8
7日目
昼に自室に戻るとドアの隙間に手紙があった。
凛は急いでそれを拾い読みはじめる。
それは頼んでいた情報だった。
翠の国の王族の生死。
綾さんの生死。
そこに望んだ情報は書かれていた。
王族は誰一人として生き残っていなかった。
もちろん、綾さんも。
凛は絶望の思いでその手紙をポケットに入れる。
あとで燃やしてしまわないといけない。
凛は悩んだ。
伝えるべきか、それとも…
だが、伝えたとして何になる?
翠が最後の生き残りだ。
どうにかして助けたい。
でもどこに逃がす?
どうやってごまかす?
解決策は何もない。
助けたいのに助けれない。
凛は悔しく思った。
俯き加減で翠との夕食の用意をする。
「落ちたよ」
翠が手に紙を持っていた。
凛はハッとする。
あれは…!
あまりの事実に呆然として燃やすことを忘れていた手紙。
半分に折られただけの紙は簡単に中身が見えてしまう。
翠はそれをちらりと見た。
「…そうか」
そう呟くと翠はため息をついた。
そうして凛をじっと見つめる。
「君はこれを知ってどうするの?
君には必要ない情報だろう?」
翠の言葉に凛は何も言えなかった。
「俺を逃がしてくれるとでもいうの?」
「…いいえ」
「じゃあどうして?」
「…私が知りたかったのです。綾さんの消息を」
「綾?何故君が知ってる?」
「あなたが名前を呼んだから」
凛の言葉に翠は絶句する。
いつ呼んだのだろう?
戸惑って凛から視線を逸らす。
「…聞いてくれる?」
翠は凛に聞いた。
初めて自分の心を暴露する。
誰にも秘密にしてきたこの想い。
一生秘めたままでいるつもりだった。
はい、と凛は頷いた。
翠の心を知りたいと思った。
凛の返事に安堵して翠はほっと息を吐く。
そうして深呼吸すると静かに語り始めた。
時間は静かに経過する。
翠は考えながら静かに語る。
今日は愁に報告は行けない。
夜は更けた。
それに今は少しでも翠の傍にいたいと思う。
報告に行く時間さえもどかしいほどに。
愁には申し訳ないと思う。
でも翠との時間の方が大切なのだ。
二人の時間はあと少ししかないのだから。
翠の心は今、過去に向かっている。
それを聞き漏らすわけにはいかない。
少しでも心に留めておきたい。
凛は真剣に翠の話を聞いた。