1、不思議な少年
少年は再びベッドに寝かせていた。
その隣には、椅子があり、青髪の少女もいるのだか、すっぽりと丸まって寝息を立てている。
そして、水桶を持った金髪の少女が、扉を開けて中に入った。
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不思議な少年、それが私の彼に、柳 奈義に抱く第一印象。
歳は、自分とそう変わらないと思う。目元と眉間の皺があるから、少し老けて見えてしまっているが。顔の作りは悪くない。
彼は、アオが拾ってきた薪と一緒に籠に詰められた形で見つけた。見つけた時の彼は、酷く魘されていて、呼びかけても、起きてはくれなかった。
彼女に、彼は何なのか訊ねたら、ハナツタヤナギを指差した。喋らないからおおよその事しかわからないが、多分拾ってきたのだろう。
流石に行き倒れの人間を放っては、置けなかったのだろうか。
彼女自体の行動も、不思議なところがある。もう何年もの付き合いになるが、わからない事だらけだ。
彼女は、基本人に懐かない。
純粋に興味がないのだろう。彼女に最初にあった時は、私は見向きもされなかった。
今は亡き師匠も、彼女について多く語らなかった。
そんな彼女が、何故今も少年の側を離れないでいる。いつもなら彼女は、ハナツタヤナギのところに行っている時刻なのだ。
彼女の不思議な行動の一つが、1日に必ず、ハナツタヤナギの元へ出向く事である。過去に一度、彼女の行動の意味を探るべく同行した事があったが、彼女は、木に登ってハンモックで寝こけていただけだった。そんな彼女が眠る少年の横を離れないのだ。
そして彼の不思議なところはまだある。
目覚めて言葉を交わした中での、彼の出身だ。彼の言っていた。ニホンという島国は、この国「プラント」では、聞いた事のない。
彼の言っていた平和な国
本当にそんなところあるのだろうか?
このマテン村は、比較的、平和なところだ。と言うのもマテン村が、王国騎士団の防衛対象領地であり、その防衛対象になったのは最近の話だ。
この世界に、害を及ぼす存在が多々ある。
魔物、魔族、
そして、異能者。
まず、魔族や魔物は、魔の王によって生み出された物だ。嘗ては、魔の王と共に世界を滅ぼさんと、残虐の限りを尽くしたそうだ。
しかし、魔の王が英雄によって滅ぼされたのは、丁度、二百年前、そしてその残党が、今もこの世界にいる。
そしてもう一つの悪、異能者。
異能者は、この世界の魔法の理から外れ、独自が、個々の不思議な力で猛威を奮った。
彼らを束ねている「癒しの女神」と呼ばれる者がいる。その目的は不明だが、人の命をも軽んじる連中だ。
魔の王を滅ぼした英雄の中に異能者がいたそうだが、これまでの異能者の所業は、とても許されるものではない。
しかし彼は、そんな者を全く知らないかのように語った。彼の故郷には、その様な脅威は無いのかも知れない。
そして最後に・・・
治癒魔法を施した時の皮膚の破裂。
本来は、傷を癒す為に行った行為だが、彼の手に触れた瞬間、皮膚の内側から爆ぜたのだ。血が飛び散り、彼は、そのまま気絶。
私は、慌てて再度治癒魔法を掛けたら今度は、普通に彼の傷が癒えていた。
あの一瞬の出来事は何だったのだろう。
私が、治癒魔法の加減を誤ったのか?
そんな筈は無い、仮にも私は、王国の騎士団に連なる治癒術師に指南を受けている。
ならば、問題が有るのは、彼の方なのか?
亜人種の様な感じは、しない。
ましてや、治癒魔法で浄化されるアンデットでもない。
まさかこの少年は、異能者なのか?
彼女は、眠る少年に濡れた布を当てな
がら、思う。
もし、彼が異能者ならば、また同じ様に接する事が出来るのだろうか?
そんな事を考えて、彼の顔を拭いていくと、虚ろな黒瞳と目が合う。
「ああ、おはようございます。良い天気ですね。」
頬を少しだけ赤くしながら呟く。
さっきの考えは、遥か彼方へと飛ばされてしまった。
この少年は、とても不思議だ。