プロローグ:#0、俺はもう死んでいると言われました
目が覚めればそこは見知らぬ暗い空間の中の床で寝転がっていた。そんな虚空の中にまるで夜空に見上げる宇宙の星々の様にその尊い輝きの粒々は展示されてる宝石のようにきらめていた。その光輝は一時的なものでしばらくすると再び闇へと飲み込まれていった。
「ーーここは?」
俺は何故ここにいるのだ?ここで寝てしまった前に何をしてたか全く思い出せない。どうしてここで寝てたかも思い出せない。自分の名前も年齢も。誕生日も。家族も友人も。家と街の光景も。
なに一つも思い出せない。
記憶が無い。
その事実が明白になった瞬間、俺の脳内は深い暗闇の渦へと叩きつけられて今までの思考が四方八方へ飛び散った。怖い。何の情報も知能のないこの嘆かわしい絶望が生み出した「助からない」思いが自分の精神を崩壊寸前まで追い詰めた。
「ーーーーふぅ、お、落ち着け」
俺は何度か手のひらで描いた「人」を薬のように飲み込んで頭痛と焦りを落ち着かせた。まず、自分から取れる情報を把握しよう。
自分の声を聞いて、自分の体を少し触って性別は男だってわかった。声変わりしてる事と、細いが強く鍛えられてる身体から自分は高校生だと考えられる。一般的な髪型で黒いT-シャツに袖の短い青いフードを着ていた。下半身はポケットの多いジーンズに真っ白な靴。ごく普通な休日で出掛ける服装のものだ。これで今の居場所の情報が全く得れない。
目が覚めた時から進歩が無くてガッカリしたもの、深呼吸をして気を取り直してから潔く立ち上がった。何か手がかりはないかと未踏の周囲を見渡す。視界に入るものは深い漆黒でしかなく、真っ直ぐ立てば足元が消えるほど暗い。前へ恐る恐る一歩、二歩、そして三歩前へ脚を運ぶがもう一歩出す勇気が湧かず、膝から下に力が入らなくなった。自分の努力と根性に落胆して溜め息をついてその場に尻餅をついた。
ーークソ、何なんだよ!何だよこの状況は?
そう自分の情けなさに落ち込んでいたら何処からともなく、目の前に何者が青白い光に包まれていきなり現れた。
「ーーっ!!?」
予想外の出来事の驚きの余りに未知の存在から咄嗟に目を背けた。その姿は見れず、後光らしい輝きが射してる特徴しか見えなかった。確かに人影が見えた筈だが、あれは俺の次元を遥かに超えてる存在だ。背元から金縛りにされるくらいおぞましい気迫が感じられる。まるで逃げ場の無い獲物を睨みつける大蛇が放つ無慈悲かつ必死な殺気が叩きつけられている。相手には好ましい遭遇だがこちらには利点が微塵もない状況だ。
再び見て確認をしなくてもいい。
むしろ、してはいけない。
人間の僅かな本能が「騒ぐな」と叫んでる。
人間の仄かな理性が「動くな」と喚いてる。
人間の微かな野生が「見るな」と吼えてる。
人間の哀れな本性が「来るな」と願ってる。
「、ああああああー。ああん、もうっ!なんでこうなるのよ!いやあだああ!」
若い女性の声だ。それも怠惰で不満そうな声だ。緊迫のない緩い声がこぼれ出たせいで頭の中に作り上げたこの不吉で孤独な雰囲気を完全に打ち砕いてしまった。
………一瞬でもこんなに頑固で情けなけない子供にビビっていた自分が情けなく思えた。ここには無限に広がる宇宙と死んだふりをしてる俺しかないのにとても余裕そうだ。
もしかしたら、一体ここがどこなのか知っているかも知れない。この安定すぎる故に不安定な空間なんだかとても嫌な予感がする。振り返って声を掛けようとしたその瞬間、
「おーーーーい」
俺にもわかる言語で話してる。ここには俺以外誰もいないので彼女は多分俺を呼んでいるのだろう。それとも暗闇から誰かを呼んでいるのかもしれない。まだ何も分からないからここは黙って少し様子を見よう。
‥‥‥
「起きてーーーー」
また嫌々そうな声が口から漏れる。
これは絶対俺へ言っている。何回か無視すれば諦めるだろうかと試してみてみたかったのまだ寝ているふりをした。彼女が足をすすりながら俺の方へ来るのが聞こえてきた。思い通り俺の方へ来るが、ハイヒールで俺のを力一杯蹴られるのは流石に予想外だった。
「グふっ?!」
痛っっっってぇ!!何?何?なんで蹴った?脇腹の苦痛とアバラ骨の激痛が一気に脳天へ上がり、全身に異常信号が駆け巡った。すぐに吐き気と腹の腫れみが感じた。
最後に何を食ったのかもわからないのにそれを吐き出すのは
「もうう。今、機嫌最悪なんだからすぐ起きろおお」
こいつマジか。。。彼女のこの態度は想定外だった。まさか蹴られるとは思わなかった。
「あ。。。。あれ?まままたやっちゃった!?ごめんね!んもー、しっかりして。」
彼女の態度が急に狂人から常人へ戻った。変わった?戻った?どっちが彼女の普通か分からない。
さっき自分で俺に負わせた傷を見てハラハラしているのが見えてくる。起き上がって何もしてないのに蹴られた文句を言おうと思ったが、怪我を直してくれるかもしれないので少し様子を見よう。
「ど、どうしよう。。痛そう。。。致命傷かな?」
すみません、何ですと?ただのアザですよ。
ですよね??
実は寝ているふりを続けていたからどれ程ひどい傷かは見てないし分からない。
なんか思い出した。神経まで焼き尽くされた火傷は痛みが感じないって。痛覚が狂うくらいひどい怪我なのか?血は流れていないのは分かる。多量出血で死ぬ事はないだろう。
って、何くだらない豆知識を思い出してるんだ!使える情報を思い出せよ!!
「も、もう苦しみ続けるより、これはトドメを刺してあげた方が、」
「!? ままま、待て!待て待て落ち着け!!大丈夫だ大丈夫!もう痛くないから……痛く…ないから」
彼女のありえない発言で俺の全身に鳥肌が立った。身体から痛みがぶっ飛び、反射的に俺は勢いよく起き上がった。
「キャ!良かった〜!大丈夫なのね。ふう。んん?でも顔が青いよ?やっぱり体調が、」
「こ、これはさっき起きたばかりだからだ。まあ、俺は朝弱いタイプだから、は、ははは」
なんとかごまかせた。俺の顔色はお前のトドメ宣言とそのどこに隠し持っていたのかが分からないダガーのせいだ!と言いたいが我慢した。
甘かった。確かに前よりは丸い性格になったが、天然Sの本性は変わらないままか。
だが、それどころではない。俺の目の前に立ってる彼女の美しさはさっき蹴られた恨みを晴らす位の別嬪の美人だ。どこの国の子なのだろう。見たこともない綺麗な白いウェーブのかかった髪に黄色い瞳が特に目立つ。
でも引っかかる点がる。彼女の服装。自分の名前すら覚えてないのに彼女が着てる
「そうなの。まあいいわ。あなた、ちょっと私について来て。あなたも聞いているでしょ?もうすぐアベル様がゲームの説明をするから。」
‥‥‥は?なに?どう言う事?何を言ってるのかさっぱり。
「ちょっと待って。今、神がゲームの何?」
困惑した表情で聞いてみたら呆れ顔が帰って来た。
「?だから、今から神様があなたがプレイヤーとして選ばれたこの次期神選抜ゲームのルールを説明してくれるのよ。」
*******
「はあああぁ?記憶がない?死ぬ前の記憶の全部??」
俺が記憶の事情を話した途端に彼女の顔の血の気が引いて、青ざめた顔を地面に叩きつけて愕然としていた。
思ったよりコイツは頼りないな。
「ああ、そうだよ。俺には記憶がないって散々言ってる、、ちょっと待て。さっき俺が死ぬ前の記憶とか言ってなかったか?」
がっかり落ち込んでる彼女が半泣きな顔をあげて小声で答えた。
「そうよ。あなたは死んだのよ。ううう。」
胡散臭いが機嫌を損ねて八つ当たりにされるのはゴメンだから黙っておこう。
「そうか。自覚はないが自分が死人だと言われるととなんだか嫌な気分だな。その、俺はどうやって死んだか知っているか?」
「私があなたに隕石を落としたのよ。」
「‥‥‥はい?」
何言ってんだこいつ??
「だってこのゲームに参加するには死んでいないといけないのにあんた生きていたもの。」
だめだ、さっきからコイツが言ってることについていけない。
ちょっと可愛いからってそんな冗談を言っていいと思ってるのか?
まあ、もう少し情報集めをすればコイツとはおさらばだ。
そんな使い捨てにするつもりの彼女は振り乱れた髪を整い、立ち上がって頰に零れた涙を純白な衣の袖で拭き取った。
「もうそろそろよ。現世紀の神、アベル様が説明しに来るから礼儀正しくしなさいよ。」
彼女がまた理解不能な発言をすると、目の前に彼女と同じく光に包まれて彼女が話していた神様が現れた。けれど彼女とは違う神々しい虹色で目が眩むほど激しく輝いていた。
その神様は想像していた長くて白いヒゲの爺さんではなく三十代くらいでがたいの良い男だ。逆立ってる黒髮に鋭い眼で愛想ない表情をしてるから強そうに見える。それに加えて一般サラリーマンみたいなスーツにネクタイを着ており、外見には神らしい特徴が全くない人だ。
「アベル様ああ、助けてくださいい。」
「なんだ、また泣いているのかエリサ。今度は何だ。」
お調子者の名前はエリサ、か。
「私が選択したプレイヤーが記憶が無いとおっしゃていますの〜。」
俺を締め付けながら俺の苦情を神様に言うコイツが段々と腹が立ってきた。
「誠か?」
神様が俺に視線をそらした。目があって、初めてこの人が神様っぽいと思った。言う言葉はちゃんと選ばないと。首元を掴んでるエリサの腕を振り落として、アベル様の問いに答えた。
「はい。お、私には自分の記憶が全くありません。俺の名前もここがどこかも。」
神様は表情を変えずに鼻からため息をついてエリサへ目線を戻した。どうやら俺の記憶は必要な物らしい。
「どうしても参加したいと言いつつ連れて来たプレイヤーは事情を飲み込めてないでは無いどころか元の世界の記憶も無いではないか。」
「すみません、どうしても「リサイタルハート」に行きたくて‥‥‥」
お前のバカンスで俺は死んだのか?
「まあ仕方ない。では、お前とエリサを送り込む前に手っ取り早くこのゲームの目的、そしてプレイヤーであるお前の目的を説明しよう。あ、その前に自己紹介をしておこう。私は7代神アベル。そして彼女が君を神に選んで召喚したエンジェル、エリサ。」
天使だとお??
「さあ、始めよう。」
神様は頭上にある光の粒を摘まみ取ってホログラムを作り始めた。
取れるんだあれ。さすが神。理屈がつかない事は一つ二つできて当然だな。
それに比べて天使ってどうせ羽を背中から生やして飛べるくらい、、、
「エリサ、あと2粒取ってくれ。」
「はいはーい、です。」
‥‥‥誰にでもできるのか?
エリサができるなら俺もできるかも。試しに近くにある光の粒をもぎ取るように手を伸ばしてみた。空。
かっこ悪。
「あはははははは。何やっての?バカみたい。」
俺の無様な姿を指差しながらゲラゲラ笑い出すエリサ。こいつが天使だと言われても本当に信じがたい。百人からそう言われても信じれない。逆に百人に聞いたら百人中百人は「ありえない」と答えるだろう。真面な子はいないのだろうか。
「ーーぷっ。。。エリサ集中しろ。」
そこ笑うなよ、ゴッド。
*******
「あああ、やっっと終わった。ああ疲れた。」
「ご苦労。まあ、五分しか経ってないがな。」
すごい。言葉にできない感動が重い吐息の塊として出てきた。二人とも光の粒を粘土のように伸ばしたり、固めたり、色すらも自由自在に変えれて。何度か夢か現実か確かめた。それは目の前に見てる絶景よりも優雅に虹を操るエリサに見惚れてしまった自分の正気を確かめる動作。
喋らなければ誰もが認める美人なのに。
「おい、何ぼーっとしてるの。いい、あんたが記憶を思い出せないから私は苦労したのよ。感謝なさい。アベル様は一度しか説明しないから覚悟して聞きなさい。ほら、そのバカ面はせめて私だけにしなさい。」
美人なのに。
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