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2日目
2日目の朝が来た。
凛は朝食の用意をして翠の部屋へと向かう。
扉を軽くノックし、開ける。
室内は暗く静かだ。
まだ寝ているのだろう。
凛は静かにベッドへ近寄る。
「誰?」
警戒した翠の声。
「おはようございます。凛です。
朝食をお持ちしました」
「ああ。ありがとう」
安堵した翠の声がして起き上がる音がする。
凛はカーテンを開けた。
明るい日差しが室内に差し込む。
翠は眩しそうに目を細めた。
凛は次に着替えを用意して翠に近寄る。
「ありがとう。一人で出来るよ」
そう言うと翠は着替えを受け取った。
出来るというので任せることにした。
その間に朝食の用意をする。
朝食はシンプルにパンとコーヒーだけだった。
これで足りるのかと思ったが翠の希望なので仕方ない。
「昨日はよく眠れましたか?」
凛の問いに翠は椅子へと座りながら頷く。
「うん。久しぶりに柔らかい寝床だったよ」
戦場では地面にごろ寝だったからね、と苦笑しながら翠は言った。
ああ、そうか。
戦場には寝台なんてないだろう。
冷たく固い土の上に寝たに違いない。
そう思うと少し哀れに感じた。
「ところで凛、君はいつ朝食を?」
傍に立つ凛を不思議そうに見て翠は尋ねる。
「この後に別室でいただきます」
「じゃあ一緒に食べようか」
「…は?」
にこにこ笑う翠に凛は面食らう。
「一人は寂しいよ。今までは皆と食べていたから。
一緒に食べよう?」
別れ別れになった仲間を思ってか、翠は窓の向こうを見つめた。
「…それは命令ですか?」
「いや、お願いかな。
命令の方が良い?」
翠の言葉に凛は首を横に振る。
変わった王子様だ。
王子というものは常に命令するものなのに。
そんな翠を好ましく思う。
「ですが、一緒にいただくことはできません」
凛は断った。
断るのが当たり前だ。
それを聞いて翠は少し寂しそうな顔をした。
「…そうか」
そうつぶやくと食事を始めた。
2日目も難無く過ぎる。
翠は大人しく、何かをするようには見えない。
窓辺に座り、外を眺める。
ただ、それだけ。
捕らわれの身なのだ。
何も出来ることなどない。
凛は翠が見つめているのものが遠くに消えた仲間なのか、自分の未来なのか、聞いてみたいと思った。
今日もまた報告のために愁の部屋へと向かう。
「今日の翠はどうだった?」
愁の言葉に凛はため息をつく。
「なんというか、典型的な王子様という感じですよね」
愁は黙って先を促す。
凛は今日の出来事を話した。
「いいじゃないか。
朝食くらい一緒に食べればいい」
そんなことを簡単に言うんじゃない!
いくら捕らわれ人だからといっても相手は王族。
簡単なことじゃないのだ。
「…無理です」
「大丈夫だよ。誰も咎める人はいない。
少しの間だけだ。頼む」
愁の願いを断るわけにはいかない。
凛は渋々頷いた。
仕方ない、明日からは一緒に朝食を食べることにしよう。