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鳴り続ける音を止めたい

第二話です。小説を書くのって、結構楽しいなって思います。

「ふう、今日も駄目だったな」

 ただいま、の声も発さず、建物に入るとすぐに僕は寝転がる。

 一応自己紹介しておこう。僕の名前は、末部(まつべ)終理(おわり)。先日、気持ちよくぐーすか眠っていたところを恐らくは熱中症、もしくは心臓麻痺か、大穴で喘息、の、いずれかの症状によって死亡してしまった日本人の男子高校生だ。僕をぶっ殺した本人は熱中症だとか言っていたけれども、冷房は一応点けていたはずなので、頷けない部分もある。しかし、そんなことは気にしていられないし、その必要もない。死んだものは死んだのだ。そのことを、今は受け入れようと思う。死んで、生まれ変われたのだ。そのことをありがたく享受しようじゃないか。……いや、殺した本人に蘇らされても、特にありがたみはないな。しかも、事故じゃなくって、故意なわけだし。

 僕を殺した犯人は、肩書だけ聞けば僕なんかからしたら、いや、全人類から見てもとっても高貴なお方だ。そう、つまり、神様なわけだ。僕以外の人が神様という存在をどう思っているのかはわからないけれど、とにかく、僕からしたらそういう存在なわけだ。神様っていうのはさ。まずは人間よりも次元的に、って言うと意味が分からないが、高位な存在で、崇め敬われるべき方々なのだ。因みにだが、例の神様の口ぶりからして、神様というのは複数人存在するらしくはある。だって、『ほかの神様が人間を間違えて殺してしまっているのを見て自分もやってみたくなった』とか、言ってたもんな。おおい、熱心な一神教信者様~、神様ってたくさんいるらしいですよぉ、みたいなことを口走りそうになったけど、相手はいないしその元気もなかった。神様ってものの存在について考えると、きりがないよな。例えば無神論者に言わせれば、『苦しんでいる人間の存在する時点で、神様と呼ばれるものがいたとして、それを神様と呼んでもいいものか? いや、そんなものは神様ではない、ゆえに神様はいない』らしいからな。ウィキペディアで読んだ。神様が本当に神様だったとして、それらのさらに上に君臨する、界王様とか管理職とかそういう意味じゃなしに、次元的に上に存在する神様というのがいてもおかしくはないわけ。んで、それが現実で信じられている一神教の神様なわけ。一神教ってわかりやすいから広まったらしいよぉ、っていうのは中学の時に社会で習ったことだった。知らんけど。少し難しいことを考えようとすると、頭がこんがらがってくる。考えようとしただけでダメなのだ。これは、昔からの僕の特性だ。要するに、馬鹿ってことなんだけど。まあ、兎に角ここまでで神様って何回言ったか数えて落ち着こう。……そんなの覚えてられたらきっと馬鹿なんかじゃないよね。最後に食べた料理も覚えてないよ、僕。

 まあ、まとめると。

 僕は、殺された。

 服にネクタイに肌に髪に眼球にすべてが白くって、眼だけが煌々と赤く輝くおっさんに。

 僕は、一目惚れした。

 服も髪も肌も暗くって、それでもやはり眼だけは赤くきらめく少女に。

 まあ、同一人物なんだけどさ。しかも、最初は神様と名乗ってたけど、実のところ所謂邪神なんだと。でもとてもかわいいのだ。今でも目を閉じれば、鮮明に思い出せる。その笑顔も、赤くなって照れてる顔も、声も。名前はイヴっていうんだってさ、可愛いなあ。あー救われそう。

 そして僕は告白して、求婚され、異世界にやってきて……あれ、なんだか展開が急だね。どういうことなんだろうね。

それを、今現在にも見習ってほしいものだよね。うん、どういうことなのかっていうのはこれから回想するから、ちょっと待っててね

 目覚めた僕は、古ぼけた教会のような場所にいた。建物は現実世界のそれとも似ていて、奥には神様の像のようなものが飾られているので、間違いないと思う。ただ、その神様は僕の生きていた世界ではあまりメジャーなものではないように感じた。見たことがないから。一切そっちの方面には精通していないが、珍しい像だな、とだけは言っておこうと思う。いや、言わないけど。

 まあ、何はともあれ。

 あれから、三日が経っていた…………。

 うん、あれから何も腹に入れてません。幸運なことに水分だけは取ることができているが、それだけというのも限界だ。一日くらい何も食べなくたって死なない、なんて俗に言うけれど、流石に三日はまずいと思う。背中と腹がくっつきそうだ。グルグルルルル、となる腹の音は痛ましいし、物理的に辛い。もう一歩も歩きたくない……僕は未だ、初日にいた教会で寝転がっていた。蜘蛛の巣が張っているので、相当手入れがされていないのだということがわかる。くそ、邪神様め。どうせ召喚するなら、街とかにしといてくれよ、サービスが悪いんじゃ。この教会、森に囲まれてていわば穴場といった感じで、抜け出そうと思っても途中で暗くなってくるんじゃ。裸足だから、足とかもう傷だらけなんじゃ。流石に怖いから、この教会に戻ってまた寝るんじゃ。そのエンドレスなんじゃ。愛の泉も涸れはてそうだ。

いや、軽いノリのように思えるかもしれないけど、本当、もう死にそうだから。

 すみません邪神様、折角永らえさせてもらったこの命、もう終わらせてしまいそうです。また会うって約束、守れなくてすみません……

「ん……」

 不意に、どこかからりんりん、と、鈴の音色のようなものが聞こえた。うん、これは鈴だ。そうだ、鈴に決まっている――って、鈴かどうかなんてことはどうでもいいんだよ。重要なのは、延々と鳴り続けているこれは、一体何なのかということだけだ。おお、鳴りやまない、不気味だ。気になりはするけど、今は、身体を一ミリたりとも動かしたくない。早くこの空腹から逃れるために、寝てしまいたい。そのうち、腹が減って寝られないとかありそうだから寝られるだけ寝ときたい……。

 りんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりん

 ……うるさいなあ。僕は目覚まし時計を持ってきた覚えはないぞ。持ってきたのは、この身とパジャマとパンツだけだ。

 りんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりん!

 本当に目覚まし時計よろしく音が大きくなっていく……いや、うちのタイプはそうなんだよ。おかげで毎朝、起きられてます。もうこれからは起きれなそうです。……ってか、太陽が真上に上ってる頃に毎朝(朝?)起きてるから、いつも森から抜けられないのかもしれない。早起きすれば、もしかすると。なんて、はかない希望を抱いて、それだけだ。明日にはもう、この建物から出ることすら叶わないかもしれない。

「……くそ」

 なるべく元気とエネルギーを使わないようにそう声を発して、僕は体を起こした。

「何だよ、もう」

 辺りを見渡す。そこには、最早使い慣れた教会の姿しかない。しかし薄暗くなっているため、特に石像は、些か不気味だった。立ち上がって、音のする方へと歩き出す。

 出口の付近から、音がしている気がした。何かおかしなものはないか、とドアを開いて外を見回して、何もなさそうなので、改めて中を探す。すると、何やら封筒が落ちていて、音もそこから鳴っているようだった。

 僕は未だ鳴りやまない鈴の音を煩わしく思いつつも、その封筒の口を破った。すると、音はぴたりと止んだ。

「………………………」

 封筒の中には、一枚の紙が入っていた。僕は四つ折りになっているそれを、恐る恐る取り出して、開いた。




『何やってんだ、君は一体!』




 可愛らしい声が響いた。……、この声は、邪神様だ! 邪神様が、紙の上で飛んだり跳ねたりして、僕に叱責してくる。ああ、癒される。

『約束したのに、まるで行動を起こしてないじゃん! いつもいつも、こんな森、すぐ抜けられると踏んでたのに、抜けたら街なのに、君はどんだけ方向音痴なの! しかも死にそうになってんの!』

 ……申し訳ない。この辺りは、碁盤状じゃないんで……。それにしても、「じゃん」って。なんだか俗っぽい。威厳のかけらも感じられないぞ。

『言い訳すんなー!』

 っていうか、君は京都暮らしじゃ、なかっただろー! 叫ぶ神様。うーん、おっしゃる通り。しかし、心を読まないでほしい……。

「それにしても、こんなふうに連絡が取れるなら再会した時のありがたみがないかもしれませんね」

『……いや、当分これは使わないつもり。いや、使えない……』

「え、なんで」

『お小遣いがね……』

「……………………………」

 やはり俗っぽい神様だった。

「……それじゃ、本当にこれでしばしのお別れですね」

『ちゃんと、見守ってるからね』

「死にそうだったら、助けてくださいね」

『頑張ってね』

「……よろしくお願いします」

『頑張ってね』

 紙から神が消えた。

「………………………」

 紙から声が聞こえなくなると今度は、そこに文字が浮かび上がってきた。

『金貨が一枚入ってるから、これでしばらくは凌ぐと良い』

 確かに、封筒にはそれらしきものが入ってはいた。ううむ、大事に使わせてもらおうかな。

 まったく、過保護だなあ。

『密造したやつだけど』

「………………」

 僕、捕まったりしないだろうな。





 外に出て、紙に書かれた指示通りに歩を進めるとものの数分で街に出た。

「……今までの苦労は何だったんだろう」

 紙からは、文字もすでに消えている。次に邪神様とコンタクトをとるのは、一体いつになることやら。

 その紙を大事に折りたたんで、パジャマのポケットにしまって。僕は、ぐっと密造貨幣を握った。

――まずは、飯だ。そして、服と靴も買わないとな。

――たった三日の空腹を我慢すれば金貨(密造)をもらえるなんて、ある意味イージーモードかもしれないな。

勿論それは、もう腹を空かせなくてもいいのだという余裕が生んだ考えだ。さっきまでは、「なんで僕ばかり」とかぐずっていたに決まってる。

 足が軽い。少しばかり胸が躍る、高鳴る。

 今この時に、僕は真に別の世界へと訪れたのだ。僕の冒険は、今から始まるのだ。


 と言っても、飯食って服買ったら、あとは宿探して寝るだけなんだけどさ。

 明日から、がーんばろ。

 何したらいいのかなあ。



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