彼女の家の風呂場で <FA:萩尾滋さんから>
私には同性の恋人がいた。
黒髪の前下がりのボブが綺麗で顔立ちのシャープな彼女を助手席に乗せて田舎道を行く。
彼女がふざけてハンドルを弄りカーブを切り損ねかけたりとなかなか危ういドライブだった。
私はいつも彼女に翻弄されていた。
誘導されるがままに、彼女が家族と共に住む山の中の家に車を止める。
勝手口の扉を回し、彼女は私を中へと誘う。
ここは別棟になっている独立した風呂場だという。
あばら屋のような見かけに反し、中はさながらホテルの大浴場だ。
知る人ぞ知る秘湯のよう。
彼女は既に肉体関係にあった私を誘っているのだとわかる。
服を脱ぎ風呂に入る前にトイレを借りる。
トイレは何故か便器の中に洗濯物がいっぱい漬け置きされてあった。
盛り上がって蓋が閉まっていない。
諦めて出ると脱衣所に彼女の父がいた。
私はすでにバスタオル一枚だ。
気まずいながらも挨拶をする。
彼女が汚れたから私には風呂を貸してあげるのだと父に説明する。
同性の私が恋人だとは夢とも思わない彼女の父は、もちろんどうぞと快諾してくれる。
彼女の父はバスタオル一枚の女を前に恥ずかしがることもなく、自慢の風呂場の機能を作動させながら説明してくれる。
ジャグジーに電気にジェットバス。
浴室にミストも付いている。
広いだけでなく機能も充実しているのだ。
彼女は父と一緒に帰宅した幼い妹や弟たちの世話で忙しくなったので、私は一人で広い風呂に入ることになった。
彼女の父に洗顔フォームはないかと尋ねると中華調味料が出てくる。
餃子のタレのようなとろりとした茶色い液体だ。
「これは調味料ではないか? 」
と訝しむと彼女の父は
「そうだ、最近はそれで洗っている」
と重ねて差し出す。
試しに顔を洗ってみるがやはりそれは餃子のタレで、顔全体に香ばしい匂いとベタつきが残った。




