決意の裏側(フィル視点)
数日前、久しぶりにボウが家にやってきた。
ボウと俺は幼なじみであり、彼が今の任務に就いてからというもの、度々手伝いを依頼されることがあった。
今回も、どうやら新しく願いを叶えたいという者が現れたということで、その者のフォローをしてほしいということだった。
正直幼なじみということもあったので手伝いをしていたが、今回を最後にしようとしていた。
自分たちの生活に影響が出てきたし、なによりリリアにも迷惑がかかるかかっていると思うからだ。
リリアもそろそろ年頃だ。自由にさせてやりたい。
さて、いつも通り空から落ちてくるかなと見上げていたら、案の定そのようだった。
(着地する前に魔法をかけるのを忘れないようにしないとね。)
ミリファリカに来る前にある程度説明をされているせいか、空から落ちてくる過程で怖がる者はほぼいなかったのだが、今回はどうも違った。
「こんなんで死ねなぁぁぁぁぁぁぁあいいいぃ」
何やら元の世界で相当思い残していることがあるらしい。思わず吹き出してしまう。
とりあえず地面に着く直前に魔法を使う。
ほっとしたのか、彼女はそのまま意識を失ったようだった。
落ちてきた者は、俺よりも少し年下そうな黒髪の女の子だった。ボウからの情報だと、名前はアキラ、といったか?
ぱそこんのデータがどうのこうのとうなされている。
とりあえず家の中に運び入れベッドに寝かせると、気を利かせたリリアが彼女のベッドの脇に椅子を持ってきて腰掛け始めた。
「いつもごめんね、リリア。目が覚めるまでお願いするよ」
いつものように頭をくしゃくしゃと撫でると、リリアの眉間にシワがよる。
「お兄様、私はもう16歳です。そろそろ子供扱いはやめてくださいまし!」
全くしっかりした妹に育ったものだ。
「りょーかい。じゃ、俺は向こうで作業してるから、その子が目が覚めたら声掛けて。」
しばらく作業を行っていると、リリアが嬉しそうな声をあげ、僕を呼んだ。目が覚めたようだ。
ベッドに行くと、俺の顔を見るなり硬直してしまった。緊張しているのであろう。
緊張を解いてもらおうと思い、いくつか声をかけるもガチガチの彼女。
(えと、こういう時父さんだったらどうするんだったっけ?)
いつもは父親なんて思い出さないが、ここまで緊張されてしまうと手段は選べない気がした。
えっと…とりあえず笑顔と。
「ようこそミリファリカ国へ。こんな可愛い子だなんて、嬉しい驚きだなぁ。」
俺の予想とは裏腹に、彼女はまたベッドにぶっ倒れた。
「えっとリリア?俺何かおかしいことしたかな?」
「こういう時にお父様の事を参考にされるのはいかがなものかと、だけお伝えしておきます。」
リリアには全てお見通しだったようだ。
その後、再度彼女が目を覚まし、普段リリアに接するとおりアキラに接したら、リリアに天然タラシと言われてしまった。他人の前だから表情は崩さないが、兄として少し凹んでいる。
リリアが彼女に現状を説明しているのを横目で見ながら、ふと思う。
そういえば、妹以外の女性と接する機会がほぼ皆無で、どうすればいいか分からない。
うんうん悩んでいると、リリアがびっくりした声を出した。
どうやらボウは、彼女に同意も得ずこちらに連れてきたらしい。
ただこちらに来たからには、条件を満たしてもらわなければいけない。非常に酷なことである。
今度は俺から元の世界に戻れる条件を説明する。
アキラは呆然とした表情を隠せないようだ。過去の自分と一瞬重なり、俺は自然と言葉が出た。
「正常な反応だよね。だから俺としては、不容易に死ぬ選択はして欲しくない。できる限りフォローはするから、俺たちと一緒に頑張ってみることはできないかな?」
アキラは決意したように、俺たちの提案を受け入れてくれた。
かつての俺のようにはさせない。
決意したものの不安そうな表情は残っていたため、優しく頭を撫でた。リリアもいつもこれで落ち着いてくれてたっけ。
そんな俺の思いとは裏腹に、アキラは明日の方向を見始め、リリアにはアキラから見えない部分をつねられたのであった。