あることについて
再度目を覚ますと、カーテンの隙間から夕日の光が漏れていた。随分気を失っていたようだ。
目を覚ました陽に気づいたのか、お兄様の方が心配そうに近づいてきた。
「大丈夫?色々と急展開だったから、ビックリしたよね。」
そしてナチュラルに額と額をぴたっと合わせて
「うん、熱もなさそう。」
とにっこり微笑んだ。
イケメンと額をぴったんこしてしまった。もうだめだ、死ぬかもしれない。
パソコンの履歴なんてもういいや、本望だ。
魂が抜けかけている陽に気づいたのか、妹君が助け舟を出してきた。
「んもう、お兄様っ!アキラ様が困られておりますわ!」
ぷくっとほっぺたを膨らます姿もなんとも可愛い。
そしてこちらにくるっと向き変えて、ぺこりとお辞儀をした。
「初めまして、アキラ様。私、リリアと申します。ボウにアキラ様のお手伝いをお願いされております。そして、そこの天然タラシのお兄様は、フィルでございます。」
妹に天然タラシと悪口を言われても、当の本人フィルはにこにこしている。
そんなフィルを横目に、リリアは話を続ける。
「えと、説明下手のボウのことなので、恐らくアキラ様は何もご存知ないかと思いますの。もう少し落ち着いてからでもいいのですが、ご説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
そう言うとリリアは可愛らしく小首を傾げた。
ちょうど状況把握をどうやってするか悩んでいたところだったため、有難いことである。
「ご配慮ありがとうございます、リリア様。もう身体の方は大丈夫なので、説明していただいてもいいでしょうか?」
「はい、勿論です。アキラ様の願いは何か存じ上げませんが、ボウは願いを叶える力を持った者。しかしタダでは叶えてくれません。どうすればいいかと言いますと…」
そう言いながらリリアは雫の形のネックレスを取り出した。
「この雫、今は中身は空っぽですが、アキラ様がこちらの世界で徳を積めば積むほど中に色のついた水のようなものが溜まってきます。中身が全て満たされた時、アキラ様の願いが叶うという仕組みです。」
なるほど、あることというのはそういう事だったのか。
しかしひとつ引っかかることがある。
「リリア様実は…」
★★★★★
「えぇ、なんということでしょう!」
リリアが驚いて目をぱちくりさせている。
それもそのはずである。ボウから手伝いを任されたはずの相手は、望んでこちらの世界に来たわけでなかったのだから。
すると今までにこにこと話を聞いていたフィルが、心配そうに口を開いた。
「早とちったボウが、勝手に連れてきたってことか…。それにしても困ったね。」
「困る、ですか?」
「うん、そうなんだよ。実は一度ミリファリカに来てしまうと、条件を満たさなければ元の世界に戻れないことになっているんだ。満たすには二つ方法があって、一つ目はこの世界で徳を積んで願いを叶えること。そしてもう1つの方法は…」
言いにくそうに陽からいったん目を逸らすも、意を決したように陽の隣に腰を掛け声のトーンを落とし話し始めた。
「死ぬこと、なんだよね」