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さよなら、夏の日 後編

こんばんは、作者です。

お待たせしてしまいましたが、再開させて頂きます。

当初は三本完結の予定でした夏休みスペシャル、

もう一編増えまして四部構成となりました!

明日、完結編を投稿致しますので、どうぞお楽しみに!

「…!」「……!!」

うん、確かに何か、まるで言い争うような声が聞こえてくる。

「もしかして、おばさんとカッちゃんがケンカしてるのかな」

俺の後ろで、俺のTシャツの裾を握り締めて心細げについてくる遥が小声で呟いた。

「ああ、そうかもしれないな」

俺も小声で遥に答え、先程の二人の様子を思い出す。


克哉さんが帰ってきた時の美里さんの様子は、普通の姉弟と言う関係だけではない、

なにか違う雰囲気を感じさせられたよな……なんというか、う〜ん……

俺が先程の二人から感じた違和感をうまく表現出来ずに、自分の中だけで戸惑っていると

「ねえショウ、あの部屋から聞こえてくるみたい」

と遥から掛かった声で現実に引き戻された。

っと、いつの間にか階段を上って二階に来てるじゃないか。

「あ、ああ。あそこは誰の部屋なんだ?」

「う〜ん、確かカッちゃんの部屋だった様な、おばさんの部屋だったような……ごめん、覚えてないよ」

そりゃ、以前来たのは中学の頃だって言うし、これだけ広い屋敷じゃ覚えてるわけないよな……

しかし二階にもいくつも部屋があるし、廊下は途中でクランク状になってるし、本当にだだっ広い家だよな。

「ショウ、やっぱりあそこの部屋から聞こえてくるよ」

暗闇の中、じっと俺を見詰めながら不安そうな声で囁いて来る遥の唇に軽くキスをしてから、

「よし、そっと近づいて見よう」

俺は足音を殺して、怒鳴りあうような声が響くその部屋に近付いて行った。



「……メ!やめ……」

「……って、……くせに!」


部屋に近付くに連れ、段々と聞こえてくる声が美里さんと克哉さんのモノだと言う事が解ってくる。

なにか、言い争っている様だけど、さっきの克哉さんの態度を美里さんが責めてるんだろうか?


「ああっ!ダメ!遥ちゃん達が居るのよっ!!」


その時、一際大きく美里さんの叫び声が響いた。

「あたしが居るから、何がダメなの?」

二人の声が響く部屋の唐紙の前で身を伏せた俺に重なるようにもたれた遥が当惑した様に呟く。

俺は応えずに、そっと唐紙を少しだけ開けて隙間を作り、部屋の中を覗き込んだ。

「!」「ぁ!」

上下に重なりながら部屋の中を覗き込んだ俺は絶句し、遥は囁く様な小声で呟いてしまう。

一瞬、遥の呟きでこちらに気付かれるのではと心臓が冷たくなったが、二人の耳には届かなかった様で気付く素振りは無い。

それにしても、だ……

俺と遥は部屋の中の光景に、唖然としながら固まってしまった。


「ダメよ克哉!もうしないって、約束したじゃな……あううっ!」

「そんな約束してないよ!姉さんが勝手に言っただけじゃないか。俺は、俺には姉さんしか居ないんだ!」


布団の上で、克哉さんに組み敷かれた美里さんの上半身の衣服は剥ぎ取られ豊かな乳房が露になり、

美里さんに覆い被さった克哉さんが荒々しく愛撫している。

俺と遥は一瞬何が行われているのか理解できず、唖然として見詰め続けてしまう。

「あ……うう……」

少しの間、絡み合う二人を呆然と見詰め続けていたら美里さんが涙を溢れさせながら悶え、顔をこちらに向け

「あ……!」

と小さく驚きの声を上げる。

それを切っ掛けに俺が我に返った時、美里さんの潤んだ瞳と俺の目がモロに合ってしまった!

ヤバい!

俺は美里さんが俺達に気付いたので、大声でも上げてしまうのではないかと身を硬くした。

が、美里さんはこちらを見詰めたまま、悲しげな表情で瞳から涙を溢れさせているだけ……

俺は居た堪れなくなり、ぽかんと口を開け惚けている遥を背中に乗せたままそっと立ち上がり、足音を殺して自分達の部屋へと戻った。


部屋に戻った俺達は、黙ったまま別々の布団に入り電気を消した。

俺ももちろん驚いたが、遥にとっては相当衝撃的な光景だっただろうな……

あのくっ付きたがりの遥が、一言も発することなく、俺の布団にも入って来ない。

どれだけショックだったんだろう……

だけど、遥になんて声を掛けたら良いか、俺も解からないぜ。

布団に入ったものの、全く眠ることが出来ずに悶々とするばかりだ。

きっと遥も眠れてないだろうな……俺がひとつため息をついて寝返りをうった時、

「ショウ、起きてるの……?」

遥が俺に、おずおずと声を掛けてきた。

「ああ、起きてるよ」

俺が遥を見ながら応えると、小電球だけ点けたオレンジ色の薄闇の中、遥の大きな瞳がこちらを見詰めている。

「そっち、行って良い?」

心細げな声で尋ねて来る遥に、

「ああ。おいで」

と布団を捲って優しく答えると、おずおずと俺の布団の中にしなやかな身体を滑り込ませてむきゅっと抱き付いて来た。

俺は遥の小さな頭を肩に載せる様にして抱き締めながら布団を掛け、石鹸の香りのするおでこにちゅっとキスをする。

「ショウ、大好き」

遥は小さく呟くと、俺の首筋に唇を押し当てて軽く噛み付いて来た。

遥の背中を優しく撫でて上げていると、五分ほどですやすやと可愛らしい寝息が聞こえて来る。

「おやすみ、遥」

俺の最愛の少女が眠りに着いたのを確認して安堵したせいか、俺も急激な眠気に襲われ、一つ大きく欠伸をした後に意識がすうっと遠退いて行った。



「ショウくん、ショウくん……」

「ん……んあ?」

誰かに呼ばれ、ふと目を覚ますと目の前に美里さんの綺麗な顔が有る。

「あ……おはようございます」

俺は寝ぼけ眼で挨拶しながら、すーすーと寝息を立てている遥の柔らかな身体をそっと退かせて身を起こす。

「ショウくん、ちょっと良いかしら」

「え……はい」

美里さんの声は憔悴し切った様子がひしひしと伝わってきて、何やら穏便な様子ではない。

枕元に置いた時計を見ると、まだ午前五時ちょっと。

俺は不審に思いつつ美里さんに導かれるまま、遥を布団に残して部屋を出た。

「ショウくん、ごめんなさい……」

部屋を離れ、歩き出した途端に美里さんが涙を溢れさせながら俺に謝ってくるのに面食らってしまい、

「え……?一体、何なんですか?なにが有ったんですか?」

俺は狐に摘まれた様に驚いて間抜け声で美里さんに尋ねた。

しかし、美里さんは何も答えずに俺の手を握り、すたすたと廊下を歩いて行く。

俺は美里さんの少し冷たい手の感触に少しドキっとしながら、手を引かれるまま黙ってついて行くしか無かった。

と、玄関まで来た時、差し込んで来る朝日の中、たたきに停めた筈のカタナが見当たらないのに気付く。

「あれ……?」

俺が不審げに上げた声に併せ、俺の手を握る美里さんの手にぎゅっと力が篭った。

「ごめんなさい、ショウくん……あなたのバイクで、弟が……」

そこまで言って、美里さんがぐっと言葉に詰まり、瞳から涙をぶわ、と溢れさせる。

「へ……?」

俺のカタナを、克哉さんが……?

「克哉さんが、俺のバイクをどうしたんですか?」

一体何が起こったのか、さっぱり解からずに混乱してしまいながら美里さんに問うが

美里さんはそれ以上何も言わずに、いや、言えずにボロボロと涙をこぼし続けるばかりだ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

突然、美里さんが俺にぎゅうっと抱き付きながら号泣しだし、「は!?」俺は更に混乱する。

何だって言うんだ、一体……

俺にしがみ付いたまま泣き続ける美里さんを見詰めながら、俺はほとほと困り果ててしまった……


「な!何やってんのよう!?」

と、突然響いた金切り声に驚き、混乱した頭のままそちらを振り向くと遥がワナワナと震えながらこっちを睨んでいる!

「なんでショウとおばさんが抱き合ってんのよ!?」

真っ赤になって湯気を上げている遥に何かを言おうとして、一体何を言ったら良いのか迷いバカみたいに口をパクパクさせてしまう俺。

「おばさん!一体どうしたの?ショウがおばさんに何かしたの!?」

鬼の様な表情で叫びながらツカツカとこちらに向かって来た遥が、俺にしがみ付いている美里さんを優しく引き剥がしながらギン!と俺を睨んだ。

「ち、違うの遥ちゃん……ショウくんは何もしてないわ。

 克哉が……あの子がショウくんのバイクに乗って、どこかに行っちゃったの」


……は?……って!

「「ええっ!!」」

一瞬の間を置いてから、俺と遥がほぼ同時に叫び声を上げる。

「な、何でカッちゃんがショウのバイクを!?」

「どこに行ったか見当はつかないんですか?」

俺と遥に詰め寄られ、悲しそうな顔で首を振る美里さんの口からは言葉が出て来ない。

あまりの事に混乱し、何をすれば良いか、どうしたら良いのか考える事も出来ずに俺達が右往左往し始めた時、

ブルルルル、と車のエンジン音が近付いてきてキー!っと急ブレーキの音が聞こえ、

「美里ちゃんは居るかね!!」

間髪入れずにドンドンと玄関が叩かれて外から大声で美里さんを呼ぶ声が聞こえて来た。

「は、はい!孝光おじさん?」

少し掠れた声で答えながら美里さんが鍵と閂を外して玄関の戸を開けると、いかにも漁師さんといった風情の屈強な中年男性が血相を変えて立っている。

「美里ちゃん、克哉の奴が、バイクで海へ落ちた!」

「え……!!」

美里さんと遥が孝光さんの言葉に絶句したまま、呆然と立ち竦む。

「克哉さんは無事なんですか!?」

一瞬、沈黙が支配し掛けた場の空気を破って俺が叫ぶと、

「あ、いや……あんた、誰だ?」

言い辛そうに言葉を濁した孝光さんが俺を不審げな目で見ながら誰何した。

「あ!この子はおねえさんの娘の遥ちゃんと、お友達の……」

はっと我に返った美里さんが遥のお母さんの名前を出しながら説明すると、

「ああ、そう言えば遊びに来てるって聞いたな……いや、それどころじゃない!

 とにかく来てくれ!早く!!」

警戒を解いた孝光さんがはっとした様に叫びながら美里さんの手を引っ張り、

美里さんも慌ててサンダルを履きながら俺達に

「は、はい!ショウくんと遥ちゃんは家で待ってて!」

と言い捨てて玄関から飛び出て行ってしまった。


「……ショウ、どうしよう……」

少しの間を置き、掠れた声で呟いた遥の声に我に返った俺は、

「俺達も行ってみよう」

と遥に答え、庭の納屋に自転車でも無いかと思い探しに行く。

しかし、ガタガタと納屋の戸を開け、中を覘いた俺の目に飛び込んで来たのは自転車なんかじゃ無かった。

「!これは……」

真っ白なタンクに、鮮やかなブルーのライン。

ブラックに鈍く輝くエンジンと、丸いモナカの様なカタチのマフラー。

そして、サイドカバーに誇らしげに描かれた「350」のエンブレム。

「これは、RZ!」

そこには、かつてナナハンキラーの名を欲しいままにした、ヤマハ・RZ350が静かに眠っていた。



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