7、残した兄、残された妹
駄文過ぎて何とも。精進せねば
どれくらい泣いただろうか、昼ぐらいに外を出たのに、もう夕方だ。
女の子一人呼びに行くのに何て様だ。
もう、どうでもいい
こんな世界にいる意味はなくなった。
此処にあったのは、元の世界への手がかりでは無く、元の世界で自分がやらかしたの罪の証しかないではないか。
もう何も考えたくない
そうだ。妹に逢いに行こう。死んで俺は、こんな世界に飛ばされたんだ。
死ねば、帰れるさ、元の世界へ
きっとこれは悪い夢で、死んだらまた元の世界で目覚めて、ヘンテコな夢を見たんだと、そう思える筈だ。
さっきは、木から落ちて死ぬかと思ったが、きっと高さが足りなくて死ねなかったんだ。
道の途中で崖があったな。
あそこの高さから落ちたら楽になれるかな。
ふらふらと立ち上がり、崖の方へ歩いていく。
腕が引っ張られる。青髪の少女が、俺の腕を掴んだからだ。
「・・・邪魔するな。」
少女は首を振る。
「俺は、楽になりたいんだよ・・・。」
もう嫌なんだよ
妹だけの写真が、妹を見る事が、辛いんだよ
妹の世界から、俺の存在が消えたことが、痛いんだよ
青髪の少女の瑠璃の瞳は、俺を見ている。やはり、いつもの無感情なもので。
同情や悲壮に塗れた視線なら、振り切ったかもしれない。
しかし、少女の瞳は訴えるのだ。
逃げるな、背くな、諦めるなと。
「お前に、俺と妹の何が分かる。妹は、俺の全てなんだよ。たった一つの取り替えようのない宝物なんだよ。
・・・それを!・・・もう手の届かない遠くに置いて来てしまったんだよ!」
我にかえり、アオの手を強引に振り払った。その時、写真が手から離れて風に飛ばされて・・・
山吹色の少女の足元に落ちた。
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「アオも、柳さんも全然戻らないから私が来ちゃいましたよ。」
山吹色の少女ヒメリは、足元の写真を拾い、そう呟いた。
「柳さんの妹さんは、幸せ者ですね。お兄さんにこんなに愛されて。羨ましいです。」
彼女は、欲しい物が手に入らず、拗ねた子供のように、来ない恋人を待つ、待ち人のように、
「この絵、妹さんなんでしょう?宝物なら、大事にしにゃきゃです。」
彼女は、両手で俺の右手に写真を納めさせる。
彼女は、俺の言葉をどれほど聞いたのだろうか?
「知ってる人が亡くなったら悲しいじゃないですか。」
「柳さんは、自分が世界で一番不幸みたいな目をしているので、もっと不幸な兄妹の話でもしちゃいましょうか?」
彼女は、明るい口調を崩さなかったが、顔は歪んで作った笑顔だった。
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十年も前の話。
森に囲まれたそこそこ広い領地に貴族の兄妹がいたそうな。
兄は、とても勤勉で、武術、勉学、魔法と、どれも優秀で誰もが認める天才でした。
妹は、兄同様、優秀ではありましたがどうしても兄より劣っていました。
兄の役に立ちたかった妹は、兄が覚えていない治癒魔法を覚えるようになり、武術の稽古でボロボロの兄を毎日、癒しました。
そんなある日、領地に「異能者」があらわれたのです。「異能者」は口で言うのもおぞましい方法で領民を虐殺しました。
もちろん、その貴族の兄妹も例外ではありませんでした。
兄は、妹を逃がすために「異能者」に立ち向かいます。
妹は、兄に逃げるよう言われましたが、どうしても兄が心配でした。
避難用の馬車から抜け出して、兄を懸命に探します。
見つけた兄は、ボロボロで虫の息でした。
そして「異能者」は、兄に止めを刺そうとしている。
妹は、魔法で異能者を攻撃して気をひきました。
そして「異能者」は、妹を殺そうと、黒い靄を出しながら迫りました。
その時、誰かが間に割って入って・・・
そこから妹の記憶はありません。
ただその「異能者」は騎士団により撃退され、少女は騎士団に保護されました。
しかし、兄の姿はありません。
兄が、そこにいた痕跡すらありません。
少女は、変わり果てた領地を、探しましたが、兄は見つかりませんでした。
妹は、騎士団の計らいである治癒術師の元に身を寄せました。
しかし、その治癒術師も昨年亡くなり少女は、もう一人の弟子と二人きりになりました。
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「貴方も、貴方の妹さんも、今、生きてるじゃないですか。
会えなくなったからって、どうして死のうとするんですか?」
彼女の瞳には、涙が溜まっていた。
たかだか会って間もない人間の為に、涙を浮かべてくれている。
「貴方より不幸な私がいるのに、どうして貴方が諦めるんですか。」
「お前が、俺より不幸?
笑わせんな!お前の兄貴が死んだって決まったわけじゃないだろうが!!」
彼女は、俺の怒号で肩を上げる。
「聞いた話じゃ、お前の兄貴は、逃げてるだけだ。妹を守れずに、変なプライド引っ提げて逃げてるだけだ!合わせる顔がないからって、隠れてるだけだ。俺は、そう思うね!」
何故俺は、こんなに熱くなっているんだろう。
ああ、そうか。
こいつの励まし方は、妹にそっくりだ。
『いいなぁ〜兄ちゃんは、私より父さんと母さんと長くいれて。』
『××××と兄ちゃん、何か私より仲良しでズルい!』
ほんとあいつは、何処までも俺を救ってくれる。
「お前は、兄貴が死んだと、本当に思ってんのか?思ってないなら、探しに行けよ。大体、妹泣かせる兄貴は糞野郎だぞ。」
自分が泣かせておいて、何、説教たれてんだか。さっきまで死のうと考えていたくせに。
「妹さんを泣かせて、置き去りにしたと、言っていたのは貴方です。貴方は糞野郎です。」
会ったばかりなのに、俺たちは、妙に噛み合う。
妹を残した兄と、兄に残された妹。
何かの運命が俺たちを巡り合わせたのか。もう俺は、死のうとは、諦めようとは、思わない。
こんなに陰気な空気をぶち壊したんだもう後にはひけない。
「だったら私達で探しに行きましょう。私の兄と、貴方の妹。
もちろん私の兄が優先です。」
「わかったよ。今更俺の予想が間違ってるなんて言わない。お前に変な希望持たせちまったからな。」
彼女は、心から笑いながら
「勿論です。それじゃあ握手です!
今から兄妹探しの仲間なんですから!」
彼女が手を出してきた。
俺も手を出して、握り閉め過ぎたのか血が出ていた。
「もう、しょうがないですね。」
彼女が、仄かに光る手で俺の掌を触れる。
少し恥ずかしくなり、手に「力」が篭って。
仄かの光と透明な靄が混ざり合って。
俺の右手が爆ぜた。
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顔に血糊をつけて慌てふためく山吹色の少女を他所に、
青髪の少女は、ただ少年の落ちた後のクレーターを見ていた。
爆発オチなんてサイテー