5、ハナツタヤナギ
俺は重い足取りで森の獣道を道なりに進んでいた。
ヒメリからの頼みでアオという少女を呼びに行くためであり、それと同時に自分の発見された場所に元の世界への手がかりがないかの確認もある。
ともあれ道はわからないが、目印の大樹は嫌でも目に入るので目的地まで迷わず進めるだろう。
ただひたすら歩くだけでも思考は働くもので、いろいろ考えてしまう。
俺が居なくなったら妹はどうなるのだろうか?
俺の両親は死んでいる。
父親は病気で、母親は交通事故で、両親は別々にだが確かに死んだ。
何が、「元気になったら旅行行こう」だ。
何が、「妹とお留守番よろしくね」だ。
当時幼かった俺を、泣く事しかできなかった妹を置き去りにして自分勝手に裏切って、
そして俺もその中に入ってしまった。
じーちゃんとばーちゃんに妹を任せて来て、一人で異世界へ飛ばされて、また親友のように・・・・
昼でも暗い森の中は、自然と心まで暗くさせる。
一人の時に悪い考えが浮かぶのは悪い癖だ。
青髪の少女について考えよう。
ヒメリが彼女を説明する上でわかったことは、
・彼女の名前はアオ
・彼女は俺を見つけて助けた事
・彼女は喋らないこと
特に喋らないというのは、疑問だ。
確かにあのヒメリの無駄に明るく、馴れ馴れしい、あの態度に嫌気が差し、無視を決め込んでいるのか?
あるいは、本当に声を出す事が出来ないのか?
その真相はまだわからない。
ただ青髪の少女を呼び戻し、山吹色の女の子にまた話をすれば分かることだろう。
と考えいる内にハナツタヤナギの木についた。
遠くで見ていたがやはりかなりデカい。
肌寒い事と、地面の落ち葉の多さから今は秋ぐらいだと予想できる。
そのハナツタヤナギとやらは、現実世界でいうところの柳だが、その木には歪に蔦で巻かれている。
それはまるで罪人を有刺鉄線で雁字搦めにしたような、そんな印象だ。
春には綺麗な花が咲く、なんて彼女は言っていたが、もうこの木は枯れて死んでいるのではないか。
と木に手を触れてみる。
何も感じない。強いて挙げるならは草の青臭さがある程度だ。
そして肝心の少女が居ない事に気づく、一体彼女は何処に?
木の外周を周り、彼女はいた。
木と木の間にハンモックを作り、優雅に寝こけていやがる。
「おい!ヒメリが呼んでたぞ!起きろ!」
ハンモックが掛かった位置はそこそこ高い位置にあり、登るのが面倒臭いので声をかけた。
彼女は起きたのだろう。もそもそ動き俺と目が逢う。また見下された気分だ。舌を出した。二度寝しやがった。
「あの野郎!くそ!田舎民舐めんなよ!森は友達!畑は恋人だぞ!」
叫ぶと同時に俺は木に登り始めた。
フハハ!田舎で友達の少なった俺は近くの森で木の上に秘密基地を作り、妹とあいつと遊んでいたんだ!
この程度の木!お茶の子さいさ、あ、
やべ、足滑った
時間がゆっくりになる。ちょっと待て、現実世界では妹を庇ってバイクに撥ねられたから、まあ名誉負傷(死亡)で格好がついたが、訳のわからん不貞腐れ女を起こそうとして落下死なんて馬鹿過ぎる。
地面が迫る。
せめて頭を庇うように落下して・・・
あれ?痛くない?
不思議と顔を上げる、隣には青髪の少女がいる。一瞬で隣にきたのか?
と、下を見て気づく
俺の下には、クレーターが出来ていた。