相談?
…何であんた達があたしの部屋に居るのよ…」
遥がジト目&アヒル口でボヤく。
食事の後のドタバタも終わり、俺は遥の部屋に来たのだが、
当然の様な顔をしてカナサリも着いて来た。
「ねー、お兄ちゃん、ハル姉と香奈はほっといて私の部屋に行こ」
俺の膝の上に乗った沙里が甘えてくる。
「…沙里、あんたねえ…!」
遥が大声を出しそうになるが、おばさんのタウンページが
余程堪えているのか途中で小声になる。
ふと時計を見るともう九時を過ぎている。
「遥、もうカナサリも寝る時間だし俺は帰るよ」
「え!もう帰っちゃうの!?」
遥と沙里が同時に叫ぶ。
香奈は床に寝そべってマンガを読んでいるが、かなり眠そうだ。
「ああ、俺達も明日が有るしな」
「うー」
遥が唸る。
「…じゃあ、あたしショウ送ってく…」
上目遣いに俺を見ながら呟く遥。
その可愛さにドキッとしてしまう。が、今日はダメだな。
「いや、今日は止めとこう。おばさんもまだ怒ってるだろうし」
「…だって!だって…まだ今日ちょっとしか…」
遥が少し涙ぐむ。いかん、限界だ。
ぎゅっ!ちゅっ!
俺は遥を抱き寄せ、キスをした。
「あーーーー!」悲鳴を上げる沙里。
「きょほゃー♪」奇声を上げる加奈。
「ダメぇー!!」バッと俺達に掴み掛かる沙里。
「ママー!パパー!ちゅーしてるおー!!」
ざーっとドアに向かって這って行く加奈。
俺はスッと遥を離し、突っ込んできた沙里を抱き上げる。
素早くドアに廻り、加奈を足でむんずと抑える。
「ほぐえ!?」
ペタン!と踏み潰されて悶える加奈。
「ショウ…」
真っ赤になっている遥。
「じゃあ俺帰るわ。沙里、加奈、今のはパパとママには内緒にしてな?
そうしないとお兄ちゃん二人の事嫌いになっちゃうぞ?」
と軽く脅しをかける。
「ずるい!お兄ちゃん私にもちゅーして!」
「加奈も〜♪」
俺に詰め寄る沙里と俺の足の下でもごもご動く加奈。
「沙里はさっきしただろ?加奈は今度してあげるから」
「うーー!」
「わーい♪」
なんとか黙るツインズ。
「じゃあ遥、また明日な」もう一度キスする。
「あん…もう、ばか…」
そう言いながらも嬉しそうだ。
「あーー!二度も!!」
悲鳴を上げる沙里のほっぺにキスをする。
「きゃ!」
真っ赤になって黙る沙里。
俺は沙里を降ろして加奈から足を退かし、部屋を出て階段を降りた。
遥の部屋では何やらぎゃーぎゃー騒いでいるが、なんだか楽しそうにも聞こえる。
リビングのドアを開けるとおじさんとおばさんがワインを飲んでいた。
「ご馳走様でした。そろそろ帰ります」
俺の言葉におばさんが微笑む。
「はい、またねショウくん。遥の事、よろしくね」
「ショウ、遥とはどこまで行ってるんだイタイイタイ母さん痛いよ!」
おばさんに耳たぶを抓られて悲鳴を上げるおじさんを見て苦笑する。
「ショウくん、気にしないでね。明日は来れるのかしら?」
明日は、と。
「明日はバイトがあるから無理かな。
でも、ありがとうおばさん」
「ショウ、ここはお前の家同然なんだから遠慮せずにいつでも来いよ」
おじさんが痛そうに耳を押さえながら声を掛けてくれる。
「うん、ありがとうございます。それじゃ、お休みなさい」
「ああ、お休み」「お休み、ショウくん」
振り向くと、遥とカナサリがリビングに入ってきた。
「ショウ、外まで送るね」
遥が俺の腕に抱き付いてくる。
俺はもう一度おじさんとおばさんに挨拶して廊下に出た。
カナサリはおばさんに捕まって歯磨きの為に洗面台に連行されていった。
玄関を出ると肌寒く、すっかり秋の気配だ。
「ね、ショウ。お願い…」
遥が瞳を閉じる。
俺は遥の可愛らしいアヒル口にもう一度唇を重ねた。
五分ほど抱き合いながらキスをして、体を離す。
「…もっと、一緒に居たいよぅ…」
遥が涙を流す。
俺は宝石の様な遥の涙をキスで拭った。
「…キザだね」
遥が嬉しそうに微笑む。
「親父に習ったんだ。女の子の涙はキスで拭ってやれ、ってね」
パッと体を離し、駆け出す俺。
「おやすみ、遥!また明日な」
「おやすみ、ショウ!明日迎えに行くからね!」
遥は俺の姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。
翌朝、いつもの様に迎えに来た遥と自転車で登校する。
他愛もない事を話しながら学校に着くと、
「それじゃ、また夜ね」
遥はそう言って朝練の為に弓道場へと向かった。
さて、俺は教室で寝るかな。
廊下を歩いているとクラスメートの深見とバッタリ会う。
「おはよう、ショウ。今日も早いな」
「ああ、お前も朝練か、頑張るな」
俺と深見は中学生からの付き合いだ。
寡黙な深見は昔から熱心な野球少年で、
三年生が抜ける我が校の次期エースである。
俺と深見はなぜか気が合い、たまに一緒に飯を食ったりする。
が、最近は深見の部活と俺のバイトが忙しく、あまり話もしていない。
この日も、すれ違い様に挨拶をしただけ、かと思ったのだが。
「あ、ショウ、今日の昼休みちょっと時間作れないか?」
俺を呼び止める深見。
「お?おお、いいぜ。どうしたんだ?」
俺は少し驚いたが、諒承する。
「ああ、ちょっと相談が有るんだ…」
いつに無く思い詰めたような雰囲気だな…
「解った。だが金はないぜ」
深見がふっと笑う。
「バカ、お前から金をせびるかよ。
じゃあ、十二時半に第二校舎の屋上で待ってるからな」
深見はぱっと右手を上げてグラウンドへと向かった。
さて、なんの話だろう?
俺は考えながら教室へ向かった。
まだ早い時間の校舎内には、生徒もまばらだ。
廊下の角を曲がった時、目の前に長い黒髪をツインテールにした
可愛らしい少女とバッタリと顔を合わせた。
「あ!ショウ先輩。おはようございます」
「ああ、おはよう亜里沙」
にっこりと微笑みながら挨拶をしてきたのは、美術部一年にして
次期ミス我が校候補ナンバーワンの西村 亜里沙だった。