約束?
「ショウ先輩、今日も早いですね」
亜里沙が微笑みながら話し掛けてくる。
「ああ、遥に付き合わされてな。
まあ、早いと校門とか込まないから良いしな」
そういや、この娘は美術部なのになんでこんな早いんだ?
「先輩、HRまでまだ時間有りますよね…
ちょっと、お話しても良いですか?」
亜里沙はキラキラした綺麗な瞳でじっと俺を見る。
「ああ、良いぜ。じゃあ、屋上にでも行こうか」
「はい!」
嬉しそうに頷く亜里沙。
俺たちは自販機でパックのジュースを買い、屋上へ上がった。
朝の屋上にはまだ誰も居らず、気持ちの良い風が吹いている。
「すみません、奢ってもらっちゃって…」
亜里沙がぺこんと頭を下げ、ツインテールがさらっと流れる。
「ああ。で、どうしたんだ?」
俺はコーヒーにストローを挿しながら聞いた。
「…ショウ先輩、最近、若宮先輩と仲良いですよね」
ピク、と動きを止めてしまう俺、。
「まあな」
爽やかに微笑む積りだったが多分ちょっとアレな笑顔になってるだろうな…
「お付き合い、してるんですか?」
真摯な瞳で聞いてくる。
…この娘には隠しては置けないか。
「…ああ、ちょっと前からな。
いつ気付いた?」
ふっと目を伏せる亜里沙。
「多分、先輩たちがお付き合いしだしてすぐ、です。
だって、私もショウ先輩の事大好きだから…すぐ、気付きました…」
なんて言って良いか解らないな、こういう時は…
「でも、当然だと思いました。
若宮先輩が芳野先輩とお付き合いしてる時は、なんだか無理してる感じだったけど
今はすごく自然になってて、素敵なんですよね。
ウチのクラスの男子も、若宮先輩ってすごくカッコいいよな、とか話してますし、
実際にラブレターとか出した子も居ますし」
そういや遥が、下級生からもたくさん貰ってるの〜♪
とか言いながら嬉しそうに俺やカナサリに見せびらかしてたな。
まあ、沙里に鼻で笑われて喧嘩になっておばさんにどつかれてたけど…
「先輩、なに笑ってるんですか?」
亜里沙が不思議そうに聞いてくる。
おっと、いかんいかん。
「いや、あいつも人気者だと思ってさ。
でも、遥みたいなはっちゃけ娘よりもお前や亜由美の方が人気出そうだけどな」
ふっと亜里沙が微笑む。
「うふ、南先輩だってすごくモテるんですよ。
でも、南先輩は昔から、「私には本命が居るからごめんなさい」って断ってるらしいんです」
…はあ、そうですか。
「へえ、そりゃ驚いたな。誰だろ本命って」
ぷっと亜里沙が噴出す。
「おとぼけですね、ショウ先輩。
本命はショウ先輩に決まってるじゃないですか!」
「へえ、そりゃ驚いた!
まさかあのショウ先輩だとは…って、なんですとっ!?」
俺は思わずコーヒーを取り落としてしまった。
「ななななんでそんな事…!」
亜里沙がコーヒーを拾って俺に渡す。
「隠さないでください。結構、噂になってますよ?
南先輩のお友達からちょっとずつ漏れてるんですから」
これだから女ってのは…!!
「お前は誰から聞いたんだ?」
勤めて冷静さを装う俺。だが手は震えている。
「美術部の先輩から聞きました。
でも、南先輩はお付き合いはしてないって言ってます。
ショウ先輩の心は、若宮先輩の方を向いてるからって…」
「…何だって!?」
亜由美がそんな事を!?
って事は、亜由美は俺と遥の事を気付いているのか?
ふう、と溜息を付く亜里沙。
「ダメですよ、ショウ先輩。もっと女の子の気持ちを読まないと。
南先輩は、本当にあなたの事を大好きなんですから…
もちろん、私だって!」
切なく微笑む亜里沙。
「こんな事言いたくないけど、私も最近結構告白とかされるんです。
でも、私はショウ先輩の事が大好きだから…
きっと、南先輩だって同じです。
だから、いつまでも若宮先輩とお付き合いしている事を隠してると…」
目を伏せたまま黙る亜里沙。
「それに、若宮先輩を狙ってる男の子もいっぱい居るから、気をつけて下さいね」
「…ああ、忠告ありがとう。俺も頑張るよ」
俺は少し、考えを改める事にした。
それにしても亜由美の奴、そんなに無理してたのか…?
亜里沙がぱっと顔を上げる
「あ、そうだ!私、来月原付の試験受けるんです!」
ぱあっと笑顔になる亜里沙。
「お!いよいよか!予約したの?」
俺も笑顔で答える。
「はい!来月誕生日だから!やっと十六歳になるんです!」
うん、いい笑顔だね。
「そっか、じゃあ問題集とかやってるのか?」
「いえ、これから買う所なんです。
先輩、いい問題集知ってますか?」
亜里沙が小首を傾げる。可愛いな、この娘も。
「いや、俺が去年使ったやつが有るから貸してあげるよ。
問題なんてほとんど変わってないはずだ」
「え!ホントですか!」
嬉しそうに声を上げる。
「ああ、明日持って来てやるよ。原付なんて、問題集を二〜三回通してやって、
問題に慣れちゃえば楽勝さ!俺ですらそれで取れたんだから」
「…」
と…亜里沙がなんだか黙っちまったな?
「どうした、亜里沙?」
心配になって声を掛けると、ぱっ亜里沙が顔を上げた。
「先輩!今週末の土曜日はお暇ですか!?」
真剣な顔をして聞いてくる。
「あ、いや、確かバイトが…」無えな、今週は…
「無い、な。だけど遥と…」遥は合宿って言ってたな…
「若宮先輩、今週末は合宿ですよね!」
何で知ってるんだキミは!?
「あの!今週の土曜日、私に原付試験の勉強教えてくれませんか!?」
「…いやそんな、教えるほどのモノじゃないって!」
「でも、不安なんです。お願いします…」
ばっと腰を折り頭を下げる亜里沙。
…まあ、良いか…
「解った、じゃあ土曜日に市立図書館かどっかで勉強しようか」
「良いんですか!やったあ!」
手を胸の前で組んで喜ぶ亜里沙。
「お前も自転車通学だから、土曜日の授業が終ったら
自転車置き場で待ち合わせようか」
「はい!じゃあ、土曜日に!」
亜里沙は嬉しそうに言う。
キーンコーンカーンコーン…
「おっと、予鈴だ。そろそろ行こうか」
そして俺たちは教室へと向かった。