No. 7 抉らないでください
少しペースが落ちます。
「本題?」
凄く楽しそうにニヤニヤと笑っている彼女に対して聞き返す。
「ああ、そうだ。だが、その前に私のことは何時もの通り、リオンと呼んでくれ」
口には出してないのだが……。
「君の考えていることくらい簡単にわかる。君が覚えていなくても、それ程の関係なのだから」
まさしく嘘から出た信だな。
まさか本当に記憶喪失だったのか、オレ。
「はぁ、わかったよ。リオン、と呼べばいいんだろ」
「ふふっ、改めてよろしく頼むよ、秋矢」
本当に嬉しそうだ。
オレ達は一体どういう関係なんだよ本当に。
「それでは本題に入ろうか」
やっとか。
長かったな。
「簡単に言えば君たちが助かる方法だな」
「詳しく」
あの状態からどうやれば生き延びれるのか。
「詳しくと言われてもな。これも凄く簡単なことだ」
リオンは自分を指差し、こう言った。
「君の強化召喚で私を呼べ。後は、私が何とかする」
確かに簡単だな。
……。
は?
「すまない、どういうことだ?強化召喚?」
強化召喚についてはスピカも知らなかったからどんなものかわからないのだが。
「ああ、そうか。君は強化召喚の知識が無いのか。まずはそこからだな」
そう言ってリオンは強化召喚についての説明をした。
1、召喚対象は生物限定。
2、強制では無く任意の召喚。
3、召喚者と召喚対象者の関係は対等。
4、召喚対象者のステータスは強制的に強化される。
5、強化の割合は、強化召喚のスキルLVが高いほど上がる。
6、召喚者が死ぬと効果が切れる。
7、召喚対象者の強制送還は出来ない。
8、消費魔力は50。
9、拒否されることもある。
「ま、重要なのはこのくらいか?」
リオンはそう締めくくった。
「あ〜つまりオレがリオンを強化召喚で呼び出して、リオンがあのキメラを何とかすると」
「そうだ。出来れば、あの森に入る前に伝えたかったのだがな。君をあの世界に送った後、少し身体を休めてたらいつの間にかあんなところに行くとはな。しかも、女連れで」
最後に睨まれた。
て、いうか。
「お前がオレを異世界に放りこんだのか!」
「ああ。だが、勘違いしないでくれ。これは君のためだ」
「……どういうことだ?」
オレの為?
あんなリアルRPGの世界にゲーマーを送って何を言っているのだ。
「詳しいことは省くが、君は元の世界で死にかけた。だから、別の世界に送った、ということだ」
なるほど、わからん。
「わからなくていい。時期に思い出すさ」
納得は出来ないが、これ以上は話してくれなさそうなので諦める。
ただし、文句は言う。
「でも、たまたまスピカがいなければオレはどうなっていたかな。送るにしてもアフターケアは欲しかったぜ」
「それについては申し訳ないと思っている。本当なら私も一緒に行っているはずだったんだがな。思いのほかダメージが多くて無理だった。今も正直キツイが」
ダメージ?今も正直キツイ?
「じゃあ、何でこのタイミングで?今もダメージが残っているんだろ?何のダメージかは知らんが」
「いや、何。このままだと、あの緑にメインヒロインの座を奪われそうだったからな」
何の話だよ。
「気にするな。大人の事情というやつだ。物語が私に早く出ろと言うのだ」
意味不明すぎる……。
うん、忘れよう!
今のは聞かなかったことにしてしまえ!
「さて、そろそろ効果が切れるな」
手元にある一冊の本を見て、リオンがポツリとつぶやいた。
「最後に重要なことを言っておこう」
「……何だ」
リオンの雰囲気に呑まれる。
一体、何を言おうというのか。
「武装召喚についてだが……詠唱するにしてもあんなに大きな声で言う必要は無いぞ」
「聞いてたのかよ!」
そして、人が気にしてることを言うなよ!
「異界の扉(笑)」
「ヤメロォォォォォ!!!」
これ以上抉るな!
鬼か貴様は!
「いや、天使だ。成り損ないだがな」
ナチュラルに人の心を読むんじゃねぇ!
「まぁ、逆に強化召喚は大声で詠唱しないといけないが。しかも、他の召喚と違ってあらかじめ決まっている。喜べ、君の大好きな厨二詠唱だ」
「お前はオレを殺す気か!」
精神ダメージで死ぬ!
オレのメンタルが悲鳴を上げている!
大丈夫か?
あまり、こいつと一緒にいるとオレのストレスがマッハになりそうなんだが。
「詠唱については君の頭に送っておくから安心したまえ」
「全く安心出来ないんだけど……」
とか言ってたら、目の前がボヤけてきた。
どうやら、時間切れらしい。
「いいか。直ぐに呼べよ。君が詠唱してる間はあの緑に時間を稼いでもらえ」
その言葉を聞きながら、オレは現実に戻った。
・強化召喚
召喚術の一つ。分かりやすく言えば、連続で使える勇者召喚。厳密に言えば違う。強化の割合は、スキルLV. MAXなら勇者召喚を超える。消費魔力は少ないが、その分成功率が安定しない。現在は秋矢のみ使える。