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病院……?

「はい、ショウくん。たくさん食べてね!」

人影もまばらな屋上の隅で、輝く様な笑顔で嬉しそうに亜由美が開いた包みから現れた

二つのタッパーウェアには、これでもかと言う程の量の色取り取りなおかずが溢れている。

「ごはんはね、おにぎりなんだけど、いいかな……?」

なぜかちょっと心配そうな声で俺に尋ねる亜由美に

「ああ、もちろん!おにぎりは大好きだよ」

と笑顔で応えると、

「良かったぁ!もし、私が握ったおにぎりなんかじゃイヤ、って言われたらどうしようかと思ってたの」

ふくよかな胸を押さえながら安心した様に亜由美が呟いた。

「何言ってんだよ、お前が握ってくれたおにぎりを俺が嫌がるワケ無いだろ?」

俺は、妙な事を心配するもんだと思いながらいただきます、と声を上げ、

綺麗な三角形に整えられたおにぎりを掴んでぱくつき始めた。

「うん、美味い!やっぱ亜由美は料理上手いよな」

朝飯を抜いていたせいもあり、とことん腹が減っていた俺が、

おにぎりもおかずもバクバクとガッつきつつ亜由美に言うと

「ホント!嬉しいな。私、ショウくんの為にお弁当作るのがとっても楽しいの。

 ……ね、もし良かったら、明日も作って来ても良い?」

と頬を赤く染めながら亜由美が遠慮がちに聞いて来た。


俺は反射的に「ああ、もちろ……」とまで言い掛かったが、

瞬間、脳裏に遥の泣き顔が閃いてむぐ、と喉におにぎりを詰まらせてしまう。

「……っ!むぐ、ぐほっ!!」

そのまま、物凄い勢いで咽始めた俺に

「きゃ!ショウくん大丈夫!?」

驚き慌てた亜由美が、水筒を取り出して麦茶を注いで渡してくれた。

「げほがはっ!ぐはっ!

 んぐんぐんぐんぐ……ぷはっ!ああ、苦しかった……

 ゴメンな、亜由美、ありが」

俺はまだ正常には戻らない呼吸でゼハヒハ言いながら、亜由美に礼を言おうとしたが

咽た勢いで、転倒で傷めた箇所が激烈な痛みを訴えだした!

「っ!?ぬおおおおおおお!」

特に、派手に転んでヘルメットを地面に叩き付けた時に捻ったらしい首筋が、

まるで千切れでもしそうな勢いでイヤな感じに痛むのに堪らなくなり、

「くっくくくく……」

妙な声で呻きながら四つん這いになって突っ伏してしまった。

「ショ、ショウくんどうしたの!?」

俺の背中に手を当てた亜由美がオロオロと声を掛けて来るが、あまりの痛みに返事も出来ない。

と、カーっと熱くなった頭を押さえようとした瞬間、ふっと意識が遠くなるのを感じる。

「ショウくん!ショウくん!!ショウく…………」

そして、俺の事を必死で呼ぶ亜由美の声が段々聞こえなくなり、俺の意識は漆黒の闇へと落ちて行った。



……ん?あれ、ここはどこだ?俺は何してるんだ……?

あれ?あそこに居るのは遥、か?泣いてる、のか?


”ショウのバカ……”


え?どうしたんだよ、遥。俺がバカだって?


”ショウなんて、大っ嫌い。バカ、バカぁ……”


遥……ごめん、俺が愛してるのはお前だけだよ。

お前を一番愛してるんだ!


”バカ、バカ、バカ……うそつき……”


なんでだ……さっきから、遥のところへ行こうと必死で走ってるのに、全然近付けないじゃないか!

遥!遥!!泣かないでくれ!俺はお前だけを……愛して……愛してる…ん…だ……



「う……」

くそ、頭が割れる様に痛ぇ……

「ショウ!」

ん?遥……か……?

俺の擦れる視界に、真っ赤に泣き腫らした瞳の遥が映る。

なんか呼吸がし難いな……鼻になんか入ってる感じだ……

「ひゃ、ひゃうか……」

あれ?遥、って言おうと思ったのに声がまともに出ねぇ。なんだこりゃ?

俺が右手を動かして鼻の辺りを触ると、なにやらチューブの様なモノがテープで固定されている。

って、右手が痛ぇ?……ありゃ、なんか刺さってる、な。こりゃ、点滴か?

「ダメよ、動いちゃ!ちょっとガマンして」

と、俺に向かって厳しい声を上げた遥が、枕元に向って突然叫び出した。

「今、ショウの意識が戻りました!先生!ショウの……」

……え?何なんだ?一体何が、どうなってんだよ?

ようやくまともに視界が定まって来て、俺の目に映ったのは見知らぬ天井。

……いや、どっかで見た事が有る様な気もする、けど……

俺はひたすら混乱する思考を必死で落ち着かせながら、現在の状況を確認しようと頭を巡らせた。



「……と言うワケで、病院(ここ)に運ばれたのよ」

俺の意識が戻ってから二時間後、医師の診断も終わって一息ついてから、遥が状況を掻い摘んで説明してくれた。

時間は午前二時、部屋の明かりも落とされているが月が出ているのでそう不自由はしない。

だけど、俺のベッドサイドで窓に背を向けて座った遥の表情は逆光になっていて良く見えなかった。

「なるほど……それにしても、それから三日も経ってるとはね」

俺が屋上でぶっ倒れた時、亜由美はパニック状態でどうして良いか解らずに泣き叫んでいたらしい。

そこに、偶然?やって来た遥が保健室に走り、ヘタに動かさない方が良いと判断した先生によって

救急車が呼ばれ、俺は病院へと搬送された、と言う事らしいのだが……

「もう、大変だったんだから。亜由美は半狂乱になっちゃってるし、

 あたしも……あたしも、倒れたまま動かずに、泡噴いてるショウを見た時には……

 本当に、心臓が止まるかと、思っちゃ……」

俺に向かって説教する様に言い掛けた遥の声が途中から涙声に変わり、

そのまますん、すんと鼻を啜って泣き出してしまった。

「ごめんな、心配掛けて……」

両手で顔を覆って泣き出した遥の膝に手を起き、俺が謝ると

「バカ……ショウのばかぁ……」

遥ががば、と俺の首筋に掻き付きながらひ〜ん、と声を押し殺して泣きじゃくり始める。

俺は、遥の小さな頭を優しく撫ぜてやりながら、心の底から暖かいモノが溢れてくるのを感じた。




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