大喧嘩!?
まどかさんを見送った後、遥と部屋に戻る。
「ね、ショウ。本当に良いのかな…」
遥がちょっと不安げな顔で聞いてくる。
「ん、良いだろ。っていうか、やらなきゃダメだろ」
俺は肝が決まったのでハッキリと答えた。
「うん。ショウがそう言うなら…」
遥が俺に抱き付いてくる。
俺は遥の華奢な体を抱き締め返し、そっと唇を重ねた。
週末の夜、か…
あ!亜里沙の件、遥に話さなきゃな…
すっと唇を離すと遥が小さく喘ぐ。
「ん…ショウ、もっとチューしてよ…」
甘える遥の顔を見ていると、黙っていたほうが良いのだろうかと思ってしまうが
そんな事をしたら、これから傷つけてしまうだろう亜由美にも、
それをフォローしてくれるまどかさんにも、
何より俺の一番大切な目の前の娘に申し訳が立たない。
「遥、チューの前にちょっと話が有るんだ」
「ん〜イヤ!チューしてくれなきゃ聞いたげない!」
アヒル口を尖らせて抗議する遥。
俺はもう一度軽くキスをして、
「今はこれで勘弁してくれ」
と言いながら遥を抱き締めて話し出した。
「お前、西村の事覚えてるか?」
遥がほえ?とか言いながら少し考え込む。
「ん〜…もしかして、ショウにラブレターくれた一年の亜里沙ちゃん?」
「そうそう、あの物好きの亜里沙だ。
実は結構前から、彼女に原付の試験勉強教えてくれって言われててさ、
いよいよ原付試験を受けるから勉強を今度の土曜日に付き合うことになって…」
遥の大きな瞳の目尻がきゅうっと上がり、額に青筋が立つ。
…ヤベェ、これはマジ切れモードか…?
「何よそれ!ついさっき、亜由美をハッキリ振るって言った癖に
亜里沙ちゃんにはデレデレするってワケぇっ!?」
あちゃー…
「落ち着け遥、違うだろそれは。
前から約束してたから、断る訳には行かないだろ」
アヒル口を尖らせ、凄い眼つきで俺を睨む遥。
ぱっと俺から離れて、テーブルを挟んだ正面に座る。
「なんで!?原付試験なんて誰でも受かるって言ってたじゃない!
亜里沙ちゃんには問題集でもあげて、独学でやってもらえば良いんじゃないの!?」
正論だな。俺もそう思うしそう言ったんだが…
「はは〜ん、アンタ亜里沙ちゃんに、
一緒に勉強教えてください!お願いですショウ先輩!
とか言われて鼻の下伸ばしてOKしたんでしょっ!」
現場見てたんかお前は!
俺は内心の動揺を隠す為に少し強い調子で答えた。
「落ち着けって!誰も亜里沙にデレデレしてなんかいないだろっ!
そうじゃなくて、約束だから仕方なく、って言ってるんだよ!
お前だって、もし俺が約束してた事を破ったら怒るだろ!」
俺の言葉に遥が更にエキサイトしてくる。
「何言ってんのよ!亜由美を悲しませる直前に、
亜里沙ちゃんとデレデレ勉強するなんて酷いじゃない!
なにその最低男!信じらんないっ!!」
だーーーーっ!!
「だから、そりゃ状況が逆だっつってんだろっ!
亜里沙と約束したのが先で、亜由美の件はある意味イレギュラーだろうが!」
「ーっ!」
遥はなにやら何かを言おうとして口をパクパクさせていたが、
怒りの余り言葉にならなかったのか、ボロボロと涙を零しだした。
…やべぇ、泣かせちまった!
「何よ何よ何よ何よ何よ何よ!!
ショウのバカバカバカバカバカバカ!!!
あたしがいるのに、なんで亜里沙ちゃんとイチャイチャすんのよぅっ!!」
最後は完全に涙声で、擦れるような感じだ。
「あたひが…ひいんっ!!………!!」
顔をくしゃくしゃにして、だーっと大粒の涙を零している。
まずい!何とかしないと!!
「遥、落ち着けって!別に亜里沙と浮気をしようってんじゃ無いだろ!
ヘンな嫉妬するんじゃないよ!!」
咄嗟に出た台詞は、自分から見ても最低レベルだった。
「バカバカバカバカあっ!!
ショウなんか大っキライ!!うあーーーーーん!!」
遥は大口を開けて大泣きしだしてしまった。
「あーーーん!ふえーーーん!!」
そして両腕をぶんぶか振り回して俺を殴りだす。
「いてててて!止めろ遥!」
俺はなんとか遥の両手を掴んで大車輪ロケットパンチを止めた。
「離せバカショウ!大っキライ!!」
遥が目をバッテンにして叫ぶ。
「俺はお前が大好きだ!遥!愛してるんだ!」
「ふえ…?」
涙と鼻水でぐしょぐしょの顔をした遥がピタっと止まった。
「遥、お前以外の女の子なんて眼に入らないんだ!」
「……」
遥がぐすぐすと鼻を啜る。
俺は手を離し、ティッシュの箱を取って渡してやる。
「…ホント…?」
ティッシュを二枚出してちーん!と鼻をかみ、
ひっくひっくとしゃくり上げながら俺を見詰める。
「ああ、ホントさ。お前がそんなに嫌がるなら、亜里沙との約束は断るよ。
だって、俺の一番大事なお前を泣かせてまでする事じゃないからな。
ゴメンな、遥」
「ショウ…私も…ごめんなさい、大嫌いなんてウソ。
ホントは大好きなんだから!ゴメンねショウ!」
遥がまた涙をボロボロと零す。
「ああ、知ってるさ。お前が俺にゾッコンなのはね」
「バカ!ショウなんて大好きなんだから!!」
俺に抱き付いて泣き出す遥。
ふう、ヤバかった…また親父に叱られる所だったぜ…
「…ねえ、ショウ…」
遥が甘えた声を出す。
遥を見ると、きゅっと目を瞑って可愛らしく唇を突き出している。
目を瞑った拍子に、溜まっていた涙が一気に流れ出して、
つやつやした美味しそうな頬に幾筋かの流れを作っていた。
俺は頬に流れた涙の川をそっとキスで拭う。
「ああん…」
遥が嬉しそうに声を上げる。
丁寧に両頬の涙を拭った後、俺の大好きなアヒル口をそっと奪った。
「んふ…ん…」
遥が微かに喘ぐ。
俺たちはしばらく、お互いの暖かい唇を堪能した。
「ショウ…ね、お願い…」
ふっと口を離して、再び遥が甘えた声を出す。
俺は遥を抱き締め、電気を消した。
翌朝、目を覚ますと遥が俺の顔を見ながら微笑んでいた。
「おはよう、遥」
「おはよ、ショウ」
にっこりと笑う遥の可愛さに見惚れてしまう。
「今、何時だ?」
「五時半くらいよ。そろそろ起きなきゃね」
そうだな、そろそろ支度しなきゃな…
「って、そうだ遥、お前昨日俺んトコ泊まるって言ってきてるのか?」
遥がふふ、と微笑む。
「大丈夫だよ。ママに言ってきてるから」
そうか…一安心だな。
「ね、ショウ。週末の亜里沙ちゃんの事なんだけど」
「ああ、今日中に断ってくるから大丈夫」
ふるふると首を振る遥。
「違うの。約束通り行って来なさいよ。今から断ったら可哀想だもん」
え?なんだって?
「…良いのか?昨夜はあんなに怒ったのに」
遥が少し赤くなり、ぷうっと膨れる。
「だって、昨夜は言い出すタイミングが悪いんだモン。
あたしだってショウが浮気しない事なんて解ってるよ」
俺はちょっと膨れた可愛い娘の頬っぺたにキスをした。
「今度からは気を付けるよ」
「バカ…大好き…」
俺たちはもう少しだけ、穏やかな朝の時間を楽しんだ。