難病の治療※
※大変不快な描写があります。ご注意ください。
難病の甥の治療につきそう。
感染源が義歯と特定され、治療と合わせて歯の手術も行うことになったからだ。
優秀な歯科医師は、ア◯リカ製の義歯は中身が劣悪でこのような感染を何度か起こした例があるのだ、と語る。
歯には何の痛みも出ない。
症状は多臓器に渡る。
甥は透析のような大きな機械の横に寝転び太い管を背中に刺した。
これで全身の血液をろ過するのだ。
同室でほかに二人の女児が同じ治療を受けている。
眉を寄せ、堅くつぶった瞼を震わせながら全身の血が抜き出され、そして取り込まれる圧に耐えている。
血の気の引いた乾いた唇に控えめに灯るソメイヨシノの色。
唇は苦痛を噛みしめる前歯の跡が凹んだままだ。
めくれあがったささくれがエアコンの風に揺れる。
腕に針を刺し投薬を終えた甥の皮膚はオーク材のように黄色かった。
浮き出た二つの、死んだ魚を包む白カビのような、どろりとした目。
肉から皮膚が浮き始めている。
薬は体内で病原菌の体を溶かす。
甥の体は。
歯科医師は薬が回ったことを知ったのだろう。
グズグズになりかけている甥の顎を引いて口を開くと、奥の歯を指で簡単に引っ張り抜いた。
左右下の奥歯を一本ずつ。
それは義歯ではない。
健康だった自前の歯だ。
甥が義歯を入れたのは事故で前歯を失ったからで虫歯ではなかった。
もともと甥は丈夫で綺麗な歯を持っていたのだ。
なのに歯にははすでに根がなかった。
根どころか、あるのはうっすらと透けた輪郭ばかり。
歯の中心にはぎっしりとゴカイが詰まっていた。
そこからゴカイがバットの上にぽとりぽとりと溢れ出して身を翻し、うねる。
甥の口から引き剥がされた衝撃でちぎられた体から、黒や白の膿のようなものを吐き散らかしてのたうっているのもいる。
案外脆い生き物なのだ、と歯科医師が卵をとくようにピンセットで抜いた歯の内側をぐるりとやった。
ゴカイが潰れ、小豆色の液が歯科医師のビニール手袋を汚す。
歯のあった場所を覗き込むとぽっかり空いた穴の奥に、溢れんばかりのゴカイが互いの体を絡ませ団子のようにもつれあっていた。
黒い血の池を泳ぐゴカイ。
これが全身を巡っているのか。
あの機械は太い管で血液の中のゴカイを吸い出し粉砕しろ過、浄化するのだという。
巣は砕かれた。
じきに回復に向かうでしょう、と歯科医師が背を向ける
甥は大きく口を開いたまま、はっはっはっとばてた犬のような息を吐いた。
どろりとぬるそうな涙を垂らした甥の瞳の奥でゴカイがうねった、ように見えた。




