3 鎮魂士・続き・2
陽が落ちて満天の星がまたたく丘の麓で、ミリアムは風に吹かれて、火照った頬を冷ましていた。
真っ赤な顔で帰れば、また何と言ってからかわれるか、分かったものではない。
(サンケのばか、あんな事を言うなんて、いつの間にか、おマセになって。今頃みんなに、あれこれ余計なお喋りをしているわ。)
それを思うと帰りたくても帰れない。
神官の青年の姿を見たとたん、意識しすぎて自分の顔面が火を噴き、口をきけなくなることは
分かっている。
エメスの外見も雰囲気も教養も、隣近所の村々の同世代の男の子達とは全く違う。
穏やかで品が良く、すらりと長身で、でも男らしい。
(ルクサーナ人て、みんなあんなにすらりと背が高くて上品で身のこなしが優雅なのかしら。
・・・・やだ、私、干草臭い。きっと、何て垢抜けなくて醜い子だろうって思われたわ。)
ミリアムはシュンとなってしまった。
落胆したおかげで、すっかり顔の火照りも引いたから、家へ帰ろうとした時。
ミリアムは、一筋の大きくて美しい流れ星を見た。
すぐそこの林に流星は吸い込まれた。
林の木立の中に、幾つかの光球と、水色の髪の毛をした人物の姿。
(鎮魂士だ!)
生まれて初めて見た。
幽玄な光景にミリアムは圧倒されたが、恐ろしさで足が釘付けとなり、動けない。
(やだ、どうしよう。父さん、母さん、助けて。怖い。)
大家族の常で、ミリアムの不在に家族は誰も気付いていないかも知れない。
(見つかったら、魂を抜かれるのかしら。死神の元へ連れ去られるのだったかしら。)
鎮魂士の仕事する様子を見てはいけないとされる。
ミリアムは禁を犯してしまった。
掟破りの罰は具体的にどうなるのか、風聞以上のことは知らない。
(こわい。でも、とても綺麗・・・・。人の魂って、宝玉みたいに輝くのね。)
うっとりして見とれるミリアムの肩から、強風でストールが外れて林の方へ飛んだ。
「あ、・・・・!」
林の中の鎮魂士は、宙を舞うストールを振り返った。と思うと、ボッっと激しい炎を一瞬あげて、ストールは林の手前で燃え尽きてしまった。
ミリアムと鎮魂士の目が合った。