内臓の検分 ※<FA:萩尾滋さんから>
※大変不快な描写があります。ご注意ください。
大人の男性の腹部を丁寧に割いて皮を開き、虫ピンで壁に留めて(男性は裸で壁を背に座らされていました)、内臓を検分しました。
これは子供ではない。
大学生の頃の夢です。
そこはマンションの一室でした。
搬入されたばかりのまっさらなガラス窓に貼り付けてあるようなラムネ色のビニールを、壁や天井に貼り付けて血液で汚れたりしないように保護してから、一人で解剖を行いました。
男性は私の恋人でした。
私の性別も男でした。
私の感情は遠くにあり、ただ目の前の作業に没頭します。
部屋を丁寧に保護したにもかかわらず、彼には血液がありませんでした。
彼の体内はアロエの汁のように透明でとろりとしたものに覆われていたのです。
私はそのことになんら驚くことはありませんでした。
陽の光に少し泡を含んだ液体が煌いて見え、私はとても清浄だなと感じ、腹の中に指を差し入れます。
死んでから少し経っていたせいか彼の体温は室温と変わらない程度に保たれていました。
内臓はあまり弾力が無く、手のひらに柔らかく身を任せるように、しっとりと形を変えます。
彼はかなりの天パでした。
青白い肌が陽の光に眩しく反射して目が少し痛みます。
うっすらとした無精髭を愛しく思います。
皮の内側や内臓は薄い椿のピンク色です。
私は内臓を一つ一つ丁寧に取り出して分類し、バットにのせました。
その後壁に虫ピンで留めていきます。
その時決して直接刺したりはしません。
皮を破いてしまってはいけないからです。
虫ピンの上にそっと載せるようにしていきます。
壁に張り付けられたそれは表面をタラコの皮のようにうっすらと張り詰めさせ、充実しています。
それが窓から差し込む白い光に美しく輝いて映ります。
窓を見上げると光に空気中のチリがダイヤモンドダストのように煌めいて見えます。
少しはがれかけたラムネ色のビニール越しに見た光も温度がないようで、とても綺麗なのです。
部屋の間取りは1DKで、玄関からまっすぐ廊下が走り、片側にキッチン、反対側には風呂とトイレの扉がありました。
彼の張り付けられた壁は玄関のまっすぐ正面です。
左に掃き出し窓があって広いベランダ。
そこから光が降り注ぐのです。
作業を全て終えた後、私は玄関の冷たい扉にもたれて、彼を眺めました。
蜘蛛の巣のようにぐるぐると張り付けられた腸がひときわ美しく、私は達成感を感じ安堵します。
彼が美しいことが誇らしい。
全身が幸福感で満たされていきます。
そして私は今外はひどく暑いのだろうと思うのです。




