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さよなら、夏の日 中編

「まあ遥ちゃん、大きくなって!」

午後八時ジャスト、俺と遥を乗せたカタナは能登半島の先に有る小さな村の、

遥のお母さんの親戚の家へ無事に辿り着いた。

海岸でキスした後、二人してガマンしきれなくなって人気の無い岩場で

大汗掻きながら頑張ってしまったので到着が随分遅れたのはナイショの話しだ……

「こんばんは、おばさん!本当に久し振りだね」

来るのは中学生以来だと言う遥は涙を浮べながらおばさんに抱き付いている。

おばさん、とは言え、遥のお母さんの従姉妹だというその女性は

まだまだ若く、また遥にどことなく似ていてかなりの美人だ。

「おばさん、彼があたしの幼馴染で彼氏のショウよ!よろしくね!」

しばらく再会を喜び合っていた二人だったが、一段落着いた所で遥が俺をおばさんに紹介してくれた。

「まあ、あなたが噂のショウくんね。遠い所をようこそ!

 私は遥のおばの美里(みさと)です。よろしくね」

「あ、初めまして!厚かましくお邪魔してしまって申し訳有りませんが、お世話になります」

線の細い、儚げな雰囲気を漂わせる美里さんにちょっとドキッとしながらバッと頭を下げる俺。

「さあ入って!今日はあなた達が来るからご馳走にしたの。

 あ、でもその前にお風呂に入って汗をながしちゃった方が良いかしら?

 まだ克弥(かつや)も帰ってきてないし」

嬉しそうに俺達を玄関に誘う美里さんの言葉に、

「え!カッちゃん帰って来てるの!?」

と遥が驚いたように声を上げた。

「ええ、今年の春に名古屋から帰って来たの。

 こっちでは本家の手伝いをしてるのだけど……」

一瞬、遥に答える美里さんの表情が曇ったのを不審に思った俺だが、

克弥、と言う人物が誰なのかも解らないのだから反応しようも無い。

「懐かしいなぁ……カッちゃんと会うのは、中学一年の時以来かな。

 あ、カッちゃんはね、おばさんの弟さんなの。

 あたし達より四つ年上だから、えと、二十二歳になるのかな?

 あたしン家が能登にちょくちょく来てた頃には、あたしやカナサリはカッちゃんに凄く可愛がってもらってたの」

遠い目をして想い出に浸りかかった遥だったが、ハッと俺の事を思い出した様で急いで俺に説明してくれる。

「さ、いつまでもこんな所で話し込んでないで、お風呂に入ってさっぱりしちゃってね!

 克弥ももうそろそろ帰ってくると思うから」

俺達はニコニコと笑う美里さんに導かれ、大荷物を抱えて家の中に入った。


「ふ〜、極楽極楽!」

真っ黒に日焼けした背中を石鹸でゴシゴシと擦ってやると、気持ち良さそうにオジン臭さ全開で遥が溜息をついた。

お風呂に入る前、さすがに別々にしないとまずいだろうと思った俺達だったが

「あら、遠慮しなくたって良いのよ!おねえさんからあなた達がどれだけラブラブなのかは聞いてるから」

とにこやかに微笑む美里さんに言われ、それでは遠慮なく、と二人して入浴させてもらう事にした。

それにしても、だ……

「なあ、遥。でかい家だな、ここ。風呂も五〜六人入れそうだし」

着いた時から思っていたのだが、この家はかなり古いのは確かだが、驚くほど広い。

カタナを停めた玄関も古い農家によくあるタタキ、ってヤツで、

普通に軽自動車位なら車庫代わりに駐車できそうだ。

部屋もたくさん有る上、タタキを上がってすぐの広間は十数人で食事出来そうだ。

「ええ、このお家は昔の庄屋さんのお屋敷だからね。

 でも、ここよりも本家の方がもっと広いのよ。本家はこの辺りの漁師さんの元締めだから。

 と言ってもね、この辺りの家の人はみんなほとんど親戚なのよ。

 だから苗字も同じ人が多いし、あんまり他の地域との交流もないみたい」

遥の解説にほう、と感嘆の声を上げながらザバっとお湯を掛けて石鹸を流してやる。

「今度はあたしが洗ったげる!」

にんまりとしたアヒル口でくるっと振り向いた遥の胸がぶるん、と揺れるのを見た俺は

「あ、ああ頼むぜ」

思わずぎゅるん、と元気さを増してしまう不肖の息子をタオルで隠しながら急いで後ろを向く。

「んっふっふ〜、なんだか一部がとっても元気になってるみたいなんだけどぉ?」

ぐわば!と背中に抱き着いて息子を掴んできた遥に

「バ、バカもの!何をしているのだ己はぁ!」

と大声を上げながら抵抗しようとする俺だったが、肝心要の息子を握られていては迫力無い事夥しい。

「あたしの胸をスポンジ代わりにして背中洗ってあげるね〜♪」

ひょい、と片手で石鹸を胸の谷間に入れた遥が、むぎゅっと押し付けた胸をんしょんしょと上下させて背中を洗い出す。

「ちょ!おま!気持ち良過ぎるっつーの!!」

「えへへ、嬉しいな。もっと気持ち良くしてあげる」

……結局、一時間近くも風呂でジャレていた俺達は、美里さんが心配して様子を見に来た頃には

すっかり茹蛸の様になってのぼせてしまっていた。


「いただきま〜す!」

「いただきます」

大きなテーブルの上には海の幸がドンと広がり、俺と遥は瞳を輝かせながらがっつき始めた。

「おいしー!」

「うん、ホントに美味しいです」

刺身の盛り合わせ、焼き魚、煮魚、うに、カニ、漁師汁……

新鮮なのはもちろん、美里さんの料理の腕前は相当なものだと言う事が解る。

「あら、嬉しいわ。たくさん食べてね」

にっこりと微笑みながら給仕をしてくれる美里さんに頷きながら、俺と遥はガツガツと料理を貪り食った。

「ふい〜、満腹満腹」

ぽこっと出たお腹をぽむぽむと叩きながら満面の微笑を見せる遥を見て美里さんが楽しそうに笑い、

「遥ちゃんはホント変わらないわねぇ。あの頃の、元気でやんちゃなまま」

と少し遠い瞳を見せながら独り言の様に呟く。

「美里おばさんだってぜんぜん変わらなくてビックリしちゃった!

 いつまで経っても綺麗なままだし。ママなんて結構目尻の皺が目立つようになってきたのよ」

にんまりとしたアヒル口でとんでもないセリフを吐いた遥に、俺は思わず真っ青になってしまう。

「おい遥!そんな事をデカい声で……」

っと、ここにはおばさんは居ないんだっけな。

しかし、(コイツ)も懲りないよなぁ……

「だ〜いじょうぶ!ママ居ないモン!」

ペロっと舌を出しながら遥が言い、俺と美里さんが思わず顔を見合わせて苦笑した時。

ガラ、と玄関の戸が開き、「ただいま」と小さく誰かの声が響いた。

「あら、克弥。お帰りなさい」

一瞬嬉しそうな、哀しそうな、なんとも言えない表情を見せた美里さんが立ち上がりながら答え、「え!カッちゃん帰って来たの!」

と言いながら遥もバッと立ち上がり嬉しそうに美里さんの後に着いて行く。

一瞬、俺はどうしようかと迷ったが、俺一人で残っても仕方ないし、

ちゃんと挨拶をした方が良いだろうと思い俺も二人の後を追って玄関に向かった。


「お帰りなさい、カッちゃん!

 お邪魔してます!ホント、久し振りだね!」

少し遅れた俺が玄関に着いた時、満面の微笑みの遥が克弥さんに挨拶をしている所だ。

「……ああ、遥か。久し振りだね」

遥を見て優しげに微笑んだ克弥さんだったが、俺の姿を認めた瞬間にその表情が一瞬で険しくなった。

「誰だ、貴様」

挨拶をしようと口を開き掛けた俺の口から声が出る前に、克弥さんの口から敵意が形となった様なセリフが吐き出され、

俺は思わず口をパクパクさせながら言葉に詰まってしまう。

「克弥!なんて事を言うの!?彼は遥ちゃんの幼馴染で彼氏のショウくんよ!

 今日、二人で来るって言って置いたでしょ!」

美里さんが厳しい口調で咎めるが、克弥さんはフン、と鼻を鳴らし

「……ああ、そうだっけ。姉さん、遥がバイクで来るって言ってたね。

 って、バイクってこれかい?」

相変らず険悪な雰囲気を漂わせた目で俺を見ながら、俺のカタナを見てせせら笑う。

俺は、カッと熱くなる激情を苦労して抑えながら

「……ショウです。お世話になってます」

とだけ、辛うじて平静さを装って挨拶をした。

「遥、こんなチンケな原付でよくココまで来たね。

 帰りは運賃出してあげるから、電車で帰った方が良いんじゃないか?」

美里さんや遥に見せていた優しげな顔の面影も無い、憎しみの篭った表情で

俺を睨みながら吐き捨てる克弥さんに、遥が大口を空けたままポカンとしてしまっている。

「克弥!いい加減にしなさい!!」

切れ長の瞳から、怒りの余りだろうか涙まで零しながら怒鳴る美里さんを一瞥した克弥さんは

「今日は晩飯要らないから」

とだけ言い捨て、ドタドタと激しい足音を響かせつつ去っていった。


すっかり興を削がれてしまった俺と遥は、必死で謝る美里さんに気にしてませんから、と答えて

美里さんが用意してくれた一階の奥に有る客間の布団に寝転んでいた。

「ゴメンね、ショウ……あんな態度を取る様なひとじゃなかったんだけど」

遥もすっかりシュン、となってしまい、しきりに俺に謝ってくる。

「いいさ、気にしてないから。きっと克弥さん、なんか嫌な事でも有ったんだろ。

 誰だって虫の居所の悪い時は有るさ」

俺がそう言いながら、ションボリとしてしまった俺の最愛の少女のグラマラスな体をぎゅっと抱き締めると

「……えへへ」

と、嬉しそうにアヒル口をニンマリとさせ、さっきまでのショゲ具合はどこへやらで

嬉しそうに俺の背中に手を廻して、むぎゅっと抱き締め返してきてくれた。

「ショウ、大好き」

俺の瞳をじっと見詰めながら、大きな瞳を潤ませて唇をそっと突き出す遥に堪らなくなり、

「ああん……」

俺は遥を布団の上に組み敷きながら、可愛らしい唇を少し強引に奪う。

「ん……」

遥が小さく喘ぎながら瞳を閉じ、俺の首に手を廻して唇の感触を楽しむ様に軽く擦り合わせて来る。

と、その時、俺の耳にどこからか叫び声の様な、悲鳴の様な声が聞こえて来た。

「……んむ?」

遥の唇の感触を惜しみながらそっと顔を上げると、

「やあん……もっとチュウしてよぉ……」

とイヤイヤをする様に首を振りながら遥が文句を言って来るが

「何か、聞こえないか?」

「え?」

俺の真剣な顔に驚いたのか、遥も体を起こしながら耳を澄ました。

「……ええ、何か、怒鳴り合うような声が聞こえて来るわ」

やはり、空耳じゃないな。

時計を見ると、いつの間にか午前二時近くになっている。

「気になるな……」

「そうね……」

俺と遥は顔を見合わせて頷くと、下着姿かた短パンとTシャツに着替え、

足音を忍ばせつつそっと廊下に出て、声のする方を探りながら歩き出した。



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