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3 冒険者のルール

 シュリが似顔絵を描き終わった。


 「はい。これで今日のところは終わりです。あとは明日の午前中にここへ顔を出してもらえますか」


 「はい・・・まだ何か?」


 「それまでに冒険者の証明プレートを用意しておきます。あと、登録料銀貨一枚を納めて頂きたいのと、左手の甲に小さな冒険者の印の入れ墨を入れて頂きます」


 「え。入れ墨」


 「はい。小さく番号も入れますので個人が特定できます。不幸にも魔物に倒された場合など、左手さえ残っていればどなたか確認できますので」


 シュリは恐ろしいことをサラッと言ってくれた。後で聞いたことだが、魔物にやられる時は、利き腕の右手で防御することが多いそうで、左手が無事に残る可能性の方が高いそうである。

 他にも似顔絵と入れ墨の番号を照合すれば、成りすましを防ぐことも可能であるとのことであった。


 「とりあえず木札は返しておきますね。明日。冒険者証明プレートを受け取ってから、門番の兵士さんに返して下さい」


 「分かりました。最後に聞きたいことがあるのですが、良いでしょうか」


 「どうぞ」


 シュリはにっこり笑っている。


 「記憶を無くしていますので、変な質問をすると思いますが許して下さいね」





 雄志は断っておいて、この世界バンガニアに来て最も気になっている疑問を聞いて見た。


 「・・・この世界に・・・魔王はいるのでしょうか?」


 「はあ」


 シュリは口を開けて、目をパチパチしたが、雄志が記憶を無くしている事実を思い出して、真面目な顔になった。


 「この世界バンガニアの常識ですが魔王はいます。・・・世界は一つの繋がったバンガニア大陸から出来ていますが、唯一、南の海にマズマザリスという絶海の孤島があり、巨大な神殿があって、そこに住んでいます。魔王の力は絶大で、マズマザリスに近付くほど魔の密度が上がって行くので、生息する魔物も強くなって行くそうです」


 (あー。やっぱ、いますか。ステータスに日にちが付いてたから、居るとは思っていたけれどねー)


 「ずっと昔に世界中の国が集まって、魔王討伐に向かったことがあったのですが、マズマザリスに到着するまでに一割が脱落し、その後の戦いで半数が打ち取られて逃げ帰ったと記録されていて、それからは魔王には逆らってはいけないと言うのが世界の共通した認識です」


 「ファースはマズマザリスから遠く離れているので魔物も弱いですが、最近はそれも怪しくなってきて、ゴブリンが増えているので、近々討伐が行われる予定です。・・・余談ですが、その時はファースの冒険者は全員参加になっていますので、よろしくお願いします」


 「はい・・・」


 (そう言えばタマル兵士も、そんなことを言ってたな。全世界連合に勝つ魔王もめっちゃ強そうだけど、やっぱり僕が倒さないと世界が終わってしまうのかなあ)


 今の雄志が考えても仕方ないことである。それより、あと一つ聞きたい質問がある。


 「もう一つ教えて下さい。もし死んだとしても、生き返ることは出来るのでしょうか?」


 RPGでは定番で、生き返るのは可能であるはずなのだが・・・。


 「・・・!」


 シュリは先ほどの質問と同じく、目を見開いて驚いた顔になった。


 「・・・えー。ラーネ教の神様であるラーネ様は、人々に安らぎと幸せを与えてくれる慈悲深い女神様ではありますが、一度死んだ人間は生き返りません・・・ただ・・・」


 「うん? ただ?」


 「はい。大昔にはそう言った魔法があったと言う、言い伝えがありますが、本当かどうかは分かりませんし、使える人の噂も聞いたことがありません」


 (うー。そうか、その点はゲームと全然違うぞ。生き返れないなら慎重にならなきゃなあ)


 「何を言ってるんですか。最初は誰でも怖いものです。ゴブリン討伐の時にはベテラン冒険者の後ろに付いて行けば、危険はほとんど無いですから」


 生き返る魔法が無いと聞いてがっかりした雄志を見て、シュリは冒険者になって怖くなっていると勘違いしたのか、励ましの言葉を掛けてくれた。


 「ありがとうございます」




 雄志は席を立ってから、もう一つ聞くことを思い出した。


 「最後に。これはどこへ持って行ったら良いでしょうか。値打ちがありますかね?」


 そう言ってシュリにスライムが落とした石を差し出した。


 シュリは石を手に取り光にかざして見てから。


 「魔石ですね。スライムの物ですね。拾ったのですか?」


 「いえ。棒で叩いたら転がり出ました」


 驚いた顔をしたシュリは雄志の顔を見て、次に腰に差した樫の棒を見た。


 「棒で叩いてスライムを倒したのですか?」


 「はい。何か?」


 「何かって・・・確かにスライムは最弱の魔物の一種ですが、棒で倒したって言うのはあまり聞きませんよ。何十発も叩いたのでしょうね」


 「ああ。はい。そうです。運が良かったようです」


 シュリがあまりに驚いているので話を合わせておくことにした。




 【雄志が思わず使った《運が良かった》という言葉は、これから雄志が何度も使う言葉である。《運が良かった》とは、あらゆる不合理を上手くまとめる魔法の言葉であった】




 「ここで買い取らせて頂きますよ」


 「ではこれも」


 残りの魔石二個も出した。


 「これも棒で・・・」


 「はい。運が良かったと思います」


 「はあ、そうですか」



 魔石を売った雄志は冒険者組合を出た。魔石は三個で銀貨一枚と銅貨五枚で売れた。

 腰袋の中には銀貨三枚と銅貨五枚あることになる。


 魔石は主に魔道具のエネルギーとなるそうで、非常に価値があるそうだ。魔道具は魔石の力で動き、魔道具は熱を出して湯を沸かす生活用品から、大きな船を動かす動力になる物まであるとのことだった。

 強い魔物ほど価値のある魔石を落とすそうだ。ゲームでドロップするゴールドの代わりと言ったところであろう。


 貨幣の価値だが、シュリに聞いたところ、ファースでは銀貨一枚で二食付きの中クラスの宿屋に泊まれるらしい。

 明日には登録料に銀貨が一枚必要なので、現在使えるお金は銀貨二枚と銅貨五枚と言うことになる。


 貨幣は屑鉄くずてつと言われる鉄貨十枚で銅貨一枚の価値があり。銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚。金貨十枚の価値がある大金貨というものもあるそうだが、めったに流通することは無いそうである。


 腹が減った雄志は、商店が並ぶ地区に向かって歩き始めた。お金は乏しいがスライムならいつでも倒せる自信が付いたので、明日から頑張れば何とかなると気楽に考えた。

 魔王のことは頭の隅にあるが、今の雄志にはどうにもならない問題である。


 しばらく歩くと物売りの店が多くなって来た。やはりこの町は雄志の知っているゲームの世界のファースである。ゲームの初期にはこの町で色々な買い物をして助けてもらった場所であった。


 店の前で良い匂いをさせて焼いていた串焼きを二本買った。二つで銅貨二枚だった。ハフハフと熱々の肉を頬張りながら、通りの両隣の店を覗いて歩いた。買い物客も多くて中々の賑わいである。


 武器屋があったので覗いて見た。片手剣の少し幅広の剣が金貨八枚で売られていた。高いが、まずはあれを手に入れることを目標にしようと心に決めた。

 攻撃力を上げることがRPGの基本である。防具屋も覗いたが見れば見るほどお金が足りない。

 ちょっと落ち込んだ。明日から金の亡者になるしか無かった。



 ぶらぶらと町を歩いた雄志は、辺りが薄暗くなる頃に中クラスの宿屋の前に来た。ドアを開けて中に入る。

 右手に受付があり正面には二階に上がる階段と奥へ続く廊下がある。左手はドアがあって向こうからザワザワと話声が聞こえた、どうやら食堂になっているらしい。


 雄志は受付にいる恰幅の良い六十代に見える女性に木札を見せて、泊まりたいと告げた。


 「タマルさんの札ですね。分かりました」


 雄志は料金表に書かれた一人部屋を指差して、銀貨を一枚差し出した。


 「毎度ありがとうございます」


 女性は銀貨を受け取り、代わりに券を二枚出した。券は食券で、食堂で出せば夕食と朝食がとれるそうだ。一階の廊下の奥には水浴び場があり、雄志の部屋は二階の奥だった。


 酒は食堂では一杯までで、もっと飲みたい場合は外に出れば酒場が何軒もあるそうだ。

 (未成年なので酒は飲んだことが無いが、その内、挑戦しよう)


 雄志は食事を済ませ、水浴びをすると部屋に入った。

 今日は多くのことがあって疲れがどっと出ていた。


 (目が覚めると、家で寝てたりするかもね)


 そう思っている内に眠ってしまっていた。



 

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