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1日目
まず、凛は翠を湯浴みに連れて行った。
汚れた重い鎧を外し、体を綺麗に洗う。
汚れの下からは日に焼けた逞しい肉体が現れた。
戦争で命を懸けた体だ。
この王宮にいる王子たちとは明らかに異なる体。
軟弱な白い肌よりも好感を持った。
そして背中に大きな傷があった。
これだけの傷だ。
相当痛かったに違いない。
「どうしたの?」
手が止まった凛に翠は問い掛ける。
「いえ、その…」
「見惚れるほどの体じゃないと思うけど?」
そう言うと翠は苦笑した。
「日に焼けて傷だらけの体だ。
この国の王子とはまったく違うだろう?」
翠の言葉に凛は頷く。
「この国は豊かだよね。
気候も穏やかだ。
我が国とは違う。
こんな国だったなら負けることはなかったかもしれない。
まぁ、今更そんなこと言っても負け惜しみにしか聞こえないけどね」
翠は話を続ける。
誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
黙ったままの凛を気にすることはなかった。
湯浴みの後に清潔な服を着せたら、翠は立派な王子になった。
やはり王族というものは違うと感心してしまう。
凛は食事の用意をするために部屋を出た。
廊下で渉王子で出くわした。
この国の3番目の王子で凛よりも年下だ。
「凛、あの男はどうした?」
「はい。お部屋におります」
「逃げないだろうな?」
王子の言葉に頭を下げた凛は苦笑する。
逃げる気があるならとっくに逃げているわ。
そんなことも分からないの?
甘やかされて育った末の王子はプライドばかりが高く、頭はあまり良くない。
さきの戦争にも参加することはなかった。
この王子が王になったら国も終わりだろう。
「もし、不穏な行動を取った時は分かるな?」
殺せ、と言われて凛は毒薬を渡される。
渉は敵国の王子が生かされていることに不満があるようだった。
分かりました、と告げて凛は静かに頭を下げた。
その様子に渉は満足して歩いて行った。
愚かな王子。
殺すことかしか思い浮かばない。
もっと上手く使えば良いのにと思う。
少ししか話してはいないが、翠は頭の良い男だと分かる。
だからこそ、生かすのが危険なときもあるのだが、これはまた別の話だ。
まぁ、無理よね。
戦争で奪うことしか考えていない王だもの。
無理だわ。
凛はため息をついて先を急いだ。
夕食の世話をして凛は部屋を出た。
翠は大人しく夕食を食べてくれた。
初日の世話が終わった。
部屋を出てホッとする。
これなら9日間の世話がすんなり出来るだろう。
翠は大人しい。
何を考えているのか分からないくらいに。
だが、とりあえずは世話をすることに集中すれば良い。
凛はそう考えた。
一日の終わりには報告に来る事。
それが愁との約束だった。
凛は報告へと向かう。
扉をノックすると静かに愁の部屋へと入る。
「どうだった?」
早く話を聞きたい、と愁は凛を急かす。
翠の様子、態度、話。
どれも漏らすことなく知りたいという。
凛は全てを詳しく報告した。
話が終わると愁は明らかにホッとした顔をした。
「ありがとう。明日も頼む」
そう言うと愁は凛に頭を下げた。
「愁王子、そうやって侍女に頭を下げる事はいけないことです。
そう教わったでしょう?」
優しすぎる従兄。
少し心配になってしまう。
思わず凛は注意した。
「こんな態度を取るのは君だからだよ」
そう言われて凛はため息をつく。
仕方のない人だ。
「他の方の前では絶対にしないで下さいね」
凛の言葉に愁は「もちろん」と頷いた。




