愛するものと一緒にて他(人)のことを考える(時)9
ヌーア教信徒会の信徒会の代表が神殿にやってきた。
会主という敬称で呼ばれた人物は、意外なことに女性だった。
赤いローブを纏い、国王自らが迎えに出るほどの権威をもっいるらしい。
王妃は国王の斜めうろしに立ち、忌々しげに会主をみていた。
「我らが魔神女には、この度の活躍、大義でしたわね」
と、会主は王妃に話しかけた。
「御愁傷様でした」
と、王妃は満面の笑顔で返した。
「そうね、主人があんなに呆気なく死ぬなんて」
と、会主は王へ視線を向けた。
王はあわてて会主を奥へと誘うと、三人は魔戒の間へ入った。魔戒の間は、その名の通り、魔力が使えない部屋の事だ。貴重な封印石で作られていて、外との魔力による連絡や、高位の魔法は部屋の中にいる限り発動しない。
僕は王妃の胎の中で、もしかしたら、僕の遺伝上の父親とは、この会主の夫ということなのか、と思っていると、
「この度は、うちの馬鹿がご迷惑をかけて」
と、会主が王へ頭を下げた。
王はあわてて、
「それはこちらの都合もあってのこと」
と、頭をあげるように促した。
ゆっくりと頭をあげて、首を伸ばして、今度は王妃へと敬意を表しながら、きわめて慇懃に語りかけた。
「お願いがございまして、参りました」
「わたくしに、ですか」
と、王妃はいった。
「ええ、妃殿下にしかできませんから」
と、笑った目に僕の精神は震えた。
この会主という女、とんでもない代物かもしれない。
勿論、広域洗脳魔法なんていう児戯は通じていない上に見破られているだろう。
「それは、どのような」
と、王が口を挟んだが、会主は軽く目配せをしただけで無視した。
「妃殿下のお子様をヌーア教信徒会次期会主としてお迎えしたいと、是非にと」
「いや、それは」
と狼狽する王を再び無視して、
「我らが神に等しい魔神女猊下と、陛下とのお子であれば、急逝した会主の後継にして、この王国の皇太子の双方を兼ねて」
と、二人を威圧しつつ、
「千年来の悲願であります、信徒会と王国の一体化を成し遂げる絶好の機会かと」
と、会主は頭を下げた。
「白紙委任」によって接続されているせいで、僕には国王の恐怖が手に取るようにわかった。
先ごろには大軍で包囲され、陥落寸前、王族皆殺しになりかけたばかりだ。
この申し出を拒否すれば、当然のように会主は実力をもって事を決しようとするだろう。また、不審な休止を遂げた会主の夫についても、何か因縁をつけてくるかしもれない。
けれども、まだ、生まれてもいない子供を寄越せ、というのも理不尽だった。
「是非」
と、会主が頭を上げて再び王と王妃を、今度は明確に睨んだ。
もし、拒否すれば、それこそ、今から戦争を始めて構いませんよ、というほどの威嚇を両目に込めていた。
王妃は眉目秀麗な親衛隊を外に待機させていた。魔戒の間では、魔力は封じられているから、肉体的攻撃だけが有効なはずだからだ。
王妃は、こんな馬鹿馬鹿しい相手は、丁度いい機会だからここで殺してやる、と合図の鐘を鳴らそうとしたから、僕は言ってやった。
「だめ、おかあさま」
なによ、と王妃が言った。
「よくみて。会主様の懐を」
僕は会主のローブをよくみるように言った。首から肩、そして裾への広がりに微妙な不均等さがある。
「爆弾だと思うよ」
自爆?!
「そうだね」
と、僕は、この会主、面白いな、と思った。