お前が何といおうが、俺はフェイタルマスク・ド・ブレイブだ! さあ、魔族の街を荒した罪、その身をもって味わうがいい!」

「はっ? いや、私たちはお前を迎えに……」

「問答無用!」

「くはっ!?」


 俺は鞘付きの聖剣で聖騎士の銅を打ち抜いた。


【クリティカル! 聖騎士に2999のダメージ!】


 その瞬間、《一撃否殺》のスキルが発動し、聖騎士に再起不能クリティカルダメージを与えた。

 というか聖騎士のHP3000もあったの!? オーガのHPの二倍じゃん。リアルオーガじゃん……いや見た目は凄い美女だけども。


「ぐはっ、なんだこの衝撃は。HPがほぼ全損した!?」

「ふっ、安心しろ、峰打ちだ(本当は殺せないなんて言えない)。俺は正義の勇者仮面…………(スキルの関係上)命までは奪わない。だが…………それ以外のことは何でもしちゃうかもなぁ? 動けないもんなぁ、聖騎士様ぁ?」

「くっ、なんて卑劣な。辱めるくらいなら殺せ!」


 いや、だから殺せないんだってば。


 お前もなんかノリノリで体を差し出してくるんじゃないよ聖騎士。何で顔を赤らめてるんだ。唇をかみしめるな。エロいだろうが、殺してやろうか!?(殺せないけど)


 かといってヘタレ童貞の俺に犯そうなんて考えはなく。

 ギュッと目をつぶってしまった聖騎士の手足を荒縄で縛るだけにとどめておいた。後はHPを回復する回復薬ポーションをかけて、他の者の攻撃で死なないようにして放置。


 どうせエルフの賢者と美少女の姫騎士様が助けに来てくれるだろう。

 俺はその間に、アクマサターンの街からさっさと逃げ出したのだった。



 聖騎士を緊縛し、魔王城付近の山中に逃げ込んだ俺は、なんとかして元勇者パーティーを出し抜く方法を考えていた。主に魔王討伐の方面で。しかし俺ではトドメはさせない。


 考え抜いた結果。


 俺は一つの結論に至った。


「待てよ。別に殺す必要はない。魔王に降伏させれば、それはもう俺の勝ちだ。つまり俺の手柄!」


 ということで。


 やってきました魔王城。骸骨騎士スケルトンナイト夢魔族インキュバスたちが見張っているが知ったこっちゃない。


 ガチンコの正面突破あるのみである。

 俺は聖剣を引き抜いて、敵陣に突っ込んでいく。


「て、敵襲ー! 敵は勇者フェイ・ブレイドだ!」


 マスクは外してあるので、相手からは俺が勇者だとモロバレのはずだ。

 

 俺の手柄を知らしめるには、顔を隠していては意味がない。だから今回の闘いでは外している。理由はそれだけだ。


「そらそらそらぁっ!」


【クリティカル! スケルトンナイトに749のダメージ! インキュバスに567のダメージ! リッチに1258ダメージ!】


「う、うわあ、皆一撃で……!」

「フハハハハハ! 俺は勇者フェイ! 聖剣の餌になりたくなければ道を開けるんだなぁ!?」


 いやまあ、皆ダメージ負って倒れただけで死んでないんですけどね。

 そこは雰囲気が重要って言うか。

 仮にも勇者は魔族にとっての宿敵だし、悪役を演じた方が良いと思うんだ。


「よく来たな、勇者!」


 獅子奮迅ししふんじんの大暴れを繰り広げる俺の前に、マントを翻した偉そうな角付き女魔族が現れる。


「我は三魔将が一柱、《不屈》のチーニ・フセーリ!この魔王城に一人で攻め入ったのは誉めてやろう!だがこれ以上の狼藉は……」

「《フェイタルスラーッシュ》ッ!」


【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】


 三魔将チーニの膨大なHPを削り、俺の前に屈服させる。魔族領で五指に入る実力者である三魔将でさえ、俺の《一撃否殺》には敵わないのだ。


「がはっ! なん、だと!? この我が、地に膝を突くなど……」

「安心しろ、峰打ちだ(本当は殺せないなんていえない)」

「思いっ切り刃が当たった気がしたんだが!?」


 気にするなって。


「くっ、だが甘かったな。我の《不屈》の真の力を見るがいい! うおおおおおお!」


【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】


 突如、全回復したチーニ。

 なんですと?


「ふはは、絶望しろ勇者! 我のスキル《不屈》は相手の攻撃をHP1%以下で耐えたとき、HPを全回復させる! 一撃で仕留められなかったのは運が悪かったな! せっかくの不意打ちも無意味、フハハハハ!」

「うわあ…………」


 高笑いして形勢逆転と思い込んでいるところ悪いが…………それは地獄だと思う。

 なんでって…………だって《一撃否殺》と《不屈》で生かして殺さずの状態が永遠に繰り返されるわけで。


「ほら勇者よ。今度は我に正々堂々切りかからせてやろう」


 チーニは勝ち誇って四肢を広げる。まるで抱擁を求めているかのよう。

 誘い受けとは高度なプレイだ……。


「では遠慮なく。てい」

「あああああ!?」


【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】


「まだまだ……」

「そうだな。まだいけるな」


 俺は起き上がろうとしたチーニに聖剣の一撃を打ち込む。


【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】


「それでも第二、第三の我が……」

「はいはい」


 俺は更に(以下略)


【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】

【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】



 一時間に及ぶ責め苦の果て。

 チーニは何度、復活と再生を繰り返した。そして、ついに喘ぎ声すら上げるようになったチーニは、服だけボロボロになった姿で俺にしがみつく。


「くっ…………もういっそ殺してくれ! なぜお前は我を生かす! そんなにギリギリのダメージを与え続けるのが好きなのか!? サディストなのか!?」

「すまねえな。こればっかりは(スキルの関係上)やめられねえんだ…………」

「な、なんという鬼畜。我はこれから勇者にねぶられ、なぶられ、犯されるというのか…………」

「だからそれは誤解だ! 俺はもっと――――」

「もっと!? 鬼畜を越えたド畜生な事を考えているというのか!?」

「ちがーう!!!! もういいよ寝てろ!」

「んがっ!?」


【クリティカル! チーニ・フセーリに9256(くっころ)ダメージ!】

【チーニ・フセーリは昏睡状態になった!】

【チーニ・フセーリの《不屈》発動! HPを全回復!】


 チーニの後頭部を殴りつけ、しばらく目覚めないように気絶させた。勿論これも荒縄で手足を縛って置く。

 これで安心して先に進める。


「あの勇者、邪神様よりヤベェよ…………緊縛睡姦とか今時ゴブリンでもやらねえよ」

「多分オークもやらねえんじゃね?」

「とりあえず近寄らんとこうぜ。SMプレイさせられそう」


 なぜか場内の魔物や兵士が寄り付かなくなった。俺はミジンコ一匹(スキルの関係上)殺せないのに。何を怖がる必要があるのか理解に苦しむ。


 ちなみに、ミジンコのHPは1しかない。

 俺はミジンコにかすり傷一つ付けられない勇者ということだ。


 悲しい。 



 三魔将チーニを昏睡・緊縛した俺は、そのまま魔王のいる王座の間に直行した。

 他の三魔将は人間領に遠征中のようで、幹部クラスとは遭遇しなかった。


 魔王軍の雑魚モンスターを蹴散らしつつ(殺せないので通路や階段に放置した)、俺は玉座で頬杖をつく魔王と相対する。


 俺を視認した魔王は、ゆるりと立ち上がった。

 紅い髪を腰まで伸ばした魔王は、しかし身の丈140センチあるかどうか怪しい。高い位置に置かれた玉座は、その幼さを誤魔化すためのギミックだろう。


「よく来たな勇者よ、わたしが魔王なのだ」


 偉そうな幼女が愛らしいお顔で俺を見下している。

 腹出しヘソ丸見えの衣装で、俺を見下ろしている。

 なのにクソ! なぜスカートがロング仕様なんだ!


「おい、幼女魔王! パンツが見えないだろ、魔王ならもっと勇者をもてなせよ! サービスしろよ! せめて隙間スリットくらい開けとけよ!」

「えっ、えっ?」

「ったく、ホスピタリティが足りてねえな、最近の魔王は」

「ご、ごめんなさい」


 俺が悪態を吐きながら、幼女のプリーツスカートをのぞけないかチラチラしてみる。

 ガードかてえ。クロッチのほつれすら見えねえ!

 それどころか生足すら拝めねえ!


 こんな時こそ《一撃否殺》が働くべきじゃないのか!? 俺が見ただけで布地がボロボロにはじけ飛ぶとか……なんかこう便利な能力があってもいいだろうに。


「こ、こほん。では改めて…………わたしは魔王、コローセ・クッコ6世! 勇者よ、よく来た。父様ちちさまの教えゆえ、このスカートはめくってやれないが、覗くことは許してもよいぞ!」

「なん、だと!?」


 …………だが俺は勇者。

 ようじょのおぱんつになんかくっしたりはしない。


 そうッ!


「なら……なら俺は…………絶対に覗かない! お恵み(パンチラ)なんかクソくらえだ! 俺はお前にスカートを捲らせてみせる! 勝負だ、魔王クッコロセ!」

「クッコ6世だ! 変な間違え方をするな! あとおぬし、本当に勇者なのか!?」

「当たり前だろ! 勇者ってのはな、女の子のパンツを見るためなら世界だって救うんだ! 覚えとけ!」

「こわ、勇者こわ!?」


 怖くて結構。勇者に恐れおののくのが魔王の仕事だ。


「イクぜ、魔王!」


 覗くか、捲らせるか。それが問題だ。

 俺と魔王は同時に構える。


「はあっ!」


 仕掛けたのは魔王。

 膨大な数のファイアボールを放ちながら、俺を牽制してくる。


 しかし、俺には勇者の身体能力と今まで戦ってきたノウハウがある。ロクに闘わず、王座で胡坐をかいていただけの魔王など、巨大な力を持っただけの幼女メスガキに過ぎない。


 俺は弾幕を掻い潜り、魔王に肉薄し……


「《フェイタルスラッシュ》!」


 幼女魔王の断崖絶壁なお胸に聖剣を突き立てる! 


 ガキィィィィィン!!!


【クリティカル! コローセ・クッコ6世に92567(くっころせ)ダメージ!】


 幼女の絶壁ツルペタおっぱいかてえ…………!

 ていうかHP多すぎだろ!

 チーニとは桁が違う。だがこれでHPは残り1のはず。


「くっくっくっ、凄まじい一撃だった。だが惜しいな。魔王の本気はここからなのだ…………」


 おや? この流れはさっきも見たぞ?


【コローセ・クッコ6世の《起死回生》発動! HP1%以下のとき、HP・MP以外の全ステータス2倍! しかし、次の一撃を受けると死亡する!】


 違ったああああ!

 しかも最悪な効果がついてきやがった!?


「ふう、はあ……どうだ、参ったか勇者!」

「いやまあ、そんな瀕死の状態でステータスUPされても怖くないけどな」

「ふえっ……!?」


 しかし、困った。

 こう息巻かれては、俺の魔王降伏作戦は通じない。


 魔王にパンツを見せてもらうことはできない。

 しかし、俺がスカートに触れるのは『攻撃』とみなされる可能性がある。


「やっぱり、捲らせるしかねえよな……スカートを!」

「くっ、殺せ! そのようなこと、わたしは絶対にしないのだ!」


 やはり甘いな魔王。

 俺の心はすでに無血開城(スカートを捲らせる)と決めているのだ。

 これ以上、血を流す必要はない。

 そもそも一滴たりとも流れてないけれど。


「俺には(スキルの関係上)お前を殺せない。それに、まだパンツを見せてもらってねえからな。幼女は知らねえだろうがな、童貞はしつこいんだぜ。お前が何度人類の前に現れようと、俺はその度に勇者としてスカートを捲らせてやる。絶対にだ!」

「ゆ、勇者……最低だ。だけど……」


 少し顔を赤くする魔王。


「そ、そこまで言われてはわたしもパンツを見せねばなるまい」


 やったあああああああっ!


「だがこう……わたしにも魔王としての体裁があるのだ。と、取引をしないか?」

「ほう?」

「わたしはおぬしにパンツを見せる。だから、その代わりに回復薬をくれないか?」


 なるほど。

 ただでパンツを見せるわけにはいかないと。


「いいぜ。飲めよ、魔王」


 俺は魔王の前の床に、回復薬の瓶を置く。

 魔王はぱあっと満面の笑みを咲かせて、瓶を拾った。

 まったく見ず知らずの勇者から物を貰うなんて、躾けのなってない魔王だぜ。


「んきゅ、んきゅ……」


 魔王は回復薬を飲み干し、恍惚の表情を浮かべた。


「これ美味い! 勇者、これもっとちょうだい!」


 なんかねだられた。魔王のくせに生意気だなぁ。

 仕方がないので、手持ちの回復薬を何本かあげる。

 魔王はそれらを全部飲み下し、満足そうに少し膨れたお腹をさする。回復薬の作用か、顔が火照り、朱が差しているがいずれ落ち着くだろう。


「さて、ではパンツを見せるぞ」

「お、おう」


 ちゃんと約束を守ってくれるあたり、魔王は優しい。

 俺は目を見開いてその時を待った。


 魔王がロングスカートの端をつまみ、たくし上げていく。

 次第に細いふくらはぎ、ふっくらした太腿が見えていき――――


「フェイ、流石に幼女妊娠は引くわ」

「勇者が魔王を孕ませるなんて……父上になんと報告すれば……」

「流石は勇者。魔王すら手籠めにするとはな」


 魔王城に乗り込んできた元勇者パーティーが、俺と魔王のプレイを目撃していた。

 上からエルフ賢者、姫騎士、聖騎士。

 彼女たちはどうやら、魔王の(回復薬の飲み過ぎでなった)ボテ腹を見て何かを勘違いしているらしい。


「……ふう」


 落ち着け。

 俺は懐にしまっておいた仮面を取り出し、取り付ける。そしてフードを被って、完全な不審者へと姿を変えた。


「俺は正義の勇者仮面、フェイタルマスク・ド・ブレイブ!」

「「「この期に及んで誤魔化そうとしてる!?」」」


 誤魔化す?

 人聞きの悪い。

 ただその場で別人になっただけで大げさな奴らだ。

 

「そして、今日からは愛と正義の勇者仮面・フェイタルマスク・ド・"ラブ"レイブだ!」

「ふえっ……な、何をするのだ!?」


 俺は魔王を腕に抱え、盛大にジャンプする。

 元勇者パーティーを跳び越え、出口に降り立つ。


「ちょっと魔王と結婚して来る」

「「「まさかのデキ婚!?」」」

「ふええええええ!?」


 未来ある幼女のパンツを見ようとしたのだ。

 それくらいは責任を取らねばなるまい。


 俺はそのまま魔王城を脱出すべく駆け出す。


「ごめんな魔王。逃げるためとはいえ、あんな……」


 嘘を吐いてしまって、と告げようとしたら魔王が俺の口を塞いだ。

 柔らかい。

 幼女の唇!?

 なぜ!?


 寂しくなった口元を確かめながら、俺は眼下をチラリと覗いた。

 魔王が顔を真っ赤にしていた。


「ち、父様が言っていたのだ。結婚するならパンツを見せられる相手にしなさいって」


 娘になんつーことを教えてるんですかね、先代魔王様は……………。


「あと、例え勇者でも、わたしを絶対に殺さないような人を選びなさいって」

「え? ああ、うん。確かに俺は(スキルの関係上)お前を殺せないけど……」

「だから勇者」


 後ろから元勇者パーティーがなにか言っているが、俺の耳には魔王の声しか聞こえない。


「実は結婚しないとか言ってみろ。絶対に『くっ、殺せ』って言ってやるからな!」


 参ったなあ。そんな命令は、俺は一生聞けそうにない。

 だからしょうがない。

 魔王を殺せなかった俺が悪いのだ、だから……


「二度と『くっ、殺せ』なんて言わせねえよ」


 だから惚れても仕方ない。

 今度は俺から魔王にキスをした。


【勇者と魔王は切れない糸で結ばれた!】


 ああ、少なくとも俺には絶対切れない糸だ。

 聖剣のクリティカルダメージだろうが、途切れない運命の赤い糸だ。



 その後の魔王との新婚逃亡生活中、なぜか『フェイタルマスク・ド・ラブレイブ』の手配書が張り出されたが、そんなことは些細なことだ。

相手が処〇だった場合、《一撃否殺クリティカル》が発動して処〇膜を破れません。いかな勇者の性剣でも処〇膜には勝てないのです。


可哀想な勇者フェイ。


そんな彼への応援を込めて、↓にある評価バーから1:1のクリティカル評価で応援してあげてください。きっと喜びます。

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