絶滅しろ
どういえばいいんだろうな。
非常に雑な車の乗り方をしたんだ。
無人のままエンジンかけてちょっと走り出してからひょいっと運転席に乗り込む、みたいな。
それでカーブしながら本線に合流して、流れに乗るためスピードをあげようとしたんだけど、前の車が二台そろってやったら遅いわけ。
ぶつかるかと思って急ブレーキをかけると、前を走る水色の軽自動車から中年男が顔を出して
「ぶつからねーよ」
ってにやにや薄ら笑いを浮かべてこちらをみてきやがる。
びびんなよと言わんばかりな顔で正直むかっとしたね。
大きな川を渡る橋の上に出て前の二台はさらに速度を落とした。
今度は中年男だけじゃなく、もう一つ前の白い車から太ったおばさんも顔を出している。
左ハンドルなんだろうな。
ほとんど身を乗り出すようにして川を見ている。
眺めているっていうんじゃなくて、目を凝らして何かを探しているみたいに真剣な顔だ。
前方なんて全然確認するつもりはないな。
広い河川敷にはパトカーが数台止まっている。
警察がタバコを吸おうとしているベージュのつなぎをきた男の肩を揺すり、灰がバラバラ落ちる。
火傷しそうでヒヤヒヤする。
警察はかなり強引に尋問しているみたいだ。
ほかにもたくさん同じつなぎの人がいる。
川から遺体か何か上がったのか、川をさらっていた警察が白い手袋を振って仲間に合図を送っている。
「あいつ取調べ受けながらタバコを吸ってやがる」
「そんな恥ずかしいのはうちの息子くらい」
前の二台の車にいるのはタバコ男の両親らしい。
息子をこき下ろしているようで腹の中では警察を馬鹿にしている。
そんなどこか得意げな顔だ。
その息子とやらは目の上を切ってドロドロの血を流している。
何があったのやらわからんがろくなこっちゃないな。
関わりたくないね。
あり得ないほどのスロー運転しやがって。
抜かして先を行く。
*
給食の全国民化が叫ばれている。
子供らが校舎で食べている間、体育館に続く外通路で配布されるのはパンと薄いニンジンスープと何故かビール。
警察が運んできた白く汚れのこびりついたアルミの食器がコンクリートの床に置かれた。
取りに集まった男女は皆同じ色のつなぎを着ている。
女を押し除け男たちがわさわさ前列にやってきて、近くの女性に「配れ」と命令する。
「従うな」
「自分でつげと言いなさい」
と誰かの声がする。
「恐ろしくて女たちが近づけないでいる。男はあとだと言いなさい」
「もう決して奴らに従ってはいけない」
私は近くの女性と顔を見合わせる。
男が
「くずくずしてんじゃねーよ、早くしろ」
と怒鳴る。
これはどうやら女性たちの頭にしか聞こえていない声らしい。
女たちが誰も言うことを聞かないでいると、先頭の男は怒り出して近くにいた私に殴りかかった。
腕をかざし私を庇って誰かが拳を受け止める。
女性だ。
意志的な瞳の、シャープな顔立ちをしたの骨太で痩せた女。
「女が先だ。女があんたたちに怯えて近づけないのがわからないのか、恥知らず」
と彼女は怒鳴った。そして
「こんな男しかいないなら、みんな絶滅してしまえ。そしたら私たちも絶滅だ」
とからから笑った。
侮辱された男は
「これをみろ」
と、体育館の扉を開けた。
そこには大勢の負傷者が転がっている。
たくさんの傷ついた男や女たち。
手当てをするものは誰もいない。
中に彼女の夫がいたらしい。
侮辱された男はそれを彼女に見せつけたかったってわけだ。
「ザマアミロ」
と嘲る。
彼女の夫は彼女に向かって手を伸ばし
「リョウ」
と、か細い声で二度名を呼んだ。
けれどそれは彼女の名ではなかった。
「……絶滅しろ」
彼女は一層冷めた視線で夫を見つめた。
**
息子と二人ラーメン屋にきている。
食べ終わった息子が店を飛び出して、ついて出るがここは後払いでまだ会計をしていないことに気がつく。
伝えるも息子はトイレに行きたいと言って自転車でさっさと帰ってしまう。
わたしはひとまず会計に戻る。
レジは太ったおばさん三人の会計に手間取っている。
自分たちがさっき座っていた席に息子の赤いジャケットと彼のスマホや鍵の入ったバッグがおきっぱなしになっているのを見つける
ばかだなあ。
これじゃ家に入れないし、連絡もできないじゃないか。
おばさんたちの会計はいつまでも終わらない。
20200206




