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4 魔物を倒して金儲け

 ぐっすり眠って朝が来た。

 期待はしていなかったが、起きたのは家のベッドでは無かった。

 やはり、この世界で生きて行かねばならない。


 ステータスをチェックして見たが、スライムを三匹倒しただけなので何も変わっていなかった。・・・いや、一番下の1095の数字が一つ減って1094になっていた。

 魔王を倒さねばならないことを考えると気が遠くなる。それでも今は、今の自分にできることからやるしか無かった。


 雄志は食事を済ませ、宿屋の女性に挨拶をして宿を出た。これからもお世話になるかも知れないので、出来るだけ愛想よくしておいても損にはならないであろう。


 すでに通りは人が溢れてる。雄志は人の間を抜けて冒険者組合へ向かった。


 建物へ入ると、昨日と同じカウンターの向こうにシュリの顔が見えた。シュリもこちらに気が付いたようである。


 「おはようございます。よろしくお願いします」


 そう言って登録料の銀貨一枚を差し出した。


 「お待ちしていました。こちらへどうぞ」


 笑顔を見せたシュリに、昨日と同じ部屋に通された。

 部屋には五十代に見える、人相の悪い白髪の小男がいた。


 「そこへ座って左手を出せ」


 小男は不機嫌そうな声でそう言ったが、不機嫌では無くて、元々そういう風な物言いの気がした。


 雄志が小男の前に手を出すと、小箱から針を取り出した。そう言えば左手の甲に入れ墨を入れると言っていたことを思い出した。


 「ちょっとだけ我慢しろ」


 小男は雄志に同意を求めるでも無く、いきなり入れ墨を入れ始めた。


 「痛っ!(って、オッサン。問答無用かい!)」


 雄志の額に脂汗が浮かぶ頃、直径二センチほどの簡単な入れ墨が完成した。変な模様と読めない文字が小さく書き込まれていた。

 入れ墨が終わると、挨拶も無く小男は部屋を出て行った。最初から最後まで愛想の無い男だった。


 小男と入れ違いにシュリが入って来た。手には鎖のネックレスを持っていた。ネックレスには小さなプレートが付いている。


 「はい。Gランクを示すプレートです」


 そう言って雄志の首にネックレスを掛けてくれた。


 「これでユウシさんは正式にGランク冒険者です。冒険者組合からの特に訓練などはありません。全ては貴方の努力次第です。無理をせずに着実に実力を付けて行って下さいね。・・・依頼によってはパーティーを組まなければいけない事もあるでしょうが、その時は組合の紹介所をご利用下さい」


 少し言葉を切ると。


 「それでも、ある程度顔が売れないと、いきなりパーティーを組んでくれる相手は居ないと思います。やはり誰もが実力のある方と組みたいと思っていますから」


 「それはそうでしょうね。分かりました。ありがとうございます」


 雄志はお礼を言って部屋を出た。

 さあ、今日から頑張らねばならない。


 早速、どんな依頼があるのかと、依頼書がたくさん貼ってある黒板の前に立った。

 日本語とは違った言葉で書かれた依頼書が、何枚も貼られている。それでも何故か読めるって素晴らしい。

 しょうも無いことに感動しながらGランクの依頼書を読んで見た。


 黒板には様々な依頼内容の紙が貼られていた。一番多いのは畑の警備の依頼である。

 6:00~18:00までの警備が銀貨一枚。・・・これでは中クラスの宿屋に泊まれば何も残らないし、昼食代も出ない。最低の宿に泊まれば節約もできるだろうが・・・。

 18:00~6:00までの警備が銀貨一枚と銅貨五枚である。これなら少しはお金を貯められるだろうが、片手剣を買うのに何十日も掛かってしまうだろう。

 特定の魔物の討伐や、隊商の警護などの割の良い仕事はGランクにはなかった。


 (やっぱり危険だけれど、スライム狩りが一番手っ取り早いな)


 魔石の収集は依頼書には無いが、魔石は価値があり確実に引き取ってもらえる。但し、危険が伴う。通常は魔石収集はパーティーで行うらしいが、危険な上に、やっと手に入れても人数で割ると、危険の割には大した金額にならないことが多いようだ。


 雄志は組合を出ると門へ向かって歩いた。通りは農作業に出て行く農具を担いだ農夫や、大きな荷物を積んだ荷駄車の列と、それを警護する冒険者の一団などが通っていた。

 町から町に移動する隊商の警護は、魔物だけでなく盗賊団からの襲撃の危険もあり、冒険者もD・Eランク以上にならなければ受けられない仕事であった。


 門まで歩いて行くと、タマル兵士は昨日と同じ場所に立っていた。

 雄志が近づいて行くとタマルも気が付いた。


 「タマルさん。昨日はありがとうございました。お陰様で無事に冒険者に登録できました」


 「そうか。良かったな」


 「はい。今日はこれから森の近くまで行ってみようと思ってます」


 「おいおい。いきなり森か・・・薬草採取でもするのか」


 タマルは心配そうな顔をした。登録した初日に死んでしまう冒険者を嫌というほど見てきていた。


 「そんなところです」


 スライムを倒しに行くと言えば止められるかも知れない。雄志はごまかしておくことにした。何せ武器は腰に差した樫の棒だけである。


 「では、行ってきます」


 片手をあげて森に向かって歩き始めた。


 (気をつけろよ)


 タマルは心の中で無事を祈ったが、引き留めはしなかった。結局、この世界は、自分の責任は自分で取らなければならない世界である。

 性格は良さそうな少年だが、長くないかも知れないと危惧したタマルであった。





 雄志は街道横の草むらに注意しながら歩いていた。冒険者に守られた隊商などの大人数の集団の場合なら、スライムのような弱い魔物は恐れて出て来ないが、相手が少ないと見れば餌にしようと飛び出してくるのである。

 急な襲撃を避けるためにも街道の中央を、棒を握りしめて用心しながら歩いていた。


 前方の草むらがガサゴソ揺れると、お待ちかねのスライムが現れた。


 「おりゃあ!」


 相手に身構える時間を与えずに、気合を上げて飛びかかり、頭上に棒を一閃。スライムは一撃でグチャグチャになり、足元に魔石が転がってきた。


 (まず一個。ゲット!)


 魔石を拾うために屈んだ雄志であったが、倒したスライムが出てきた同じ草むらから、もう一匹、スライムが飛び出してきた。


 「うわー!」


 避けられずに、左の肘の上辺りに体当たりを食らってしまった。


 「痛ーっ!」


 飛びのいて接触した左腕を見ると、火傷のように皮膚がただれていて、激痛が走る。


 「くそ!二匹もいたんかい!」


 再び飛び掛かってきたスライムを、身を斜めに避けながら棒を一閃させた。

 スライムはグチャグチャになって魔石を落とした。


 「やばかった」


 魔石を回収し、袋を開けたついでに薬草を取り出して、ヒリヒリする傷に直接すり込んでみた。

 痛みが嘘のように引いて行った。


 (うー。助かった。こりゃ薬草をいくつか買っておかないと不味まずいな)


 とにかく薬草があって助かった。薬草が無くて足にでも怪我をしていたら、町から遠くては帰れない可能性もあった。

 夜になると魔物の動きも活発になり、普段は深い山奥にいる魔物も出て来ると聞いていた。死がすぐ側にあると実感してゾッとした。


 薬草はあと一枚しか無いので、ここは慎重を期してもう少し町に近い場所でスライムを狙うことにした。




 

 狩りの初日は散々であった。町に近付くと極端にスライムは出なくなった。昼飯の弁当を用意していなかったので、腹を空かせてウロウロし、あれから狩れたのは二匹どまりだった。

 結局、合計四匹のスライムを狩り、へとへとになって夕方にファースへ帰り着いた。


 町の入り口では、当番の時間が終わったタマルが心配になって見に来ていてくれた。

 本当に良い人だ。

 

 タマルに今日の首尾を聞かれ、昨日、冒険者組合のシュリに驚かれたことを考慮して、一匹だけスライムを倒したと告げた。

 タマルは驚いて、大したものだと褒めてくれた。・・・本当は四匹倒したんですけれどね。


 タマルと分かれて商店街へ向かった。昨日来た時に、魔石の買い取りをしている店を数店舗チェックしておいたので、場所は分かっている。

 その内の二店舗を回って、目立たぬように、それぞれ魔石を一個ずつ売った。


 残った二個は冒険者組合に持ち込み、シュリがいたので彼女に買取りを頼んだ。

 二日連続で魔石を持ち込んだので、非常に驚いていた。


 「幸運だったので」


 魔法の言葉で誤魔化した。

 これからも同じような調子で魔石を持って来るつもりである。依頼書の方では点数は稼げないが、こちらの方が目立つし、魔物を狩れる腕の良い新人冒険者と覚えてもらえるはずである。


 それでも今日は疲れたが良い経験になった。昨日と同じ宿に泊まって、明日は薬草と弁当を買って万全の態勢で狩りに出かけようと思った。




 《現在の雄志の資金》


 出発時:銀貨一枚。銅貨四枚。

 帰着後:スライム魔石四個を銀貨二枚に交換。

 合計:銀貨三枚。銅貨四枚。

 



 次の日、薬草と弁当を買って町を出た。今日はタマルは非番なのかいなかった。

 薬草は一枚が銅貨二枚で、奮発して三枚買った。弁当は銅貨一枚だった。


 残りの資金は宿泊費一泊分くらいしか無いので、今日は遠出してでも頑張るつもりだった。

 今日の成績が悪ければ、明日から夜の畑警備もしなければならないかも知れない。


 将来、最強の魔王を倒して世界を救う予定の英雄が、飯も食えずに野垂れ死にするかも知れないとは、情けない話である。





 町から離れると昨日と違ってすぐにスライムに遭遇した。一撃で粉々に砕いてやった。

 今日は昨日のように油断はしない。昨日は痛い目にあって勉強をした。

 倒した後も構えを解かずに辺りを見渡した。・・・剣道に相手を倒した後も警戒を怠らない《残心ざんしん》という言葉があるが、《これだ!》と雄志の胸の中で、中二病がうずいた。


 昼までに順調にスライムを六匹狩っていた。その内、スライム殺しスレイヤーの称号が貰えるかも知れない。

 などとふざけたことを事を考えていたら、又もや草むらが動いた。


 「ほい来た」


 道に飛び出して来た影に、棒の一撃を食らわせた。


 「ガキン!」


 硬いものを叩いた感触に手が痺れ、あわてて後ろに飛び退いた。

 草むらから現れたのは、スライムでは無くて鎧に覆われた虫系の魔物であった。ダンゴ虫に似ている。・・・大きさは一メートルもあるけれどね。


 「くそ!」


 もう一発食らわせたが、ガキンと同じように弾かれた。


 「不味いな。全く効いて無いぞ」


 もぞもぞと動きながら鎧虫は近付いて来る。幸いにも動きが遅いので、いざとなったら走って逃げるつもりになっていた。


 (もう一回だけ叩いて、駄目なら逃げよう)


 そう思った雄志は、駄目元で一撃を放った。

 その瞬間。雄志の身体の奥から弾けるような力が発揮され、身体が鋭く動く感覚があった。


 「バキン!」


 鋭い音がして鎧虫の甲羅が割れ、魔石が飛び出し虫は動かなくなった。


 (・・・うん。今のって何?)


 初めての感覚であった。

 すぐにステータスを確認して見た。


 レベルが2になって、全てのステータスが上がっていた。

 そう言えば攻撃ステータスの横に(会心判定有り)となっている。今のは《会心の一撃》だったのかも知れない。恐らく間違い無いだろう。

 会心の一撃で、本来は棒で倒せない鎧虫を倒したのである。


 「やったぜ!」


 小躍りしたくなる雄志であった。



 その日は一日かけてスライム十五匹と鎧虫一匹の成果であった。薬草は一枚も使わず大儲けである。

 この調子なら魔王を倒す前に野垂れ死には避けられそうである。


 町へ帰ると魔石買い取りの店を回ってスライム魔石を全て売却し、鎧虫の魔石は冒険者組合に持ち込んだ。

 シュリがいたので彼女に魔石を渡した。三日連続で魔石を持ち込んだ雄志にシュリは驚いたが、魔石を光に透かして見て更に驚いた。


 「これって、クラスラの魔石ですよ!どうやって倒したのですか?」


 (あのダンゴ虫はクラスラって言うのか)


 「はあ。色々幸運が重なってくれまして。もう二度と倒せないと思います」


 頭をかいて説明にもならない説明をすると、シュリはお手上げという顔をして銀貨四枚を出してくれた。


 「今度、ユウシさんが狩りをするところを見て見たいですわ」


 「まあ、機会がありましたら」


 そう言って疑惑の目を向けるシュリをかわし、冒険者組合を出た。鎧虫クラスラは余計だったかも知れない。




 《現在の雄志の資金》


 出発時:銀貨一枚。銅貨七枚。

 帰着後:スライム魔石十五個を銀貨七枚と銅貨五枚に交換。

      クラスラ魔石一個を銀貨四枚に交換。

 合計:銀貨十二枚。銅貨十二枚。




 それから三日後、冒険者組合に行くと《ゴブリン討伐》の発表があった。町長と駐屯兵士団からの共同要請である。


 討伐の日は十日後であり、ファースにいる冒険者五十名が全員参加することになっている。

 ファースの冒険者の最上位はDランクが一人いて、彼が全体の指揮を取り、他にEランクが五名いて、彼らが冒険者を五つの小隊に分けて指揮することになった。


 (十日後か・・・片手剣をそれまでに買わなきゃな)


 冒険者の装備は自分持ちである。装備の善し悪しで自分の生死にも関わる。

 雄志は更にスライム狩りに力を注ごうと思った。


 




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