予感……?
お茶を頂いてから俺は一度自分の部屋に戻る事にして、遥の家を後にした。
「ショウくん、今日はバイトでしょ?
カレー有るから、帰ってきたらおいでなさいね」
ニコニコしながら俺を見るおばさん。
「ショウ……頑張ってね」
メソメソしながら俺を見る遥。
玄関先まで出た俺を見送りながら、キスしちゃう気満々だった遥の目論見は
「たまには私もショウくんを見送ろうかな」
と言いながら一緒に出てきたおばさんによって、ものの見事に潰えたワケだ。
そりゃもちろん、俺だって遥とキスをしたかったがこの状況下で、しかもまだ真昼間の玄関先で
堂々とキスなぞするのはヤバい事この上ないのだが、脳みそピンク色と化した遥は一向に気にしない。
先日も、夕方帰り掛けに遥がどうしてもとせがむので軽くキスをしたのをお隣のおばさんに見られ
「あらあら〜、熱々ねぇ」
と冷かされた上にご近所中に話されてしまい、途轍もなく恥ずい状況となっているワケだが……
「さ、バイト行かにゃ」
俺は小走りで家に帰り、DT50に跨りバイトへと向かった。
「おう、もう今日は片付けようぜ」
社長に言われ、表に並べてある中古車を店内に入れ様と外に出ると、綺麗な星空が見えている。
「う〜ん、明日も天気良さそうだな」
う〜ん、と伸びをしながら独り言を言った時、
「そうね、しばらく良い天気が続きそうね」
と聞き覚えの有る声で応えられ
「うわ!?」
と驚きながら声の主を探し、
「あ、亜由美!」
人影もまばらになった歩道に、可愛いミニのワンピース姿の亜由美が微笑みながら立っているのを見出した。
「こんばんは、ショウくん!アルバイトお疲れ様!
遥ちゃんもショウくんも、もう風邪は大丈夫なの?」
ぎくうっ!!
そう言えば、今日は二人揃って休んだんだよな。
亜由美の事だから同じクラスの遥はもちろん、俺が休んだ事も知ってるだろうし……
休んだのにバイトしてる俺って、かなり怪しいな、常識的に考えて。
「あ、ああ。
沙里と香奈に風邪貰っちまったみたいで、二人纏めてダウンしちまった。
だけど俺は午後から熱も下がったから、バイトには来たんだよ。
生活費を稼がなきゃならないしな」
あたふたしながらも、なんとか言い訳を思い付き捲し立てる俺。
しかし、逆に怪しまれちまったかな……?
「ショウくん、こんばんは。無理しちゃダメよ」
その時、助け舟を出す様に色っぽい女性の声が響いた。
「え?」
間抜けな声を上げながらふと見ると、亜由美の後ろには、艶っぽく微笑むまどかさんが買い物袋を持って立っている。
「あ、こんばんは。お買い物ですか?」
俺はまどかさんに挨拶しながら、そう言えば、俺のバイトしている店から亜由美の家が近い事を思い出した。
「そうよ。今晩は亜由美と私で土曜日の仕込みの為準備をするの。
じっくりと煮込んだおいし〜いものをご馳走するから、楽しみにしててね」
まどかさんの料理の腕はプロ並みだからな……こりゃ、期待出来そうだ。
って、そんな事喜んでいる場合じゃ無いんだけどな。
「ショウくん、バイトは何時までなの?」
俺の腕に自分の腕を絡ませながら、亜由美が軽く抱き付きつつ聞いて来るのに
思わず胸の鼓動が2オクターブ程跳ね上がる。
むにゅ、と押し付けられた柔らかな胸の感触で亜由美の魅力的な裸体を思い出しちまうよ……
「あ、ああ、後は片付けだから三十分位かな」
「じゃあ、ウチに来てご飯食べてきなよ!今日はまどかさん特製の焼豚と八宝菜だよ!」
豊かな胸を更に押し付けながら、亜由美が俺にぎゅっと抱き付く。
や、やべぇ……反応し始めやがった。
この馬鹿息子、見境無しかよ。
ついついニヤけ面になりながら一瞬戸惑った瞬間、まどかさんからの視線を感じて顔を上げる。
すると、優しく微笑みながら、しかし強い光を持って俺を見詰めるまどかさんの瞳があった。
「ありがとう、亜由美。だけど今夜は遥の家でカレーを作ってくれているから、遠慮させてもらうよ。
まどかさんとお前の料理は、土曜日の楽しみに取っとく事にさせてくれ」
俺がそう言いながら抱きついている亜由美の肩に手を掛け、そっと体を離させると
「そう……残念だな」
哀しげな声で言いながら、潤んだ瞳で俺を見詰めて来る。
「ゴメンな」
その瞳にいたたまれなくなった俺は、亜由美から目を外してバイクを片付けを再開した。
「亜由美、ショウくんのお仕事の邪魔になるから帰りましょ。
じゃあね、ショウくん。おやすみなさい」
「あ、はい。おやすみなさいまどかさん。
……おやすみ、亜由美」
まどかさんの声にハッとしながら亜由美を見ると、その瞳に少し涙が盛り上がってるのを見付けた。
だけど、俺は気付かない振りをしながら亜由美に向かって、精一杯の笑顔で微笑んだ。
「うん、おやすみショウくん。また明日ね」
くすん、と小さく鼻を啜った亜由美がぱあっと微笑みながら俺に応える。
亜由美、もう薄々気付いてるんだな……
俺は心の底から湧き上がって来る罪悪感に苛まれ、亜由美の可憐な笑顔から瞳を逸らした。