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3日目
朝、起こしに行ったら翠はまだ寝ていた。
声をかけても起きない。
そういえば昨日はあまり夕食を食べなかったように思う。
カーテンを開けてからベッドに近寄る。
そっとベッドを覗き込むと、眉をひそめて翠は寝ていた。
汗もかいているようだ。
熱でも出たのだろうか?と額に触れる。
熱かった。
はやり疲れが出たのだろう。
凛は慌てて部屋を出る。
薬と冷たい水、タオルを用意しなくてはならない。
額に冷たいタオルを乗せると翠は薄く目を開いた。
「何か欲しいものはありますか?」
凛が聞くと「水」と答えた。
熱で水分が奪われたのだろう。
凛は首の下に手をそえて翠を起こし、水の入った器を口元にそえる。
喉を鳴らして翠は水を飲んだ。
そうしてまた目を閉じてしまった。
本当はもっと前から辛かったのかもしれない。
気づけなかった自分を悔いた。
凛は額に汗が浮かぶとすぐに拭った。
翠は苦しそうだ。
時折、眉をひそめて何かを言っている。
名前のように聞こえた。
夢でも見ているのだろうか?
額のタオルはすぐに温くなった。
何度もタオルを濡らし、冷たい水を用意した。
早く熱がひけば良いと願った。
タオルを交換しようとしたら手をつかまれた。
虚ろな目をした翠が凛を見た。
「…綾」
そう呼ぶと凛の手を引っ張った。
体勢を崩し前のめりになる。
そうしてそのまま唇を塞がれた。
熱い唇は貪るように凛を求める。
驚いた凛は何も出来ず、されるがままだった。
満足したかのように翠の唇が離れる。
そうしてつかまれた手も解放される。
凛は腰を抜かしてしゃがみこんだ。
自慢じゃないが、これでも箱入り娘なのだ。
キスなんてしたこともない。
あまりのことに呆然となり、ただ座り続けていた。
いつまで呆然としていたのか、凛は記憶にない。
気づいたら夜になっていた。
カーテンの閉められていない部屋に月明かりが降り注ぐ。
のろのろと凛は立ち上がるとカーテンを閉めた。
今日は報告に行けない、そう思った。
時間も遅いし、何より自分が動揺している。
これでは無理だ。
看病で忙しかったと言えばいい。
凛は自分の唇にそっと触れる。
ここに翠の唇が触れたのだ。
不思議とイヤな感じはしなかった。
そんな自分に驚いていた。