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激痛……

ジリリリリリリリ……

目覚ましの音が響き、起き上がろうとした俺は

「ぐわっ!?」

全身の痛みに叫びながら、再び布団に倒れ伏してしまった。

「ぬおおおおおお……」

こ、これは……手も足も胴体も首も……頭以外の全身が悲鳴を上げている。

まさか、こんなに痛くなるとは、ね。

昨夜、派手に転倒した後、通り掛かりのGPzのライダーに助けられて

病院に行く様に忠告を受けたが、結局行かずに帰って来て寝てしまった。

寝る前は気も張ってたので痛い事は痛くても、

そんなに大した事はないと思っていたのだが起きて見たらこの有様だ。

やべぇ、これじゃまともに起き上がる事も難しいぜ。

時計を見ると六時五十分、目を覚ましてからもう二十分も経ってやがる。


いつもなら、もうとっくに遥が来てるハズなんだがな……


やはりと言うか当然と言うか、いつもの様に元気にやっては来ない。

俺は体の痛みを忘れる位にズン、と心が沈むのを感じながら、

テーブルや壁にもたれて何とか立ち上がった。

朝飯は……今日はしょうがないな。

早く部屋を出ないと、万が一沙里や香奈が朝飯持って来てくれて

今の俺の状態を見たら、おばさんや遥に知らせてしまうかもしれない。

それで、また余計な心配を掛けちまう事だけは避けたいぜ。

俺はそう考えて、全身を襲う痛みになんとか耐えながら支度を済ませ、

体を引き摺るようにして自転車を漕いで走り出した。


いつもの倍近い時間を掛けながら学校へと辿り着き、ヘロヘロになりつつ階段を登っていると

「おはようございます、ショウ先輩」

背後から、元気一杯の愛らしい挨拶が聞こえて来た。

「やあ、おはよう亜里沙」

俺がギギイ、と軋む首を無理矢理振り向かせ、何げない風を装って挨拶を返すと

「どうしたんですか?何だか動きが変ですよ?」

と可愛らしく首を傾げた亜里沙が不思議そうに尋ねて来た。

「あ、ああ。昨日、ちょっと運動したら筋肉痛がね」

自分でもちょいと無理が有るかとは思うが、幸いにも外傷的なモノは少ない上に

冬服になっていたので手足の露出も無く、恐らくパッと見は解らないだろう。

「あまり無理しないで下さいね」

俺の言葉を信じた亜里沙は、心配そうな表情で俺に優しい声を掛けてくれた。


ヨチヨチと階段を登り切り、一年の教室に向う亜里沙と別れた俺が教室に入ると

「おはよう、ショウくん。今日の放課後、文化祭企画委員会が有るから忘れないでね」

と岬から声が掛かったので、

「ああ、解った。今日は西園に行く必要は無いよな?」

と別に他意も無く聞くと

「……今度行くのは来週ね。島津委員長に会いたいからって、そんなに焦らないでよ」

ジトっとした目付きで俺を睨んだ岬が、しょうもない文句を言って来た。

「おい、お前なあ……」「何よ」

一瞬、ムッとした俺は何か言い返してやろうかと思ったが、

ここで何か言うと岬がムキになりそうな予感がしたので

「……何でも無ぇよ」

と口を噤む。

「言いたい事が有ったら言えば?」

俺が黙ったのを見て、逆に面食らった様に食い下がって来た岬に向って

「何でも無いって。俺は寝るよ」

と返した俺は、全身のズキズキとした痛みを堪えて机に突っ伏した。


キーンコーンカーンコーン……


「さー、メシだメシだ!」「誰か購買行って来いよ!」「五十円貸してくで〜!」

午前中の授業を乗り切りようやく昼休みを迎えたが、俺の全身の痛みは酷くなる一方だ。

「くそ……朝抜きだからなんか喰わんと」

本当なら動くのも勘弁な状況だが、さすがに腹の虫がグーグーと不満の声を上げている。

痛みを必死で堪えつつ、なんとか椅子から立ち上がった時、

「ショウくん!」

教室の出口から、聞き覚えの有る澄んだ声で呼ばれて振り向くと、

そこには大きな包みを抱えた亜由美が微笑みながら立っていたので

「亜由美か、どうした?」

俺は出来るだけ自然に振舞いながら、ヨチヨチと亜由美の元へと歩いて行った。

「どうしたの?なんだか歩き方がヘンだけど」

数メートルの距離を十秒以上掛けて歩いた俺に向かって、心配そうな声を掛けて来る亜由美に

「あ?いや、ちょっと昨夜トレーニングしたら筋肉痛になっちまってな」

と、亜里沙にしたのとほぼ同じ言い訳をする。

「大丈夫?無理、しないでね」

心配そうな瞳で、俺をじっと見詰める亜由美に手首を掴まれた俺は

「心配しんなよ。で、どうした?」

昨夜の亜由美とのキスを思い出してドキドキと早くなる鼓動を感じ、少しぶっきら棒に尋ねた。

「うん、ショウくん、お昼はどうするの?」

教室の中から、こちらに向って微妙な視線が注がれているのに気付いた亜由美が声を潜めて聞いて来たのに

「これから買いに行こうかと思ってるけど」

と答えると、

「じゃあ、私と一緒に食べようよ。ショウくんの分も作ってきたの」

ぱあっと嬉しそうに微笑んだ亜由美が、俺の手首を引っ張って歩き出す……って!

「痛ってぇぇ……亜由美、もうちょっとゆっくり頼む」

俺は激痛に絶叫しかかって、ダーッと涙を流しつつ亜由美に懇願した。

「ご、ごめんなさい……でも、そんなに酷いの?」

「ああ、ちょいと気合い入れ過ぎてな……」

俺の痛がり様に驚いて謝りながら尋ねてくる亜由美に苦笑を向け、

ヨチヨチと歩き出した俺の目の端に、さーっと小走りに掛けて行く

良く見覚えの有るシルエットが映り、「!遥……」と思わず呟く。

「え?なあに?」

俺は、袋の様な物を抱いて走り去って行く最愛の少女の後姿を見送り、

「……なんでも無い、よ。行こうか」

砂を噛むようなもどかしく苦い思いと、胸を刺す激しい痛みを感じながら亜由美に笑顔を向けた。



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