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肉と布、鉄とプラスチックが、グジャッと言う音を、辺りに奏でる。
偶々、人が車にハネられ、死んだ。
ただ、その車にハネられた人間が、わざわざ死ぬのを待っていたかと言えば、そうではない。
目線に合わせ、カメラを構え、自己を撮り、それをネットワークに映す。
記録に残し、それを自分で眺めて楽しむという、過度のナルシシズムと言うわけではないが、反面、せめて自分を他人に認知して欲しいという願望を、容易にし、他人に自己を表すパフォーマンスとしては、実に容易く、素晴らしい文明の利器と呼べるだろう。
そして、彼をハネてしまった車の持ち主はと言うと、突然現れたカメラを持った人物が、窓ガラスに罅を入れながら、車の後ろへと飛んでいくのを、思わず、見てしまっていた。
カメラに集中していた故、偶々信号をみていなかった人。
信号が青だから、歩行者は出てこないと高を括っていた運転手。
ともあれ、人がいつ死ぬのか、それを人が知る由も無い。
道路に転がる人だったモノが、遠くから聞こえるサイレンに気づくことも、その虚ろな目が、運転手の気まずそうな顔を見ることも、二度となかった。