愛するものと一緒にて他(人)のことを考える(時)7
「うたをうたって」
と、僕は王妃にいった。
「はぁ?」
と、王妃は不機嫌に、
「歌なんて無理」
と、いうので、僕は歌は口パクでいいと伝えた。
ただ、この部屋の窓から上半身を出して、城とここを包囲している兵士達に姿をみせるようにいった。
窓は鍵が閉まっていてあかない、というので、僕が魔法を使って破壊した。
王妃はひどく驚きつつも、次の瞬間には歓喜した。
そりゃそうだろうな。これまでは洗脳か回復しかできなかったのが、僕が胎の中にいるかぎりは、実質的に無制限な援軍をもっているようなものなのだから。
「ほら、みんながちゅうもくしているうちに」
僕に促された王妃は壊れた窓から上半身を突き出した格好になった。
窓は丁度、敵の本陣に正対していたし、その下の広場には宮廷騎士団が集まっている。
僕は広域洗脳魔法を発動した。
城全体に張り巡らされた霊子の結合を振動させて、全体を一つの楽器のように動かす。そして、発生した音によって人間の深層に特定の感情を植え付ける。
今回、植え付けるのは「王妃への恐怖」だ。
敵味方の全てが王妃を前にした時、恐れを抱くようにするのが僕の目的だ。
そもそも、同じ人間同士でなぜ、上下関係が発生するかといえば、それは心の恐れが実体化するからだ。
これから先、王妃が王妃らしく暮らす限りは、今、ここにいる人間たちが反旗を掲げることはないくらいな恐怖だ。
まぁ、この王妃がそこまで自制できるかは知らないが、少なくとも、僕が自由にできるようになるまでの間は、この王妃をどうにかしなければならないからな。