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公爵が一仕事を終え、帰りの途に着く頃、其れとは別に、同じく、極々単純な仕事を終了させた青年は、その戦利品にありついていた。
無論、貧しい農村の家ともなれば、財産は余りなく、家畜をどうぞと言われても、青年には困るばかりである。
では、とばかりに、彼は一宿一飯を望み出て、頭領を討ち果たした暁には、泊めて貰おうという事で、契約と為していた。
頭領から救い出した少女だが、適当なシーツにくるんで、肩に荷物の様に担ぎ上げながら、搬送するという方法を彼は選ぶ。
それは、酷くぞんざいな扱い方だが、それには、明確な理由が在る。
自分勝手な青年は、基本的に生娘以外は余り興味が無く、最初、この世界に降り立った際、人の妻に手を出したのは、単なる興味からであった。
既に頭領に襲われてしまっている少女気遣う所か、青年は、彼女を【中古】と称し、特に気にする様子も見せなかった。
最初の数日、急に知らない所へ放り出された彼は、実に有意義に過ごせたが、直ぐ様、この新しい世界に、不満を待ち始めてすら居る。
元々、現代人として生きて居た彼は、現代の文明が懐かしく、殺す以外の娯楽は、専ら女性を手込めにする意外、余り興味は示せずにいた。
インターネットは勿論存在せず、それを使う為のパソコンはおろか、車どころか、乗り物と言えば馬車や馬であり、水道は勿論、ガス、電気といったライフラインは、当たり前だが無い。
偶々持ってきていたスマートフォンという文明の利器ですら、電池が切れた際、既に何処かへと放り捨てている。
彼の持つ調整の力は、須く便利なのだが、余り聡明とは言えない彼には、過ぎた力でしかない。
例えば、彼は力を用いて、自己の見た目を変えようと試みたが、直ぐ様、諦めていた。
表示される項目には、全ての部位の【X軸】と【Y軸】さらに【Z軸】が表示され、青年には、それの意味すら分からなかった。
魅力の数値を弄るといった所で、それは、あくまでも彼自身の数値でしかなく、魅力の数値とは、彼が周りに与える影響の数字に過ぎない。
加えて、彼の力は有視界範囲内でしか作用せず、視界を外れた場合、それは、距離にして半径十メートル以内でしか効果を示さずにいる。
手に持つちっぽけなナイフですら、【調整】を用いれば、名刀へと変化させる事は出来ても、それは、青年が身に着けている間しか効果を示さず、もし、彼が刀を地面へ捨てれば、それはたちまち、元のちっぽけなナイフへと戻ってしまう。
筋力を幾ら弄ろうが、空を飛ぶことは叶わず、精々素早く動く事しか出来ず、幾ら力んで剣を振り回したとて、真空刃が出ることはなかった。
それ故に、無限に近い可能性と、それを実現可能な力を持つはずの青年は、既に不満に苛まれ始めている。
結果として、青年は、殺した筈の頭領と同じく、自らの不満を、お礼と称し、夜這いを掛けてきた、助けた娘の妹へと必死にぶつけていた。
この時点で、頭領の館から分捕ってきた金銭は、革製のバックへと押し込まれ、部屋の隅に転がっている。
実のところ、青年の行いは、非道その物でしかない。
頭領との違いと言えば、相手方に同意が在るかどうかでしかなく、其処に、差は無かった。
そもそも、彼は、最初に助け、手を掛けた少女の居る村からは、既に逃げ出している。
理由としては、大して難しいモノではない。
彼に手を出されてしまった妻には、当たり前だが夫が居る。
【娘を助けていただきました、妻もどうぞ】と、そんな人間は、何処の世界であろうと希有だろう。
事実、怒り狂った夫は、農具片手に青年に襲いかかったが、青年は、呆気なく夫である男性を殴り殺してすら居る。
夫が殺された恐怖と、青年の異様な魅力に苛まれた妻は、その場で正気を放棄していた。
そしてまた、最初の少女が気絶しているのを良いことに、青年は、【調整】の力を用いて、力の限り走って逃げ出した。
それ以来、ある程度学習したのか、青年は手に掛ける相手を吟味していた。
娘を頭領に召し上げられた農家など、実に体の良い事案でしかなかった。
酷い疲労から、少女が意識を飛ばした頃、青年は不満げにため息を漏らす。
疲れを知らず、無限大とも思えるスタミナすら持てる彼だが、相手を労るという事は、彼の頭からはスッポリと抜け落ちていた。
「んだよ………始めたばっかじゃん?」
如何にも、つまらないとでも言いたげな青年だが、ベッドの端に腰掛け、頬杖付きながら、また、溜め息を吐いていた。
ランプの灯りは暗く、蛍光灯やLEDの電灯には、明るさは及ばない。
来て数日ながらも、青年は、元居た場所を懐かしみ、眼を閉じていた。
その時、コンコンというノックの音が、青年の耳に響いた。
「………あ? …………どーぞー」
酷く適当な青年の声に、ドアが弱々しく開けられる。
彼が、ジロッと其方を向くと、自分が助けた少女、つまり、今ベッドに転がっている少女の姉が、薄着の姿を見せていた。
「あの………」
色っぽい下着とは行かず、それでも、何故か可能な限り薄手の服装の少女である。
彼女からすれば、命の恩人に僅かとはいえ報いたく、寧ろ、運ばれている間中、延々と彼の怪しい力に当てられていた少女は、本能的に青年を雄として欲してすらいた。
だが、生憎とばかりに、青年は現れた頬を染める少女にイマイチ興味を示せずに居る。
既に他人に手を掛けられて居る女など、妙な性癖の彼からすると、道端の石ころ程度にしか想えない。
それでも、やはり、目の前のご馳走には多少の反応を示してすらいた青年は、在ることを思い付いた。
「ま、入んない? …………ちょっと、妹さんが寝てっけど…………」
青年の言葉自体、誉められるどころか、本来ならば責められて当たり前である。
だが、調整の力に因って、人外とも取れる魅力を放つ青年には、妹を心配していた筈の少女は、何故か逆らえず、寧ろ、湿り気を覚え始める自分の股を、モジモジとすらさせていた。
「はいはい、コッチへど~ぞ~…………」
そう言いながら、青年は、少女を、やんわりとうつ伏せにベッドへと寝かせていた
躊躇い無く、ろくな知識すらなく、年端も行かない少女を好きな様に手を出す。
それは、まさしく、【己だけが楽しければ、其れで良い】という、怪物の姿であった。