愛するものと一緒にて他(人)のことを考える(時)8
僕は呆れていた。
先日の騒動以来、城の誰もが王妃の前では首を垂れ、目も合わさなかった。
僕が発動した広域洗脳魔法は目的通り、全員の心に王妃への恐怖を刻み込んだ。
僕としては王妃の胎の中にいる以上は、このまま我儘で自己中心的な王妃がこれ以上敵を増やさずに、無事、外の世界へ出れるまで安穏に過ごしたいところだったが・・・。
現実は案の定な展開だった。
誰もが王妃に対して条件反射的に服従してしまうような今を好機と考えた王妃は、「規則正しい行動」を使って自分の親衛隊を作り上げた。
それも、僕の存在が彼女の魔法力を飛躍的に向上させてしまった。
三日で百人の壮健な若者たちが王妃の周囲を固めるようになった。
僕としては、これで僕の安全も守られると考えても良かったのだが、当然、これを不快に思う者たちが生まれるわけで、その不快感が憎悪に変わり、王妃への恐怖と拮抗すれば、それは当然のように殺意へと進むわけだ。
僕は王妃の五感を通して外の世界を観ているわけだが、親衛隊の面々は、まぁ、見た目は素晴らしい。
全員が美男子で、身長は180センチ以上。筋骨隆々としている。が、実戦で役にたつかは疑問だな。
ぼおっと立っているにはいいが、戦闘になったら、盾の役割以上を果たせるかどうか、というのが僕の見立てだ。
あと、僕は今、彼女の胎の中で水に浮かんでいるわけだが、今回ほど五感を随意に遮断できることに感謝したことはない。
絶世の美貌といって良い王妃だが、中身は普通の肉塊にすぎないし、その上に、妊娠中でも普通に全ての欲求があり、身の回りには好みの男たちを侍らし放題ときては、止めること時代が無謀だ。
まぁ、王妃がお楽しみの時は、僕は次の仕掛けを仕込ませてもらうのに集中させてもらていた。
そして、それは思うのほかはやく役立った。