さよなら、夏の日 完結編
「ショウ、どうしたの?自転車あった?」
納屋の入り口で固まっている俺に心配そうに声を掛けて来る遥。
「あ、ああ、自転車は無いけどバイクは有った。とんでも無いのがね」
俺は遥に答えながら、RZ350に近付いてザッと状態を確認する。
キーは付いているし、ナンバーも有る。車検も……うん、切れてない。
バッテリーは、と……
カチ、とキーを捻ると、ニュートラルランプとオイルランプが明るく点灯した。
「あとは……エンジンが掛かるかな?」
「ショウ、大丈夫なの?」
俺は不安そうに見守る遥に微笑んでから、ニ、三回キックを軽く踏み降ろし、
「よし」
少しドキドキしながらチョークレバーを引いて一気にキックを踏み降ろした。
ヴォルン!ヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロ……
「掛かった!」
呆気ないほど簡単に、かつてその加速の凄まじさによって
ポケットロケットと呼ばれた高性能マシンが目を覚ます。
「遥、とにかくこれで行こう。崖の方って言ってたよな」
「う、うん!ヘルメット持って来るね!」
俺がRZを納屋から引き出そうとするのを見た遥が本棟へと掛けて行く。
水温計の針が少し動いた時、遥がジャケットとメットを持って玄関から出て来た。
「それにしても、中免取っておいて良かったな」
俺はジャケットとメットを身に着けながら独り言を呟く。
半年前になんとか一発試験で中免は取ったけど、金が無くて中型のバイクは買えなかったワケだが……
RZに跨り、タンデムステップを引き出して遥を乗せる。
「行くぜ、遥」「うん」
俺はそっと一速にギアを入れ、注意深くクラッチを繋いで走り出した。
パァァーン!!
「うお!」「きゃあっ!!」
門を潜って道路に出た俺は、三速にシフトアップしてぐいっとアクセルを開けRZを加速させた、が
その余りの加速に俺にしがみ付いた遥のみならず、加速させた当の俺まで唸ってしまう。
「なんだこりゃ……こんなに速いなんて!」
「ショウ!怖い怖い怖いよぅっ!!」
後ろから蹴飛ばされたかのようなRZの加速に驚愕しつつも酔いかけた俺の背中に、
悲鳴を上げながら遥がむぎゅうっとしがみ付く。
いつもなら遥の爆乳を押し付けられてデレっとしてしまう所だが、RZの速さにそれ所ではない。
「こりゃ、気を付けないとホントにヤバいな」
俺はアクセルを開けろと誘惑してくるRZに抗いながら、背中にしがみ付く最も大切な少女の為に
理性のブレーキを最大限にかけて減速しながら崖の方へとハンドルを向けた。
十分後、俺と遥が村人総出で大騒ぎとなっている崖下近くの海岸に着いた時、
岩場の上には俺のカタナが変わり果てた姿で引き上げられていた。
「ショウくん!そのバイク……」
特徴的な排気音を奏でながら近付く俺達に村人達が道を開けて行くうち、
俺のカタナの側でしゃがみ込んでいた美里さんが真っ赤に泣きはらした目を向けて驚いた様に声を掛けて来る。
「美里さん、RZを勝手に使ってすみません。だけど、俺達だって当事者なんだから……」
俺が美里さんに謝りながら言い掛けると、
「ううん、それは良いの。でも、あなたのバイクが酷い事になってしまって……」
美里さんが目を伏せながら申し訳無さそうに呟く。
俺はRZのエンジンを停めて遥を下ろし、スタンドを掛けてから俺も下りた。
そして、変わり果てた姿となった愛車カタナに近付き、状態を確認した。
フロントフォークは折れ曲がり、前輪がエンジンに接触してしまっていて、
ビキニカウルやガソリンタンク、サイドカバーなんかの外装部品がほとんど見当たらない。
マフラーからはまだ水が滴り、恐らくエンジンはたっぷりと海水を飲んでいる。
……こりゃ、ダメだな。
俺は、約一年の間、俺と遥、それに亜由美や亜里沙を乗せて様々な所に連れて行ってくれたカタナの、
想像もしなかった無残な最期に目頭が熱くなってしまう。が、それよりもだ。
「美里さん、克弥さんは無事なんですか?」
俺は哀しみと怒りをグッと飲み込み、俯く美里さんを見詰めながら聞いて見た。
「……克弥は、まだ、見付かってないの」
俺の問いに一瞬ビクン、と身を震わせた美里さんが血を吐く様な掠れた声で応える。
「え……」
遥が小さく呻き、ふら、と倒れ掛かるのを俺が支えたのを見て
「今、漁師総出で必死で探しているんだ。キミ達も気になるだろうが、ココに居られても邪魔なだけだ。
何か進展が有ったら知らせに行くから、とりあえず家に戻っていてくれ
キミのバイクは後で家に届けるから」
と孝光さんが厳しい顔でこちらを見ながら言う。
「……はい、解りました」
俺は遥を抱き上げてRZに跨らせ、美里さんに一礼してからその場を後にした。
家に帰り、美里さんに言われた様にご飯に卵を掛けて簡単に朝食を済ませる。
「ショウ、寝てようよ」
食器を片付けていると、青い顔をした遥が半べそで言ってきたので、俺は遥を抱き締めながら布団に入った。
一体、なんでこんな事になっちまったんだ……
俺達が遊びに来たのが引き金になっちまったのか?
それとも、そんな事は関係無く起こってしまう事だったのか?
泣きながら眠り込んでしまった遥の頬を撫ぜながら自問自答を繰り返すうち、
いつの間にか俺の意識も白い闇の中へと落ち込んで行った。
「ショウくん、遥ちゃん、起きて……」
美里さんの声にハッと目を覚ますと、そこには瞳を真っ赤にした美里さんが俺達の顔を覗き込んでいる。
「!美里さん、克弥さんは!」
ガバッと跳ね起きながら俺が尋ねると、美里さんは哀しげな顔で首を数回、ゆっくりと横に振った。
「ひ……ひ〜ん……」
少しの間の後、遥が俺の胸に顔を付け、声を殺して嗚咽し出す。
同時に、美里さんの綺麗な顔がくしゃ、と歪んで大粒の涙がポロポロと零れ出す。
その時の俺に出来る事は、遥と美里さんをぎゅっと抱き締める事くらいだった……
「克弥はね、ずっと私の事を好いていたの……そう、小学生の頃から」
一頻り泣いた後に、かなり落ち着きを取り戻した美里さんが静かに語り出した。
「私も、そんな克弥が可愛くていじらしくて、私が高校三年、克弥が中学三年の時につい受け入れてしまったの。
そして、私と克弥はお互いに溺れてしまった……でも、すぐに家人に感付かれてしまったわ。
私はその時、地元近くの街の短大に入学が決まっていたから、
克弥は無理矢理名古屋の高校へ入学させられたの。だけど、それは逆効果だったわ。
克弥にも、そして私にも……」
自嘲気味に微笑みながら、俺と遥に自分と克弥さんの事を説明する美里さん。
「二年前、家人が亡くなるのを待っていたように克弥は地元へ帰って来たわ。
そして私達の爛れた生活が始まった……。気付いたのは、孝光おじさんだけだった。
おじさんは戸惑いながらも私達の事を理解してくれ、だけどなんとか止め様と骨を折ってくれた……
徳光おじさんは私や克弥と齢が近くて、伯父とはいえお兄さんの様に慕っていたから
克弥も徳光おじさんには心を開いていたわ。
私も、なんとかこの異常な生活を終わりにしなければと思って色んな手を打ったの。
だけど、それは克弥をいたずらに刺激するだけになってしまったのね……
ショウくん、遥ちゃん、あなた達が来たから克弥があんな事をした訳ではないわ。
それに、あれは事故なの。ショウくんが乗ったRZ350は克弥のバイクだけど、
克弥は一年前に仕事中の事故で右足首を痛めて、RZには乗れなくなってたの。
RZの車重を支えられないのと、キックスタートが出来なくなっていたわ。
RZに乗れないなら他のバイクなんか要らない、って言いながらもRZの整備はしていた……。
もう、二度とバイクに乗れることは無い、と思いながらもね。
でも、ショウくんの乗って来た125ccなら乗れるかも、って思ったんでしょう。
今朝、私と口論になった克弥はショウくんのバイクで家を飛び出して、
久し振りの、それも慣れないバイクだったからカーブを曲がり損ねて……
ごめんなさいね、ショウくん……あなたの大切なバイクを……」
俺と遥の前で再び泣き崩れる美里さんに、俺は優しく声を掛けた。
「バイクの事なんか気にしないで下さい。それよりも、美里さんも少し休んだ方が良いですよ」
正直、カタナの事は泣きたいほど辛いし悔しいが、そんな事で嘆き悲しんでもカタナは元に戻らないし、な……
「でも……」
俺の顔を見詰めながら、美里さんが尚も謝ろうとした時
「美里ちゃん、いるかね?」
車のブレーキ音が聞こえ、間も無く玄関先から徳光さんの声が響いた。
「あ、俺が出ます」
立ち上がり掛けた美里さんを制し、俺が玄関まで出ると
「ああ、キミか。軽トラでカタナを運んで来たから確認してくれ。一応タンクも見付かった。
ところで、美里ちゃんはどうしたね?」
と、孝光さんが微妙に視線を外しながら俺に言う。
「美里さんは今休んだ所です。とりあえずカタナを下ろして確認させて下さい」
俺はにこやかにだが、有無を言わさぬ強い調子で徳光さんに言いながら軽トラへと向かった。
カタナの状態は完全廃車、としか言いようのないモノで、徳光さんと二人掛かりで
とりあえずなんとか納屋の中へ放り込む。
「キミ達はこのカタナで来たんだろう?どうやって帰るかね」
気の毒そうな表情で俺に聞く徳光さんに
「……まだ何も考えていません」とだけ答える俺。
本当に、どうすっかな……電車で帰るしかないか……
俺がカタナを見詰めながら大きく溜息をついた時。
「ショウくん、もし良ければ、克弥のバイクに、RZに乗って行って……」
納屋の入り口から響いた声に振り向くと、そこには遥に支えられた美里さんが立っていた。
「美里ちゃん、だが……」
一瞬の沈黙の後、徳光さんが口を開きかかるが、美里さんの瞳をみて黙ってしまう。
だが俺は、美里さんの瞳をしっかりと見返しながらハッキリと言った。
「いえ、あのRZ350は克弥さんのモノです。
克弥さんが、乗れなくなっても大切に保管しておいたRZを、俺が貰う訳には行きません」
美里さんと徳光さんが驚いた様な表情を見せ、そして同時に安堵の表情へと変わる。
「そうだよ、美里ちゃん。彼の言うとおりだ。
克弥は昔から、俺が死んだらRZを墓石代わりにしてくれ、
とまで言っていたからな……」
徳光さんが独り言の様に呟くのを聞いていた美里さんの顔がくしゃ、と歪んだ。
「克弥……克弥……!!バカな克弥……可哀相な、かつ……や……!」
そして、顔を両手で覆って号泣しだした美里さんを徳光さんが抱き締める。
「ショウ……」
小さな呟きと共に、俺の胸に飛び込んできた最愛の少女を抱き止めながら、
俺の瞳からも止め処なく涙が溢れ出してしまっていた。
翌朝五時半、突然やって来た徳光さんの軽トラに乗った俺は徳光さんの家のガレージへと連れて行かれた。
「ポンコツだが、キミにあげよう。乗って帰って要らなくなったら、売っ払うなり下取りに出すなりすれば良い」
寝惚け眼の俺は徳光さんの言葉の意味が良く解らず、「はあ」とだけ答えてガレージの中に入った。
が、ガレージの壁際に置かれたバイクを見て一気に目が覚める。
「こ、これは!」
鈍く光る、特徴的な縦置きクランクのVツインエンジン。
750ccと見紛わんばかりの巨大なパールホワイトのボディ。
サイドカバーに光る、ヨーロピアン・ツアラーを主張する「EURO」の立体エンブレム。
「……CX-EURO!」
そこには400ccとは思えない威風堂々とした体躯を持つ400ccツアラー、
ホンダ・CX-EUROがどん、と鎮座していた。
「デカくて重いがそこそこ走るし、ツーリングにはもってこいのバイクだよ。
車検は後一年くらい残っているからそれまで乗るもよし、乗って帰って買い換えるもよし。
ワシはもう乗らないから、キミにあげよう」
俺は白く輝くCX-EUROに近寄り、125カタナの倍ほども有りそうなタンクに手を置いて見た。
タンクから感じるひんやりとした感触に、心臓の鼓動が早くなってくるのが解る。
ヨーロピアンツアラーが好みの俺には、まさにストライクゾーンど真ん中のバイクだ。
「本当に、良いんですか?」
徳光さんはポンコツ、と言ったが、走行距離こそ三万キロを越えているが程度はかなり良さそうだな。
「ああ、俺ももう全然乗らなくなっちまったしな。
克弥が足を痛めて、一緒に走れなくなっちまってから……」
少しだけ、哀しげな色を含ませた徳光さんが呟くのを聞きながら俺は努めて明るく振り返り、
「それじゃあ、お言葉に甘えます!名義変更は帰ったら直ぐにやりますね!」
と笑顔で徳光さんに礼を言った。
「ああ、任意保険もまだ有るから、名義変更が終わるまでは付けておこう。
あと、あのカタナの処分も任せておきなさい」
俺は徳光さんのありがたい申し出を謹んで受け、巨大な白鯨に跨り、
柔らかなVツインサウンドを愉しみながら遥と美里さんが待つ家へと戻った。
「それじゃあ、気を付けて。
……また、遊びに来てね」
翌朝、喪服を着た美里さんに見守られながらEUROに荷物を括り付け、エンジンを掛けて暖気する。
俺と遥も出席しようと思ったのだが、徳光さんと美里さんに
「田舎の堅苦しい、閉鎖的な式になんんか出る必要は無い。
それよりも早く帰らないと、受験勉強出来ないだろ?」
「そうよ、それにまだツーリングで行く場所が残ってるんだから楽しんで行きなさいな。
……今年の夏休みは、もう二度とやって来ないんだから」
と説得され、村が騒がしくなる前に発つ事になったのだ。
「おばさん、気を落とさないでね……ママにはあたしから説明しておくから」
少し涙ぐんでいる遥をぎゅっと抱き締め、「ありがとうね、遥ちゃん」と呟く美里さん。
「お世話になりました。今日から忙しくなるのにお手伝いできなくてすみません」
俺は抱き合う二人を見ながら、美里さんに声を掛ける。
「いいのよ、そんな事……ショウくん、本当に色々とありがとう。
余計な事かもしれないけど、遥ちゃんを大切にしてあげてね」
「はい、約束します」
俺をじっと見詰め、美里さんが泣き笑いの様な表情を作る。
その時、遥が
「あ、ごめんなさい、あたし一応トイレに行っておくわね」
と言いながら母屋へと小走りに向かう。と同時に、徳光さんが
「ワシもちょっと小便してくるかな」
と言って裏手にある外便所に向かって姿を消した。
二人の姿が消えた後、俺がなんとなく気まずい雰囲気を感じていると、美里さんが俺を見詰めながら口を開いた。
「良いわね、遥ちゃんは……ショウくんみたいに素敵な彼氏が居て」
「あ、え〜と、いやその、ありがとうございます」
俺はなんと答えて良いか迷いまくり、頓珍漢なお礼を言ってしまいかあっと赤面してしまう。
「ごめんなさい、ショウくん……ちょっとだけ、胸を貸して」
突然、綺麗な顔をくしゃ、と歪めた美里さんがぎゅっと俺に抱き付き、小さな嗚咽を漏らし出した。
「美里さん……」
俺は何か言わなければ、と焦ってしまうが、こういう時に限って何も気の利いた言葉が浮かんで来ない。
その時、突然オヤジの言葉が脳裏に閃いた。
”いいか、ショウ。女の子が泣いていたらぎゅっと抱き締めてキスをしてやれ。
そして、涙をキスで拭ってやるんだ。そうすれば、きっとその娘は笑顔になる”
……キスは無理だけど、ね。
「あ……」
俺が震える美里さんの華奢な体をぎゅっと抱き締め、綺麗な黒髪を優しく撫ぜると
美里さんが小さく、本当に小さく驚いた様に喘いだ。
そして俺は大きく見開かれた美里さんの瞳から流れている涙を、そっとキスで拭う。
「ショウ、くん……」
もう一度ぎゅっと抱き締めると、小さく俺の名を呟きながら美里さんが俺の体に廻した手に力を込めた。
「ありがとう、ショウくん」
そして、俺の胸に手を当ててすっと体を離し、切なげな微笑を見せてくれた。
「じゃあ、また落ち着いたら遊びにおいで。今度はワシの家でご馳走してやろう」
トイレから戻った徳光さんが微笑みながら声を掛けて来るのに、
「ええ、必ず来ますね!楽しみにしています」
と微笑み返し、EUROに跨る俺。
遥はEUROの広く快適なリアシートに感動し、ニコニコしながら美里さんと談笑している。
「それじゃあ、また来ます!」
「さよなら!また来ます!」
しっかりと俺に抱きついた遥の感触を確認してから、俺はEUROをスタートさせた。
バックミラーに手を振る二人の姿を写しながら、村道から国道へと曲がり、スピードを上げる。
柔らかなVツインサウンドを響かせながら快調に南下する途中、あの崖の上に差し掛かったので、
俺はEUROを停めて遥と一緒にひしゃげたガードレールの上から用意しておいた花束を海に投げ込んだ。
「さよなら、カっちゃん……さよなら、カタナ」
小さく呟く遥の肩を抱き寄せ、俺はしばらく黙祷する。
「さあ、行こうか」「うん!」
俺と遥は再びEUROに跨り、琵琶湖を目指して走り出した。
「ねえショウ、本当はこのバイクよりもカッちゃんのRZの方が欲しかったんじゃないの?」
しばらく国道をノンビリと走っていると、遥がメットをコツンと当てながら悪戯っぽく聞いて来たのに
「いや、俺はこのEUROの方がマッタリした走りで好みだよ。
じゃじゃ馬は一人でたくさんだしな」
と何気なく答える俺。
「ふ〜ん。……ってショウ、じゃじゃ馬って誰のことぉ?」
……あ。
「いやこのそのあのどの……!!」
「なによぅ!あたしがじゃじゃ馬だって言うのね!!」
「うわばか止めろ遥危ねぇって!!」
チョークスリーパーを掛けて来る遥に必死で抵抗する俺だが、遥は離れない。
「おい遥、マジで止めろって!!」
必死の俺の叫びが通じたのか、ふっと遥の腕から力が抜ける。
「ねえショウ、また来れるよね……おばさんの所へ」
俺の腰に廻した手に力をこめながら小さく呟いた遥に、
「……ああ、必ず来ような」
と優しく答える。
その時には、美里さんの心からの笑顔が見られるだろうか……
「ずっと、ずっと一緒に居ようね。約束だよ……」
遥が耳元で呟くのを聞いた俺は
「もちろんだよ」とだけ答え、何故だか妙な気恥ずかしさを感じてしまい
「ようし、ちょっと飛ばすぞ!」
と叫び、心が温かなモノで満たされるのを感じながらアクセルを開けて穏やかに加速を始めた。
また来年も、遥と一緒に幸せな夏の日を迎えられる事を祈りながら。
Ending Image Song : さよなら夏の日
Artist : 山下達郎
それすらもまた、平穏なる日々 夏休スペシャル
「さよなら、夏の日」
Presented by Syogo Hazawa
2008.Aug.28