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spring〜紫紺〜

作者: 桔梗
掲載日:2018/02/20

 目の前に、ことりと置かれたマカロン。右がラズベリー、左がピスタチオらしい。

 「ピンクと、緑かぁ」

 そんなことを呟いて、ラズベリーの方から手に取る。さくり、と口に含めば、ベリーの香りと優しい甘さが広がった。

 程よい甘みが、ほんのいっときだけ私を満たす。余韻を味わったあと、残りをひとくちで頬張った。

 「やっぱり美味しいよ、君が作るマカロンは」

 「それは良かったよ〜。今日のは力作だし」

 君が喋るのにあわせて、低めの位置で結んだポニーテールが揺れる。ゆらゆら? いや、ふわふわといった方が近いのかな。

 「力作? 何か違うの?」

 なんて聞くと、君は怒ったように笑う。今度は、ばしばし。

 「アーモンドパウダー、高級品だよ!いつもよりグレード上げたからね」

 ……実を言うと、そんなのはもちろん分かっていた。分かってて言わない、だけ。


 「うーん、どっちにしても美味しいから良いや」

 もうひとつのマカロンに手を伸ばした。ピスタチオ風味。

 ピスタチオの緑《グリーン》が綺麗だな、と思ったから、何気なく窓の方向へ翳してみる。

 窓の外に覗く梅の薄紅《ピンク》、ぽっかりと羊雲の浮かぶ青い空、そしてちいさな焼菓子の緑色。ガラスの外の世界と中の世界のコントラストに、ほんの少しだけ目眩がした。

 「今日は、紅茶もおすすめのやつだから是非どうぞ〜。高級品、でもないけど、私のお気に入りのキャンディ」

 ありがと、と言ってからカップを持ち上げた。立ち昇る螺旋の湯気が、私の視界を白く染め上げてゆく。

 ────嗚呼、君に触れて、そのまま愛してしまいたい。

 口付けより先がないのなら、失うものなんてきっとない。

 失うものさえもないのなら、怖いものなんてないでしょう?

 「なーんてね」

 君が受け入れてくれないことに意味なんてない。

 これはただの戯れ言だ。あるいは、言葉遊び。叶わぬ夢の、そのまた夢。


 視界がクリアになると同時に、思考も正常へ戻っていった。さっきのは、白昼夢だということにしておこう。

 「ん、この紅茶、美味しい」

 そうでしょ? と、我が意を得たりとばかりに笑う君。ぴょんぴょんと跳ねる、長い髪。

 「キャンディはね、その名前の通り、飴みたいな味がするの。だけど甘ったるい訳でもなくて。このお店でも常連さんだけに出してるよ」

 サービスだね、なんて言って微笑む。色っぽさと、愛らしさと、その狭間にいる君。美麗とも違うし、妖艶とも違う。

 好きな人に触れたい、抱き締めたい。そんな感情を教えてくれたのは、すべて君だ。みんながアイドルに感じるのかもしれない想いを、君にぶつけたい、とか。


 「じゃあ、そろそろ行くね。仕事の時間だし」

 「お会計はほっといていいからね〜。また来てね!」

 肯定でも否定でもなく、ただ手をひらひらと振り返して店を出た。その意味を捉えるのは君の役割だろう。

 扉の向こうでは、梅が今を盛りと咲き誇っていた。特有の甘い香りを漂わせ、枝をこちらへ伸ばしている。

 「ごめんね、私はロウバイの方が好きなんだ」

 今度こそ、拒否するように手首を返す。

 梅の花を越えれば、別れと出会いの季節がやってくる。その時まで、今はただ────

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― 新着の感想 ―
[良い点] 男女で入るスイーツの店というシチュエーション。 [気になる点] 詩的な表現の多用で読みにくさがある。 [一言] ぴょんぴょんがとても浮いてて、思わず二度見した。
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