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お説教!

とりあえず、ビビりながらもおばさんをキッと睨みつけている遥をなんとかしないと状況は悪くなるばかりだ。

だが、この状態で俺が普通に嗜めようとすると、遥はきっと

「なによ!ショウはあたしと一緒に居たくないの!?」

とか駄々を捏ねるだろうから、その時の対応策も考えて、と……

「いい加減にしなさい!そんなに我が儘ばかり言うのなら、私にも考えが有るからね!」

鬼の形相のおばさんが今までよりも一オクターブ高い声で遥を怒鳴りつけた。

っと、ヤベェ!おばさんの堪忍袋の緒が切れそうだぞ!?

急いで対応しないとヤバい事になる!

「おばさん、ちょっと良いですか?俺が遥に言い聞かせますから」

俺はかなりビビりながらでは有るが、勇気を振り絞りおばさんに向かって懇願した。

「……ショウくん、ちょっと黙っててくれる?

 今、私がこのバカ娘にしつけをしているのだから」


……ハイ、スミマセンでした……


と半泣きでビビりながら引っ込み掛かる自分の根性を叱咤激励し、俺はもう一度おばさんに懇願する。

「はい、すみま……じゃなくって、確かにおばさんの言われる通りなんですが、

 今回の一件には俺も深く関わっているワケですし、今ヒートアップしているおばさんと遥が

 このまま話をしても事態は悪化する一方だと思えますし」

切れ長な、色っぽいおばさんの瞳を気合を入れて真摯に見返しながら俺は一言一言確認するように言葉を吐き出す。

「……そうね、貴方たち二人の問題でも有るものね……良いわ、ショウくん。

 遥にあなたからお説教してみて。その後の遥の態度によって罰を決めます」


あちゃー……さっきの二週間俺ん家出入り禁止よりも重い罰が来る事は間違いないぞ、これは。

だが、最悪の方向への展開だけは回避できたみたいだが。

「じゃあ、失礼します」

俺はひとつ深呼吸し、おばさんから遥に振り返った。

「ぐすっ、ひぐっ、ふえっ……」

と、俺の目に涙と鼻水でぐしゃぐしゃの遥の可愛らしい顔が映る。


「プッ」


俺は我慢し切れずに、しかつめらしい表情は全く崩さずに、本当に小さく、聞こえるかどうか位のレベルで噴出してしまった。

「……ショウくん、今「プッ」とか言わなかった?」

背後から凄まじい怒気とともにおばさんの穏やかな声が掛けられる。

「と、とんでもないです!」

俺は自分の腿をぎゅむうと抓り上げながら、平然とした様子を装いつつおばさんに答えた。

危ねぇ危ねぇ、自分で全てをぶち壊すところだったぜ……

冷や汗を掻きつつも再び深呼吸をし、改めて遥に向き直ると、

遥は俺の顔をじっと見詰めながらしゃくり上げ続けていた。


「さて、遥、俺の話を聞いてくれ」

「なによう!ショウはあたしと一緒に居たくないの!?」

おま……いきなり予想通り過ぎんだろ。

ってか、まだ何も言って無ぇだろが。

思わず額を抑えながら溜息を一つつき、

「まだ何も言ってないだろうがよ……ちょっと落ち着けよ」

と言ってティッシュを取り出し、遥のつんとした形の良い鼻に当てる。

「ほら、鼻水出てんぞ。ちーんしなさい」

ちーん!

俺の言葉にほぼ状況反射でちーん!と鼻をかむ遥。

その時、背後からビンビンに吹き付けてきていたおばさんの怒気がふっと緩んだのを感じた。

「なあ、遥。俺達、今までおばさんにはかなり自由にやらせてもらってきただろ?

 いくらお前と俺が幼馴染で、俺んちとお前んちが家族同然の付き合いだったからって

 普通、こんなに大らかに見守ってくれる状況なんてちょっと無いぜ」

大きな瞳にキラキラ光る涙をいっぱいに溜めながら、じっと俺の声に耳を傾ける遥。


うあ、やべぇ、むちゃくちゃ可愛いじゃねぇか……むぎゅっと抱きしめて頬擦りしたりキスしたりアレしたりしたくなっちまう……


ムクムクと湧き上がってくる欲望を必死で抑え付け、俺は話を続ける。

「だけど、俺達はちょっとその状況に甘え過ぎてたよな。

 もちろん、お許しの有る限り甘え続けて行きたいけれど、今回みたいな事が続いたら

 せっかく俺達を信頼して自由にさせてくれているおばさんやおじさんを裏切る事になるんだ。

 そうなると、俺達は信じて貰えなくなって行っちまう……解かるよな、俺の大好きなお前なら」

噛んで含めるように、一句一句をしっかりと発音し、遥の目をじっと見詰めて離す。

遥の瞳から少しずつ涙が退いて行くのがわかり、俺は少し胸を撫で下ろした。

「だから、今回しでかしちまった事に対してキチンと罰を受けて反省し、誠意をおばさんに見て貰うんだ。

 そうすれば、きっと今まで通りに俺とお前が付き合っていくのをおばさんも許してくれる筈さ。

 ね、おばさん?」

俺は内心かなりビクビクしながら、だがそれを表には出さずに勤めて明るい笑顔でおばさんを振り返った。

「……しょうがないわね、ショウくんには適わないわ。

 遥、本来ならショウくんの説明した事をあなた自身に気付いて欲しかったわ。

 でも、ショウくんラブラブで頭の中がピンク色のあなたには無理だったみたいね」

すっかり穏やかな雰囲気に戻ったおばさんが、腰に手を当てながら遥に向かって優しく問い掛ける。

「……はい、ごめんなさい、ママ……」

遥もすっかり大人しくなり、しゅんとして俯き深く反省している様だ。

「うん、解かった様だから良いわ。じゃあ、さっき言った通り、来週一杯はショウくんの部屋に行く事は禁じます。

 だけどそれ以外は今まで通りで良いから。ショウくんも家にご飯食べに来るのも遠慮しないでね」

本来なら二週間出入り禁止、だったのを微妙に来週一杯の一週間半におまけしてくれながらおばさんがウインクする。

「はい、ありがとうございます」

「はい、解かりました、ママ……」

俺と遥はハモる様に応えながらバッと頭を下げた。




「あ!そうだ!今週末……」

お説教も終わり、おばさんが入れてくれたお茶と手作りのフルーツタルトを頂きながら談笑を始めた途端、遥が大声で叫んだ。

「あ!そうだ!忘れてた!!」

そして俺も今週末の、亜由美に俺達の事を話すという大事な仕事を思い出して叫んでしまう。

「え?今週末がどうかしたの?」

叫んだ後に顔を見合わせながら困ってしまった俺達に、おばさんが不思議そうに声を掛けて来た。

「えーとですね、今週末、実は……」

俺はおばさんに今週末の事をかいつまんで説明する。

先日、亜由美のお義母(かあ)さんであるまどかさんが来て、亜由美に俺と遥が付き合っている事を知らせる事をお願いされた事、

また、その時には俺だけじゃなくて遥も一緒に行くと約束した事……

「ああ、そのお話なら聞いてるわ。すっかり忘れてたけど」

うふふ、と微笑むおばさんの口から飛び出た言葉にびっくり仰天する俺と遥。

「ええ!?だ、誰から聞いたのママ?」

遥の疑問は俺の疑問と正確に一致している。まさに俺もそれを聞きたい!

「昨晩ね、まどかさんから電話が有ったの。今週末、ショウくんと遥ちゃんを辛い目に遭わせてしまって申し訳ありません、ってね」

……はあ、さすがというべきか何と言うべきか……

凄く有能な雰囲気を感じたけれど、こりゃ予想以上に手抜かり無いな。

「だから安心して行ってらっしゃい。ご飯もご馳走になってくるんですってね。

 だけどあんまりハメを外しちゃダメよ?」

優しげな微笑のまま、俺達に言うおばさんには苦笑を向ける他無い。

っつっても、ハメを外すような楽しいイベントじゃないって事は百も承知で言ってるんだろうけど、ね……



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