告白?
昼休みのベルが鳴り、ほっと一息つく。
さて、今日は何が入ってるかな…
最近は、遥が俺の弁当を作ってくれている。
まあ、ところどころにおばさんのフォローが入っているのはご愛嬌だ。
俺が弁当を空けると、今日はエビフライにハンバーグ。
「いただきます!」
俺は買ってきたコーラを明けて一口飲んでからありがたく弁当を食べ始めた。
うん、最近メキメキ腕を上げてるな、遥。
あっという間に食べ終わり、一息付く。
時間を見るとそろそろ深見との約束の時間だ。
「さて、行くか」
俺は席を立ち、第二校舎の屋上へと向かった。
屋上に出ると、何人もの生徒たちが弁当を広げたりダベったりしている。
さて、深見は、と…お、いたいた。
俺はサンドイッチを齧りながら牛乳を飲んでいる深見を見つけ、歩み寄った。
「よう、お待たせ。まだ食ってるのか」
俺の言葉に深見が苦笑する。
「ああ、売店が混み混みでな。さっきやっと買ってきた所さ」
それは俺もよく知っている。
遥が弁当を作ってくれる様になるまでは俺もちょくちょく世話になったからな。
「で、話ってのはなんだい?」
俺は単刀直入に聞いてみた。
「ああ…実は…」
珍しく歯切れの悪い深見。
寡黙だが男らしい性格のコイツが口篭るってのは珍しいな。
「どうした?珍しいな。お前が口篭るなんて」
思ったままを口に出す。
「ああ、すまない。
…なあショウ、お前、南亜由美と付き合ってるのか?」
吃驚仰天だ。
「…どうした?黙っちゃって。
やっぱり、付き合ってるんだな…?」
「ちょ、ちょっと待てよ。
お前があまりにも突飛な事言い出すから驚いちまったんだよ!
なんでそんな事言い出すんだ?
もしかしてお前、亜由美の事が好きなのか?」
驚いたのと、それを誤魔化す為に咄嗟に思い付きを口に出す俺。
「何で知ってるんだ!南に聞いたのか!?」叫ぶ深見。
目から鱗だ。
いや違う。こういう場合の表現はなんだったっけ!?
「ま、まて深見。もちつけ!」俺が落ち着け。
「なんで今、餅をつかなきゃならないんだ!
正月はまだ先だぞショウ!俺をからかっているのか!?」
深見が大マジで叫ぶ。
「だああっ!!ちょっと待てって!
亜由美は俺に何も言ってないし、俺は口からデマカセを言っただけだ!
…って、お前、亜由美の事マジで好きなのか?」
「……!!」
深見が真っ赤になって俯く。
おいおいマジかよ…
「で、もしかして告白したのか?」
「…ぁぁ…」
蚊の鳴く様な声で答える。
…こりゃ、参ったぞ…
「で、亜由美は何て答えた?」
深見は真っ赤になった顔を俺に向けた。
「南は、お前の事が好きだって言ったよ。
だから、嬉しいけれど俺とは付き合えないって…
じゃあ、ショウと付き合ってるのか、って聞いたら、
ショウくんは他の人の事を好きだから、まだダメだと。
だけど、必ず自分に振り向いてもらうもん、ってさ…」
なんてこった…亜由美、そんな事を…
「…で、お前は何か答えたのか?」
「ああ、頑張れって言って来た。俺に出来る事なら力になるってな」
…漢だな、深見…
「だけどな、俺も南の事は諦めないからって言って来たんだ。
俺も、南を振り向かせる様に努力するから、って」
俺は思わず俯いてしまった。
深見の男らしさと、亜由美の健気さはどうだ…
それに比べて、俺のいい加減さ…なんて卑怯者だ、俺は!
俺たちはしばらく押し黙っていたが、深見が再び口を開いた。
「俺は別にお前を責めてる訳じゃない。
人の気持ちなんてどうしようもない物だからな。
だけど、お前が好きなのが誰なんだか知らないが、
南にいつまでも気を持たせる様な残酷な事だけはしないでくれ。
もしお前の好きな子とお前が上手くいくのなら、
南の為にもはっきりとしてやって欲しい。
もし、南を受け入れる積りがあるのなら、南を大切にしてやって欲しい。
ただ、好きな子と上手くいくまでの繋ぎとか、好きな子の代わりにする様な、
そういう残酷な傷つけ方をしたら俺はお前を許さない。
俺が言いたい事はそれだけだ…」
深見はまっすぐな瞳で俺を見ていた。
「…ああ、解った。よく覚えておくよ」
俺は答え、右手を上げて教室へと戻った。
キーンコーンカーンコーン…
さて、放課後だ。
今日はバイトだな、一旦家に帰って一休みするか。
俺が自転車のカギを外していると、後ろから声が掛かった。
「ショウくん!今日はバイト?」
振り向くと、可愛い笑顔を浮かべた亜由美が立っている。
「ああ、お前も帰りか?」
亜由美が俺の問いに残念そうに答える。
「ううん、私、文化祭の企画委員に選ばれちゃったから
これから会議なの。ショウくんのクラスは誰だっけ?」
お?そういえば今朝のHRの時に誰かがそんな事言ってたような…?
「悪い、忘れちまった。でも、今朝そろそろ準備に掛かるって言ってたな」
「そう!今年は企画委員長がハリキってるから、結構大きなイベントになりそうよ。
あと、毎年見送られてきたミスコンテストもとうとうやるみたいよ」
へええ、よく先生連中の許可が下りたよな。
俺が変な関心をすると、亜由美が苦笑交じりに答えてくれた。
「なんでも、ミスコンテスト、というんじゃなくて
校内で輝いている人コンテスト、みたいなお題目を付けたみたい。
だから、表向きは男女学年問わずに輝いてる生徒を選ぶ様な感じね」
なるほど、悪知恵が働きますこと…
「だけど、俺が思うに、お前と遥、あと亜里沙で決まりじゃないのか?」
うふ、と照れくさそうに笑いながら首を振る亜由美。
「私なんかとてもじゃないけど無理!
だけど遥ちゃんと亜里沙ちゃんはトップに入るわね、絶対」
謙遜だな、亜由美。
「まあ、それはフタを開けてのお楽しみ、って所か。
おっと、そろそろ帰らないとバイトに間に合わなくなるな。
じゃあな、亜由美。また明日!」
「うん、ショウくんバイト頑張ってね!」
「お前も委員会頑張れよ!」
俺は校舎に戻って行く亜由美を見送り、自転車で走り出した。